第20話 転売屋ザック再びと、平和な「在庫管理」。
精霊アムネが『ととのい担当』として運営に加わって以来、ダンジョンのサービス品質は飛躍的に向上した。冒険者たちは心の澱みを浄化され、清掃ゴブリンはかつてないモチベーションで働く。EXPの流入は、昇格ラインを超えないギリギリのラインで安定した。
(よし。アムネの存在は、最高の顧客満足度を生む。サービスの「価値」が上がったことで、単価を上げずとも、収益が最適化された)
特に、サウナエリアで生み出される『デトックス・ハーブ』は、アムネの浄化魔力が宿ることで、「ただの薬草」ではない、『心の毒も排出する奇跡のハーブ』として、水面下で評判を呼んでいた。
その評判を嗅ぎつけない商人はいない。
「おや、コア様。ご無沙汰しております」
ダンジョンコアの部屋の前に、不敵な笑みを浮かべた転売屋、ザックが再び現れた。彼の背後には、最新式の魔道具を積んだ大きなカートがある。
「今日は良い商談を持参しましたよ。例のデトックス・ハーブと、極冷えアイスゼリー。市場でとんでもない価格で取引されています。特にあのハーブは、『精霊の加護がある』と、貴族の間で大人気だ」
ザックは、コアが精霊を仲間に入れたことまでは知らなかったが、商品の品質が異様に向上していることに気づいていた。
「私がこれらを全在庫、買い占めましょう。もちろん、通常の F ランク素材の10倍の価格で。コア様は、手間をかけずに大量の EXP を手に入れられる。いかがですか?」
ザックの提案は、目の前の EXP を積むという点では魅力的だった。しかし、コアの「平等な安寧の提供」というポリシーと、「中級昇格の回避」という最大の課題を脅かすものだった。
(断る。ザックの買い占めを許せば、商品は高騰し、一般の冒険者が利用できなくなる。それは俺の運営方針に反する)
コアはすぐに、ザックの提案を拒否した。
「断る。全ての在庫を貴様に売ることは、俺の運営方針に反する。」
ザックは顔を引きつらせた。「おや、相変わらず商売っ気がない。EXPは嫌いではないでしょう?」
「EXPは好きだ。だが、このハーブとゼリーは、全て『ダンジョンのサービス利用者にのみ提供される』商品なんだ。外部への大量流出は、俺が保証するサービスの価値を低下させる。」
ザックは食い下がった。「では、私を『サービス利用者』として、大量に利用させてくれませんか?何度でもダンジョンを往復しますよ!」
「それも拒否する。このダンジョンは、『一日に得られるデトックス効果』が限界値として設定済みだ。何度も利用しても、貴様の体にそれ以上の効果はない。無駄な往復になる。」
コアは、ザックの強欲さを利用しつつ、商品の流通を制御するための「ルール」を提示した。
ザックは、コアが独占を許さないことを悟った。だが、彼は諦めなかった。
「分かりました。コア様には勝てない。しかし、私はこのハーブとゼリーを世に広めたい。どうか、私に『正規の販売代理人』としての許可をいただけませんか?」
ザックの提案に、コアは一つのアイデアを思いついた。
(フム。転売屋を利用し、俺の商品の価値を市場で高めさせる。ただし、流通量を俺が制御する。これは使える)
コアは、ザックに対して、『デトックス・ハーブとアイスゼリーの販売は許可する。ただし、一日あたりの持ち出し量を厳しく制限し、流通状況を俺に報告すること』という条件を突きつけた。
「聞け、ザック。貴様は今後、このダンジョンのサービスが『最も価値がある』と市場に証明する、広告塔となるんだ。 EXP の何倍もの『名声』を、このダンジョンにもたらすことが、貴様に課せられた使命だ。」
ザックは不満そうな顔をしたが、少量でも高額で売れるのなら問題ないと判断し、その条件を呑んだ。
かくして、コアはザックの商魂を「平和的な販促活動」に転用し、このダンジョンはさらにその名声を高めていくのだった。
ご拝読ありがとうございます。果たして本当にこの契約はうまくいくのだろうか?ただのあくどい広告塔にならないだろうか?コアの判断が正しかったかどうかは後々のお話となります。それでは次回もお楽しみに!!




