第16話 コアの家計簿と、平和維持のための「出費」。
サウナ狂いの冒険者タツミの訪問以降、『地熱の安堵の湯』は、ダンジョン界隈で密かな話題となっていた。タツミが広めた口コミのおかげで、毎日のEXP収益は安定し、右肩上がりだ。
(よし。営業は順調だ。マグマの熱を逆手に取った判断は正解だった。平和な日常を維持するための、新たな収入源が確立したな。うんうん。)
俺のコアのモニターには、収入のグラフと共に、中級昇格ラインを示す危険なゲージが、わずかに揺らめいている。このゲージを絶対に超えてはならない。俺の使命は、平和なFランクダンジョンを続けることだ。
俺はすぐに、膨大に流れ込んできたEXPを、「維持費」として計画的に消費し始めた。
現在の俺の家計簿において、最も大きな出費、すなわち「平和維持費」となっているのは、地殻変動への対策だ。
— 支出その一:マグマ熱の制御(常時消費)
隆起したマグマは、今もダンジョンを高温属性に強制昇格させようと圧力をかけ続けている。俺は、その熱を魔力で常に囲い込み、エネルギーを『安堵の湯』と『サウナ室』へと誘導しなければならない。
「地殻変動による熱の制御及び冷却:本日分のEXP、全体の40%を消費」
この支出が滞れば、ダンジョンは瞬時に高温ダンジョンとして昇格し、ポーションスライムは蒸発し、清掃ゴブリンは耐熱性のない仲間を熱で失い、パニックに陥るだろう。平和維持のための、必要不可欠なコストだ。
— 支出その二:タイルス・ゴーレムの「細分化」維持費
次に高額なのが、新設した防御階層『火熱の迷宮』の維持費だ。
「タイルス・ゴーレム(熱タイル)の微細制御:本日分のEXP、全体の20%を消費」
マグマゴーレム(中級)を、手のひらサイズの『熱タイル』として維持するには、膨大な制御魔力が必要だ。一瞬でも制御を緩めれば、彼らは合体して中級のマグマゴーレムに戻り、冒険者を焼き殺し始める。討伐ゼロのポリシーを守るための、重要な防御コストだ。
残りのEXPは、サービス品質の向上と、生産効率の改善に振り分けられる。
— 支出その三:究極の安堵の環境整備
サウナ後の最高の安堵感を顧客に提供するため、俺は細部にまで魔力を割く。
水風呂の低温維持費: 『ヒエヒエ・ポーションスライムの湯』の極低温を保つための冷却魔力。
BGMと照明: 休憩エリアで流れる吟遊スケルトンのフルートの音色を、最も心地よい周波数で維持するための魔力。
「サウナの満足度を担保するための『快適性維持投資』:本日分のEXP、全体の15%**を消費」
— 支出その四:デトックス素材の品質向上
また、泉の周囲で生み出される薬草にも投資を行う。
「薬草・鉱石の品質向上(デトックス化):本日分のEXP、全体の10%を消費」
この投資により、低級の薬草は、サウナ後の老廃物排出に特化した『デトックス・ハーブ』へと昇華される。これも、「ハートポーションゼリー」がそうであったように、新たな人気商品となる布石だ。
全ての支出を終えたとき、残ったEXPは、中級昇格ラインを大きく下回る水準だった。
(良し。稼いだ分だけ、平和を維持するための出費が増える。この「自転車操業」こそが、低級ダンジョンとして最も健全な状態だ)
俺は今日も、平和を維持するために、大量のEXPを稼ぎ、そして使い切る。この終わりなき出費のループこそが、俺の求めていた安寧だった。
しかし、新たな『火熱の迷宮』ができたことで、外部の冒険者はこのダンジョンに何を思うのだろうか。次は、この新たな障壁に挑む、挑戦者たちの姿を描くことになるだろう。
ご拝読ありがとうございます。ピンチをチャンスに変えたダンジョンコアの低級ダンジョン維持、というよりも経営が活発してきました。これにより新たな素材、新たな珍客、新たな展開が、わんさか訪れることでしょう。それでは、次回もお楽しみに!!




