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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第八章 終焉の胎動と侵食される聖域

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第85話 SSSランクへの進化、最凶の百鬼夜行。

 迷宮の異変は、もはや一つのダンジョンという枠組みを軽々と超え、王国全土を揺るがす未曾有の天災へと変貌していた。


 王都から派遣されていた視察団が「おもてなしの迷宮」で消息を絶ち、直後に迷宮全体が禍々しい赤黒いオーラに包まれたという報告が舞い込んだとき、王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。シルフィア王女は、信頼していた迷宮からの急報に顔を青ざめさせながらも、即座に近衛騎士団の展開を命じる。

 しかし、現場に到着した騎士たちが目にしたのは、彼らが知る「安全で平和なFランクダンジョン」の姿ではなかった。


 「な……なんだ、これは。報告にあった迷宮とは、まるで別物ではないか!」


 騎士団長の叫びを裏付けるように、迷宮の入り口からは、生物の腐敗臭と高濃度の魔力が混ざり合った、毒々しい霧が溢れ出していた。ギルドの測定器は、振り切れた針が火花を散らして爆発するほどの大数値を叩き出す。


 かつては愛らしいスライムや、礼儀正しい接客ゴーレムが歩いていた場所。そこから今、這い出してきたのは、全身が剥き出しの筋肉と鋭利な刃で構成された、見る者の精神を汚染するような異形の魔物たちであった。


 「なぜだ!? なぜこれほどの短期間で、平和の象徴だった場所が、これほどまでに邪悪な深淵へと成り果てたのだ!」


 王都の人々は、昨日まで「迷宮への観光」を夢見ていた者たちですら、今はただ震えながら窓を閉ざすしかなかった。昨日まで「聖域」として崇められていた場所が、今日には「世界を滅ぼす源泉」へと変わった。そのあまりの理不尽さと、説明のつかない急激な「進化」に、人々はただ【なぜ!?】という拭いきれない恐怖と疑問を突きつけられていた。


 一方、コアルームでは、魔王が満足げに腕を広げていた。


 「くくく……。これこそが本来の姿。お前が矮小な『日常』のために押し込めていた魔力、そして眷属たちの絶望。それらを触媒にすれば、Fランクという名の殻を破るのは容易いことだ」


 魔王の言葉通り、俺の愛した迷宮は、もはや制御不能な「SSSランクダンジョン」へと強制進化を遂げていた。魔王が偽物のイグニスとキュイを用いて生成した、数百体にも及ぶ異形の軍勢……SSSランク相当の魔力を持つ「絶望の落とし子」たちが、迷宮の最下層から、地上へと続くスロープを埋め尽くしていく。


 それはまさに、文明の終わりを告げる百鬼夜行であった。魔物たちは意志を持たず、ただ魔王の命ずるままに、地上のすべてを食らい尽くすための破壊衝動のみで動いている。


 「なぜ、こんなことに……」


 俺は亀裂の入ったクリスタルの中から、その光景を呆然と見守ることしかできなかった。人々を幸せにするために磨き上げたシステムが、今は最凶の魔物を効率よく送り出すための「射出装置」として利用されている。俺が計算し、積み上げてきた努力のすべてが、今は負の方向にのみ作用し、愛する人々や王国を滅ぼそうとしている。


 (俺が……。俺が良かれと思ってやったことが、すべて裏目に出ているというのか!?)


 モニター越しに、王都の近衛騎士たちが、見たこともない高ランクモンスターの爪によって紙切れのように引き裂かれていく様が映し出される。街の人々の悲鳴が、地脈を通して俺の核へと突き刺さる。


 【なぜ、俺たちがこんな目に。なぜ、あの優しい迷宮が】


 その問いかけは、鋭い刃となって俺の魂を幾度も切り刻んだ。


 「さあ、見届けろ。お前が愛した世界が、お前が作ったシステムによって終わる瞬間をな。これ以上の滑稽な喜劇はあるまい?」


 魔王は、俺をさらに踏みつけながら、愉悦に満ちた声を上げる。


 外の世界では、SSSランクの魔物たちがついに地上へと躍り出ようとしていた。王国の存亡をかけた、最悪のパレード。その先頭には、かつての平和な日常を完全に否定するかのような、圧倒的な死の波動を纏った魔王の直属部隊が控えていたのである。


 俺は、無力なクリスタルのまま、絶望に染まる世界を見つめるしかなかった。だが、その意識の深層で、俺はこれまでに感じたことのない「何か」が、熱く、激しく脈動し始めるのを感じていた。


 ご拝読ありがとうございます。さらなる絶望が迷宮の外まで侵略していく。このまま見ているだけなのか……。

 さて次回は、第86話 ダンジョンコアの苦悩と決断へと続きます。自らのシステムが災厄を振りまく現状を前に、コア様がどのような答えを出すのか。お楽しみに!!

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