第18話 ゲンサイの野望と、熱源を巡る静かなる攻防。
ご拝読ありがとうございます。親方が持つ欲望の火は、これからもくすぶり続けるのだろうなぁ。なので、この3人は今後も要チェックです。それと、コアは簡単に満足しているようですが、そううまく行くものですかね。人の業は深いものだと思うのですよ。それはさておき、次回は新キャラが登場します。お楽しみに!!
――『火熱の迷宮』の奥深く。
刀鍛冶のパーティーは、タイルス・ゴーレムが構成する動く壁と、マグマ溜まりから立ち上る灼熱の熱波を乗り越え、ついに熱源に最も近いエリアへと到達した。ここから先は、マグマの熱を制御するコアの魔力制御回路がむき出しになっている。
「親方、この熱源、尋常じゃありません。通常のマグマとは比べ物にならないほど、純粋で安定している……」シホが顔の汗を拭いながら、熱を遮断する結界をさらに強める。
「ああ。この熱を安定して手に入れられれば、我々の『炎刀』は、間違いなく伝説となる。この熱源を、我々ゲンサイ一族が独占するのだ」ゲンサイの目には、野望の炎が宿っていた。
ゲンサイが、魔力制御回路に触れようと籠手を掲げた瞬間、コアから直接通信が入った。
「その熱源に触るな。それは、マグマ暴走を抑える生命線なんだ。即刻、手を引いてくれ。」
「ふん、命の危機だと?この熱こそが、我々の命だ!」ゲンサイは警告を無視し、回路に触れようとした。その瞬間、回路の周囲を囲むタイルス・ゴーレムの壁が、一斉に高周波の振動を始めた。ゴーレムは依然として攻撃スキルを持っていないが、その振動は、人の平衡感覚を激しく奪う。
「ぐっ!目が回る!熱と振動で、立つこともできない!」フウガが膝をついた。
(良し。殺傷能力ゼロのポリシーは守れた。彼らが求めるのは『芸術』。物理的な接触を阻止すれば、それ以上の争いは不要だろう。俺の防御システムは完璧に機能している)
ゲンサイは、タイルス・ゴーレムの「殺意のなさ」と「防御への特化」を悟った。力ずくで熱源を奪うのは不可能だと判断し、膝をついたまま、コアに向けて冷静に問いかけた。
「コア殿。この熱源は、戦闘のために使われるべきものではない。これは最高の芸術品を作るための熱だ。我々にはそれを使う技術がある。貴殿に相応の対価を払う。この熱源を外部の者に貸与する契約を結ばないか?」
コアは、ゲンサイの提案を瞬時に分析した。
「断る。この熱源は既に、この地域の『全ての疲労を癒やす』公共サービスに転用済みだ。俺の『平等な安寧の提供』という運営方針に、独占的な契約はそぐわない。」
交渉が決裂し、ゲンサイたちは諦めて撤退せざるを得なくなった。
コアは、悔しさに歯を食いしばる彼らのために、一つだけ、有用な情報を差し出した。
「…ですが、貴方方の刀鍛冶としての情熱は理解した。貴方方が求めたマグマの熱を、このダンジョンでは『サービス』として提供している。それは、サウナだ。」
「サウナだと?」ゲンサイは怪訝な顔をした。
「貴方方が、マグマの熱を最大限に浴びた後、『極冷えアイスゼリー』で体を冷やす三セットの儀式を終えた時、その熱と冷気が交互に体に作用し、貴方方の鍛冶スキルが一時的に研ぎ澄まされることを保証しよう。試すかどうかは、貴方方次第だ。」
ゲンサイ、シホ、フウガの三人は顔を見合わせた。核心の熱源は手に入らなかったが、刀鍛冶の命である「感覚の研ぎ澄まし」が約束されている。
「……フン。ダンジョンコアが言う『サービス』とやら、試させてもらおうではないか!」
ゲンサイは、新たな素材ではなく、己の「技」を磨くために、サウナエリアへと引き返していくのだった。俺は、戦闘を避け、顧客の欲望を「サービス」に転換できたことに、静かな満足感を覚えた。




