第10話 踏破を狙う若者たちと、平和の壁。
平和な日常が続いていたそんなある日。
魔族の査察は無事乗り越え、低級ダンジョンとしての安寧を維持していたはずなのに、俺のモニターに、最も見てはならない警告が表示された。
【目標:ダンジョンコアの破壊(踏破)】
来訪者は4人編成のパーティ。初級冒険者の中ではエリートの部類だろう。
名前 性別 年齢 ジョブ
カイト 男 18 戦士
ルナ 女 17 魔法使い(氷)
ジン 男 19 探索師(斥候)
アリス 女 16 僧侶(回復)
彼らは、このダンジョンが「安全だが、なぜか誰も踏破できない」という噂を聞きつけ、「卒業試験」として狙いを定めてきたのだ。彼らがコアに到達すれば、俺の平和は終わり、ダンジョンは中級へと強制的に昇格し、最終的に破壊されるだろう。
俺は即座に、緊急通信を彼らのパーティリーダーであるカイトに送った。
「ここはトレーニング施設であり、踏破は推奨しない。君たちの成長には、もっと別のダンジョンが適している」
カイトは、通信を遮断することなく、嘲笑で返してきた。
「聞いてみろ、ルナ。コアが自ら『来るな』と言っているぞ。ということは、この先にお宝か、隠しルートがある証拠だ!」
「そんな証拠はどこにもないわ、カイト。ですが、このダンジョンの謎を解けば、初級卒業の称号は確実です」ルナが冷静に応じる。
彼らの目的は、討伐ではなく、コアへの最短到達。通常のモンスターや罠では、彼らを足止めできないと悟った。
彼らが最初に遭遇したのは、俺の定番の罠だ。通路に仕掛けられた『紙吹雪の罠』。そして、その奥には『超粘着スライムの落とし穴』。
「ジン!罠だ!いつも通り頼む!」カイトが叫ぶ。
探索師のジンは、地面の魔力パターンを一瞥しただけで、罠の構造を瞬時に見抜いた。
「紙吹雪は左壁、落とし穴は中央奥です。しかし、この魔力の揺らぎ……どちらも殺意がありません。紙吹雪は驚かせるだけ、落とし穴は衝撃吸収材が敷いてあるようです」
ジンはカイトにそう耳打ちし、紙吹雪の罠を素手で起動させた。パーン!という音と共に、カラフルな紙吹雪が舞い上がる。
「はっ!くだらねえ!こんな罠で足止めできるとでも思ったか!」カイトは嘲笑し、ジンが指示した安全ルートで罠を素通りする。
(まずい。平和的な罠は、彼らの勘の良さの前では、ただの「休憩サイン」になってしまう)
俺は即座に、次のセクションのモンスター配置を調整した。次に現れたのは、ポーションスライムと、通路を熱心に磨いている清掃ゴブリンたちだ。
「よし、討伐だ!」カイトが剣を構える。
だが、魔法使いのルナが彼を制止した。「待って、カイト。無駄よ。このダンジョンの噂によると、モンスターは低級な素材しか落とさない。討伐報酬を稼ぐ必要はないわ。私たちはコアを目指す。戦闘は、進路妨害のみに限定すべきよ」
彼らは、清掃ゴブリンを「労働者」として避け、ポーションスライムを「歩く回復薬」として無視し、一直線に通路を走り抜ける。
(彼らは、このダンジョンの『平和的経済圏』を完全に無視している。討伐を放棄し、進路を遮るモンスターだけを対処対象とする。賢い。そして、厄介だ)
コアの部屋は、ダンジョンの最奥。彼らは予想以上のスピードで、最終セクションへと向かっていた。このままでは、あと二つのセクションを突破されると、俺の平和な日々は終わりだ。
俺は、これまで誰も予想しなかった、「足止め」特化型の新たなギミックを、緊急で生成し始めた。
ご拝読ありがとうございます。初級な卒業試験に低級ダンジョン踏破。真面目に踏破だけ狙うなら、ここは確かに狙い目と言えるでしょう。さぁて、彼らを傷つけずに退けられるのか…、次回も、こうご期待!!




