第5話 マスターポリッシュの功績と、ダンジョン安全監査。
マスターポリッシュを派遣してから一週間。俺のモニターには、定期的に派遣先の貴族邸からの業務報告データと、契約で定められたEXPが送られてくる。
報告は常に「驚異的な活躍」だった。
マスターポリッシュは、持ち前のプロ意識で貴族邸の全てを磨き上げた。特に高価な銀食器や大理石の床は、コアである俺が調整した配合液のおかげで、光を放つほどに。
(マスターポリッシュ、すごいな。向こうで得ている経験値も、討伐隊を一人倒すよりずっと高効率だ)
報告書には、こんな裏話まで記載されていた。
曰く、貴族の娘が「人生に疲れた」と部屋に引きこもっていたが、マスターポリッシュが彼女の部屋の窓ガラスを磨き上げたところ、「あまりに窓がピカピカすぎて、自分の顔の曇りが恥ずかしくなった」と、部屋から出てきたらしい。結果、娘の心の淀みが晴れたと、貴族はマスターポリッシュを絶賛したそうだ。
人間社会の清掃業は、時に「精神回復業」にもなりうる。俺は、清掃ゴブリンがただの素材収集ではなく、文化貢献していることに静かな満足感を覚えた。
マスターポリッシュの活躍は、すぐに広まった。低級ダンジョンが、Sランクのゴブリンを派遣したという噂は、すぐにダンジョン運営界隈の耳に入った。
そして、その結果、監査がやってきた。
その日、俺のモニターに表示されたのは、『ダンジョン格付けガイド』の調査員という肩書きを持つ男だった。彼は、このダンジョンが「Fランクでありながら、なぜ高品質な人材を輩出し、かつ安全性が高いのか」を評価しに来たのだ。
調査員は「殺傷能力ゼロ」の評判を信じていない。彼はダンジョンの全ての罠、モンスター、設備を厳しくチェックするだろう。
(監査か。低級に留まるという俺の意図を察知されては困るが、安全性を証明するのは簡単だ)
だが、いちいち全ての罠を口頭で説明するのは面倒だ。俺は緊急で、監査員専用の「案内人」の生成に取り掛かった。
用途: 監査員の完璧な案内と、ダンジョンの安全性の言語化。
素材: 『コウモリ(低級)+ 精神魔石(安価) + 声帯模写スキル(組み合わせスキル)』
結果:『音声ガイドコウモリ(通称:ガイド)』
生まれたてのコウモリは、耳障りな甲高い音ではなく、澄んだ女性の声で喋り始めた。
「ようこそ、『安全第一ダンジョン』へ。私、ガイドがご案内いたします。危険な場所はございません。ご安心ください」
調査員がダンジョンに足を踏み入れると、すぐにガイドコウモリが彼の周囲を浮遊し始めた。
「この先、落とし穴にご注意ください。底は高品質のスライムクッションでございます。衝撃吸収率は98%です」
「こちらのゴブリンは、攻撃してきません。彼らは清掃を担当しております。ご挨拶すると喜んでくれますよ」
ガイドは全ての「罠」を丁寧に説明し、その殺傷能力がゼロであること、そしていかにそれが心地よいかを言語化した。
調査員は、最初は怪訝な顔をしていたが、全ての警告が「安全」を保証するものだと理解し、やがて笑い出した。
彼は、泉のほとりでジェラートを味わい、清掃ゴブリンの働きに感心し、最後に報告書にこう書き記した。
『このダンジョンは、冒険者に「死」を意識させない、芸術的な「癒やし」の空間である。サービス精神と創意工夫はSランク。評価は最高の五つ星とする』
コアのモニターに、新たなEXPが流入する。監査の成功は、ダンジョンの平和と安定を確固たるものにした。
(良し。これで中級昇格を疑われることもなく、平和を維持できる)
しかし、高評価はまた、新たな客を呼ぶ。次はどんな珍しい客が訪れるのだろうか。
ご拝読ありがとうございます。いよいよ評判が広まり始めてきました。10年以上低級ダンジョンを維持してきましたが…、なにやら不穏な気配も…。それはさておき、寒いですね(11月末)。皆様も風邪などひかれませんように。それでは次回もお楽しみに!!




