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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第一章 Fランクダンジョンの安寧

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第6話 Fランクダンジョンの「求婚者」

 マスターポリッシュの成功と、その後の監査による「五つ星」の評価は、低級ダンジョン界隈に静かな波紋を広げた。


「あのFランクダンジョンは、もはやFランクではない。新たなビジネスモデルを構築している」


そんな噂が広まる中、次にダンジョンを訪れたのは、これまでの冒険者や評論家とは全く異なる、非常に特殊な目的を持つ客だった。


その客は、一見すると普通の若い女性冒険者に見えた。しかし、彼女のステータスは、戦闘や探索能力を示す数値が軒並み低く、代わりに『交渉』『投資』『縁結び』といった、冒険とは無縁のスキルが異常に高かった。


彼女の名はリリア。彼女の目的は、このダンジョンの「特異性」を利用した、結婚資金稼ぎだった。


モニターに表示された彼女の思考を読み取った俺は、思わずフリーズした。


(よし。このダンジョン、『ポーションスライムが落とし穴から落ちてくる』ってギミックが、最近のギルド誌のおまけで『キュン死する可愛さ』って記事が載ってたのよね。あれを集めて、「永遠の愛を誓うポーションゼリー」として加工すれば、市場で絶対売れるわ!その収益を元手に、夢の結婚式を挙げるんだから!)


彼女は、殺伐としたダンジョン運営とは最も遠い、「ロマンチック」というベクトルで、俺のダンジョンを商売の場にしようとしていた。


リリアは、落とし穴のエリアに到着すると、通常の冒険者のように警戒するどころか、持参した巨大な「ファンシーな捕獲ネット」を広げ始めた。


「さあ、可愛いポーションスライムちゃんたち!愛の結晶になってね!」


彼女は、次から次へと落とし穴に落ちてくる、ゼリー状のポーションスライムを丁寧にネットで回収していく。ポーションスライムたちは、殺傷能力がないため、落下するだけで無邪気に「プルプル」と震えているだけだ。


俺にとって、リリアの行為は転売屋ザックのケースとは全く異なる。


殺傷能力: ゼロ。

環境破壊: ゼロ(むしろ落とし穴を定期的に使ってくれることで、メンテナンス代が浮く)。

得られるEXP: ポーションスライムのドロップ率が高まるため、討伐報酬が増える。


便宜上、彼女は「優良顧客」なのだが、あまりにもダンジョンの「尊厳」に関わる。このままでは、ダンジョンが「素材工場」ではなく、「愛のゼリー工場」になってしまう。


しかし、彼女の瞳に映る結婚への強い意志と、EXPの増加という現実的なメリットを前に、俺は完全に動きを止められてしまった。


(待て。ここで安易に排除するべきではない。彼女の目的は「幸せな結婚」。ならば、その商売がダンジョンの評判を上げ、同時にEXPも稼げるような方向に「誘導」すればいいのではないか?)


俺はすぐに、彼女の収益を最大化し、かつダンジョンの名誉も守るための、新たなギミック開発に着手した。


リリアが収集ネットを満たしたとき、俺はポーションスライムの体液の配合を微調整した。


魔力注入: 『縁結び』のスキルに反応し、スライム液が通常の「ベリー風味」から「ブーケの香り」へと変化する魔力を注入。

形状固定: 収集袋の中で崩れないよう、スライム液が「ハート型」に固まるように微細な重力操作を施す。


リリアが袋の中身を確認した瞬間、小さな歓声を上げた。


「見て!見て!ただのゼリーじゃなくて、ハート型に固まってる!しかもお花の香り!これなら『愛の結晶』として市場で爆発的に売れるわ!」


彼女は感謝の言葉を述べながら、大量のハート型スライムゼリーと共にダンジョンを後にした。


翌日、リリアの販売した「ダンジョン特製・ブーケ風味のハートポーションゼリー」は、この低級ダンジョン近くの街で「プロポーズアイテム」として大ヒット。ダンジョンの評判は、「安全で、ロマンチックな場所」として、さらに急上昇した。


コアのモニターには、リリアの成功に伴い、宣伝効果による新たなEXPと、次々にゼリーを求めてやってくる「ロマンチック冒険者」たちのステータスが流れ込んできた。


(ふむ。ダンジョンマスターは、時に「結婚プロデューサー」も兼ねるわけか)


俺は今日も、平和と、ちょっとした商魂が同居する、低級ダンジョンでの日常を楽しんでいる。

 ご拝読ありがとうございます。安全第一に、婚活を支援する要素を取り入れることになったダンジョン。そのうちデートスポットもできてしまいそうです。ですが、そういつまでも上手くいくはずもなく…。さてさてどうなることやら、それでは次回もお楽しみに。

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