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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第一章 Fランクダンジョンの安寧

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第3話 ダンジョン素材の「転売屋」と、コアのイタズラ。

 昨晩、最上級のSランク冒険者を見送ったばかりで、今、俺の体——六角形の光るクリスタルには、高品質のEXP(経験値)が満ちている。おかげで、今日一日はモンスターの生成コストを気にせず、静かに日常を送れそうだ。


 Sランク冒険者が残した「星屑の癒やし(ダンジョン特製ジェラート)」の皿は、すぐに『清掃ゴブリン』たちがピカピカに磨き上げ、所定の位置に戻した。うちのゴブリンたちは、労働意欲が高い上に、磨き上げに使う『超研磨スライム液』の配合技術が年々上がっている。ダンジョンの生命線だ。


 今日も、いつものように初心者たちが騒がしく階段を下りてくる。


 「やった!ポーションスライムのドロップだ!これだけあれば、まだ奥に行けるぞ!」


 若者たちの歓声は、俺の鼓動のようなものだ。誰も死なず、誰も傷つかず、ただ経験と素材を得て成長していく。それが、俺のダンジョン経営ポリシーである。


 ところが、その平和な風景を、一人の男が踏み荒らした。


 魔力モニターに映るその男、ザックは、冒険者というより、肥えた商人の風体だ。ステータスはそこそこ高いが、攻撃性や協調性といった項目は低い。そして、彼の装備品は、やたらと大きな「収集袋」ばかりが目立っている。


 ザックは、冒険を楽しむ初心者たちを「下らねえ」と鼻で笑い、清掃ゴブリンの働きぶりを見て「汚い」と唾を吐いた。


 「おい、邪魔だ。どけ、この汚物どもが」


 清掃ゴブリンは、ダンジョン内では敬意を払われる存在だ。彼らが士気を下げれば、素材の質が下がり、ダンジョンの評判にも影響する。俺は静かに怒りを覚えた。


 ――こいつは、このダンジョンの生態系を破壊する「転売屋」だ。


 ザックの目的は明白だった。彼の足は、戦闘を避け、特定のモンスターが生息するエリアにしか向かわない。狙いは市場で高値が付く二種類の素材だ。


『超研磨スライム液』:清掃ゴブリンが落とす、最高級の研磨剤。

『骨のフルート』:吟遊スケルトンがドロップする、音響魔力を帯びた楽器素材。


 俺は、彼の貪欲さがこのダンジョンの平和を乱すことを許せない。だが、俺のポリシーは「殺傷能力ゼロ」。命を奪わずに、最も効果的に、彼に「二度と来るな」と理解させる必要がある。


 俺は、収集された素材の「特性」を、魔力回路を通じて静かに改変し始めた。


 ザックは、清掃ゴブリンを倒し、大量の『超研磨スライム液』を収集袋に詰め込んだ。


 (これで大儲けだぜ。この低級ダンジョンの素材は、なぜか質が良いからな)


 彼が満足そうに次の目的地に向かうのをモニターで確認し、俺はスライム液に魔力を付与した。


 「研磨」の魔力効果を、「液体の入った容器の内壁を、接触する限り永久に、鏡面のように滑らかに研磨し続ける」という、極めて地味で持続的な効果に書き換えたのだ。


 彼は気づかない。彼はただ素材を集めている。しかし、袋の内壁は今この瞬間も、ツルツル、ツルツルと無限に滑らかになっている。


 次にザックは、暗い通路にいた『吟遊スケルトン』に遭遇した。スケルトンは、彼が近づいても逃げず、いつも通り骨のフルートで静かな音楽を奏で続けていた。


 「うるせえ!楽器なんてよ!」


 ザックはスケルトンを一撃で粉砕し、床に落ちた『骨のフルート』を乱暴に拾い上げた。


 俺は、このフルートに、「製作者コアが最も気に入らない人間の手に渡った場合、聴く者の心を苛立たせる音色しか出せない」という、極めて悪趣味な呪いをかけた。


 音質は最高級。しかし、聞くと誰もが胸の奥底から込み上げてくるような「ムカつき」を覚えるようになる。


 満足したザックは、大量の素材で膨らんだ収集袋を肩に担ぎ、ダンジョンの出口へと向かった。俺は、その背中をモニター越しに静かに見送った。


 彼は、自分が大きな獲物を手に入れたと信じている。だが、そうではない。


 それから十分後。ダンジョン出口の広場。


 ザックは、収集袋を地面に降ろし、重量を確かめようと、口を大きく開けた。


 その瞬間、ツルツルに研磨されすぎた袋の内壁から、液体、素材、魔石、全てが重力に逆らえず、ドバーッと広場全体に滑り落ちた。


 「あ…ああああああああ!」


 ザックは絶叫し、慌てて素材を拾い集めるが、地面に落ちた『超研磨スライム液』が滑り止めとなり、彼の足はツルツルと滑る。


 散らばった素材の大部分を回収できず、仕方なく他の袋に入れておいた素材で商売を始めることにした。


 それから、その日の午後、市場で彼の『骨のフルート』を試奏した買いたたき屋が、突然フルートを叩きつけ、こう叫んだという。


 「なんだこのフルートは!聞いているとムカついてムカついて、お前の顔を見るだけで腹が立つ!不良品だ、受け取れん!」


 ザックは、金儲けどころか、ほとんどの素材を失い、市場の信用まで失うことになった。


その一部始終を、ダンジョン内部のモニター越しに確認した俺は、静かに安堵の息を吐いた。


「よし。平和維持完了」


コアは、次の客のために、少し疲れた様子の吟遊スケルトンに魔力を分配し、清掃ゴブリンに新しい研磨剤の生成を指示した。


誰も死なない。だが、悪意だけは決して許さない。

ダンジョンコアの、のんびり育成生活は、今日も続く。

 ご拝読ありがとうございます。ダンジョンにメリットのない素材採取(乱獲)は管理者として見過ごせない。これに懲りて、ダンジョンに来なくなることを祈るばかりです。それでも懲りないのがザックなのですが…、それはまた後々のお話しとして。それでは、次回もお楽しみに。

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