第8話 生命の泉での対決と「乗っ取り計画」の結末
ゼノンとリテアは、俺の案内通り、ひっそりとした隠し通路を通り抜けた。
たどり着いたのは、『生命の泉〈ドレイン・チャンバー〉』を改造した憩いの場だった。天井は夜空のように深く青く光り、静かなフルートの音色(吟遊スケルトンの演奏)が流れている。泉のほとりには、Sランク冒険者も愛した『星屑の癒やしジェラート』が静かに置かれている。
「これが、貴様が最も力を入れているエリアと見た」ゼノンは冷たい笑みを浮かべた。
リテアは周囲の魔力パターンを測定し、驚愕の声を上げた。「ゼ、ゼノン様!この空間、『生命力の微細な吸収と放出のサイクル』が起きています!本来はトラップとして機能する回路を、休息による疲労回復の余剰分だけをコアが回収するよう、逆転させている……!これは、極めて高度な魔術構造です!」
「やはりな」ゼノンは泉の縁に腰を下ろした。「低級ダンジョンがここまで長く持続的に成長している理由がわかったぞ。殺戮という不安定な EXP ではなく、休息という安定した EXP を稼ぐ。この発想は、我々魔族の常識にはない」
ゼノンは、核心を突いてきた。「コア。貴様はなぜ、中級に昇格できるほどの経験値を持ちながら、この低級の地位に留まっている?このシステムを完全なものとするため、あえて低級でいるのか?それとも、その平和主義が、昇格後の『殺し合い』を避けているのか?」
俺は、一瞬の沈黙を置いた。真実(踏破=死)を告げるわけにはいかない。
「その問いには、半分だけお答えしよう。中級に上がれば、ダンジョンの構造はより複雑になり、今の精巧な『サービスと素材供給の安定性』を維持するのが困難になる。この低級の枠組みこそが、最高の品質と EXP 効率を維持する『最適な形』だからだ」
俺の答えに、ゼノンは満足げに頷いた。
「よかろう。貴様の才能は理解した。リテア、すぐにこのダンジョンの魔力構造を全て記憶せよ。このシステムは、そのまま魔王軍の『自動兵站施設』として接収する。そのコアは、破壊せずに『研究用サンプル』として保護してやろう」
ついに、乗っ取りの意図を隠さなくなった。ゼノンが立ち上がり、リテアが起動した記録用魔術の起動音が響き渡る。
「さて、コアよ。最後にもう一つだけ、貴様の『最高傑作』を見せてもらおうか。抵抗する無駄な真似はするな」
俺は、この瞬間を待っていた。彼らは、俺が殺傷能力を持たないと確信している。その油断しきっているところへ、泉の魔力回路を、再びかつての『ドレイン・チャンバー』へと切り替えた。ただし、今回は「魔族」にのみ作用するよう、波長を調整した。
ガツン、と、ゼノンの頭の中で鈍い音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ゼノンは魔力障壁を張ろうとするが、無駄だ。これは、物理的な攻撃ではない。コアの魔力と、彼らの「理知」が激しく衝突している。
彼らの脳内には、無数の『清掃ゴブリン』が湧き出し、ゼノンの頭の中の『効率、支配、殺戮』といった思考回路を、一心不乱に磨き上げ始めた。
「キッタネー!汚いアル!汚い思考、全部磨くアル!」
「やめろ!俺の、俺の思考回路だ!邪魔をするな、ゴブリンども!」
ゼノンの理知的な表情が崩壊し、彼は頭を抱えて呻き始めた。リテアもまた、目の前の光景を記録できず、恐怖で動けなくなっている。
俺の「殺傷能力ゼロ」のポリシーは崩していない。彼らの思考回路を破壊したわけではない。ただ、強烈な『清掃衝動』を植え付け、思考を一時的にフリーズさせただけだ。
数分後、頭を抱えたまま放心状態のゼノンと、腰を抜かしたリテアは、俺の魔力に促されるように、ダンジョンから追い出された。
誰も傷ついていない。しかし、魔王軍の二人は、この低級ダンジョンを接収するという使命を、完全に忘れ去った。
清掃ゴブリンが、彼らが踏み荒らした泉の周辺を、念入りに磨き上げている。
これで、当分の平和は約束された。俺は、今日も低級ダンジョンとしての日常を、静かに楽しむのだった。
ご拝読ありがとうございます。清掃の力の勝利。と言っても、直接コアの部屋に来られたら勝ち目はないので、今回は運よくしのげました。次はどうなるか分かりません。それまで、普段通りの日常を過ごして行くとしましょう。脳内洗浄…、ちょっと、怖いですね。それでは、次回もお楽しみに!!




