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このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!  作者: 猫長明
第1章:賢者殺人事件編

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9/23

勇者と僧侶の情報交換

この物語はフィクションです。

この物語には社会的倫理観から

著しくかけ離れた描写があります。

 すべての物的証拠は消し炭となった。

 ならばもうここで足を止める意味はない。


 魔王の玉座を守るべく険しい渓谷に建造された

 堅牢な魔要塞を抜け、最後の樹海を抜けた先。

 魔王城はもう目と鼻の先だ。


 賢者の言葉で語られた裏切り者の存在は

 あくまで敗北する可能性要素。

 解決しなければ必ず負けるという話ではなく

 逆に言うならそれ以外で負ける要素はない。


 ならば足を進めよう。

 その上で道中にて個々から事情を聞き出し

 賢者殺人事件の真相を暴く。

 それが彼らのひとまずの結論だった。




 魔道士と妖精以外の4人は

 既に裏切り者の目星をつけている。

 しかし、決定的証拠はまだない。


 今回の賢者殺人事件は

 裏切り者がはじめて堂々と動いた一件だ。

 しかもこの殺人は、

 予想外の形での裏切りの露呈から

 短いタイムリミットの中で行われた

 突発的犯行。必ずどこかに()()があるはずだ。


 裏切り者が目星をつけたものなら、

 入手した決定的証拠から脅迫し、

 穏便にことを解決する。


 そして、もしも目星をつけた人物とは

 別の犯人像が浮かぶようなら

 早めに軌道修正をかけ、

 次の一手を考えねばならない。




 もしこれが一般的な推理小説ならば、

 登場人物はみな、当たり前にこう考える。


『殺人犯と同じ場所にいられるか!

 俺は一人になるぞ!

 誰とも会うつもりもないぞ!

 殺人犯かもしれないやつとも

 話なんかできないからな!』


 しかし彼らは曲りなりにも

 世界最強級の勇者御一行様。

 1対1なら己の身を守れる自信があったし、

 全員でいれば互いの凶行を監視できた。


 つまり、問題はそれ以外。

 特に3人がまずい。

 1対2の状況が作られれば終わりなのだ。




 と。ここまでを前提としての道中。

 賢者殺しの犯人を探すための

 事情聴取が始まる。




「で、話を聞かせて欲しいんだ、スターシ」


 勇者ヒイロ。

 彼が話を聞きに行ったのは僧侶スターシだった。


「一応聞きますけど勇者サマ。

 私を疑っているということでよろしいのかしら?」

「そうだな。スターシ()疑ってる」

「ふふ……流石ね、勇者サマ」


 僧侶にしてみれば模範解答だった。


 犯人でない自分を疑っているというなら

 勇者の人を見る目を疑わざるをえない。

 一方で、まるで疑っていないのなら、

 それはそれで能天気と言わざるをえない。


 犯人かもしれないという疑念をゼロにはせず、

 その上で自分に話を聞きに来た。

 その理由は……


「断片的に遺体を調査した結果。

 その死因の毒の情報を聞きに来た」

「流石だ、スターシ」


 勇者にしてみても、これは模範解答。


 疑われたことから弁明するでも逆上するでもなく、

 疑われるのは当然とした上で、

 何故確信的に疑われているわけでもない自分に

 最初に話を聞きに来られたのか。

 それを俯瞰的視点から考察できた僧侶は、

 勇者にしてみれば本当に頼りになる相手だ。


((だからこそ))


 2人は同時ににやりと笑うと同時に

 冷や汗を流す。


((こいつが裏切り者だと、まずい))


挿絵(By みてみん)


「……それで?」

「はい。毒についてですね」


 2人はお互いの心の内を理解した上で

 小さく深呼吸を挟み

 頭のリセットボタンを押した上で、

 情報交換を開始する。


「完全な調査が終わる前に

 遺体が燃やされてしまいましたので、

 詳細・確実な情報ではありません」

「それはわかってる。

 だが毒は盛られていて、

 それが死因ではあったのだろう?」


「毒は盛られていました。

 しかし、死因とは限りません」

「というと?」


「盗賊の坊やが遺体を解剖していました。

 その直前に私は、解剖される前から

 ついていた刺し傷を見ています」

「それが死因だったかもしれない、と」


「使われた毒の致死性は高く、

 毒だけでも死んでいたはず。

 ただ、賢者様に毒耐性がないとは限らない」

「イットのようにか……」


 騎士イットは呪いと毒への完全耐性がある。

 騎士本人はドラゴニアスの種族特性だと言い

 僧侶以外はその言葉を信じている。


 が、僧侶はそれが彼女の悲しい生まれと

 周囲に敵しかいなかった幼少時代故と知っている。


 僧侶はそこに愛故の憐憫を覚えており、

 騎士が魔王の娘だという真実を語ることこそあれど、

 呪毒耐性の秘密に関してだけは誰にも話すつもりがない。


 歪んだ狂信の中に生きる僧侶だが、

 その口から語られる『愛』は

 完全な邪悪ではないということだ。


「加えて、毒が先か、刺し傷が先かはわからない」

「犯人が念を入れて両方の方法で

 殺そうとした可能性と……」


「そう。3()()のうちの誰かが、

 それぞれ賢者を殺そうとした可能性がある」

「3人? 刺したやつと、毒を飲ませたやつの

 2人じゃ……はっ! そういうことか!」


 気付いた勇者に僧侶は頷く。


「なるほど。あなたの思う本命は

 盗賊の坊やということね。

 だから今このタイミングで気付いた」

「……まぁな」


 賢者は誰かに刺され、毒を盛られ、

 その死体を盗賊が解剖した。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「解剖の名目でトドメを刺した……」

「可能性だけどね」


 と、ここまでは僧侶の考察に

 勇者が追いついた形。


 だがここで、勇者は僧侶を超える。


「……3人じゃない。4人……

 いや、1人だ」

「というと?」


「スターシ、君自身が一番わかっているはず。

 もし君があの時、イットを蘇生していなければ、

 君は賢者を蘇生する魔力が残されていたはずだ」

「無理よ。いくら私と言えど、

 いえ、私以上の回復蘇生魔術の使い手だとしても。

 燃えて消し炭になった賢者様の蘇生は……ハッ!」


 勇者は頷いて。


「蘇生術の使い手が世界のどこかにいる以上、

 賢者にトドメを刺したのは魔道士、メイだ」


 これが賢者殺人事件の最終的結論。

 少なくとも賢者を殺したのは魔道士メイである。


 が、しかし……


「けど、勇者サマはその結論を受け入れない。

 エルフちゃんは本当に遺体に敬意を払って

 完全な善意で遺体を焼いただけのこと。

 賢者様を殺そうと意思を持って動いたのは

 直前までの3人の内の誰か。

 少なくとも、エルフちゃんが裏切り者だとは

 思っていない、と」

「あぁ。それは、スターシ。君もだろう?」

「…………」


 沈黙は肯定だった。

 魔道士はただ火力キチなだけ。

 その行動理念に悪意はない。

 これは全員の共通見解だ。


 しかし、ここで勇者は僧侶の沈黙から

 別の意図を見出す。


「俺のこの結論は本命と合致していない。

 そう、俺の本命は盗賊シールだ。

 だがスターシ、君の本命は違う。

 そして、その推理内容は

 賢者の殺し方と合致していない。違うか?」

「……流石ね、勇者サマ」


 僧侶は降参とばかりに両手をあげて首を振り。


「一応私は私を犯人じゃないと知ってるから

 それを除外した上で語らせてもらうけど。

 毒を盛ったのは勇者サマか妖精ちゃんか盗賊の坊や。

 あの子なら毒を使わない。

 刺したのも勇者サマか妖精ちゃんか盗賊の坊や。

 あの子なら刺し傷はもっと派手になる。

 その後で盗賊の坊やが解剖し、

 エルフちゃんが燃やして終わらせた。

 ここまでが裏切り者が口封じのために動いた

 賢者殺人事件の犯行だとすれば

 この犯行そのものが、私には納得できないの」


挿絵(By みてみん)


 ここまで言えば勇者にも

 僧侶の本命が騎士イットであることはわかる。


 勇者の本命は盗賊で、動機はカネ。

 その解決方法として、

 既に支払われた額以上を支払うことを考えており、

 ここで僧侶からカンパを求めるのが

 彼の最終的な目論見だった。


 だが僧侶の本命は騎士。

 勇者としては魔道士と同じくらいには

 ありえないと推理から除外していた人物。


 その上で今の僧侶の目からは

 その本命に至った理由は絶対に話さないという

 強い信念のようなものが感じられた。


 ならばもう盗賊が犯人だと説明し

 カンパを求めても僧侶は頷かないだろう。


(まずいな……)


 ここに至って勇者は、改めて覚悟を決める。


(この一件、複雑な事情が絡み合いすぎている。

 俺達が今まで、一癖も二癖ある仲間を

 半端に理解した気になって一線を越えないままに

 旅をしてしまったツケが……

 今、俺達全員に請求されているんだ)


挿絵(By みてみん)

ここまでの読了ありがとうね。

ブックマークや評価や感想、いただけるとうれしいわ。


この物語は最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

プロローグ以降は毎日22時20分更新。

全4章で、各章4話構成、最終話は10月16日になるわ。




前作にあたる異世界転生モノ、

鉄道オタクのエルフのお話もあわせてよろしく。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)

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