女神クリアについての考察(from妖精ティカ)
この物語はフィクションです。
この物語には社会的倫理観から
著しくかけ離れた描写があります。
「…………」
…………
「…………」
あの。
「……ちょっと待って」
はい。
「……よし」
……?
「よし。よしよしよしよし!
行けっ! いけるっ!
お前はやれるっ!
私はお前を信じてる!
今日こそ! 今日こそだ!
差せッ! 差せ差せ差せ!
あっ! ああっ! ああああああ!」
「差しすぎだぁぁぁぁああああ!!」
「…………」
…………
「……ふぅ」
…………
「はわわわっ!
何か私に御用でしょうか!?」
なるほど、
ちょっと頭がおかしいだけのマスコット。
……ちょっと?
「あ、はい。そうでしたね。
女神クリア様に関するお話と
私の自己紹介でしたね!
私は女神クリア様より勇者一行の
サポートを任されました
妖精種のエリート中のエリート!
かわいく優秀なティカちゃんです!
きゃぴっ☆」
なお本編の登場キャラクターは
『自分は裏切り者ではない』と
『知らない』以外の嘘は
つかない仕様となっている。
一見すると嘘にしか見えないものは、
すぐに嘘であると露呈するケース。
もしくは、本人がそれを
完全に真実だと信じている場合のみだ。
といっても、これが完全な誤りかというと
そうでもないのだろう。
勇者パーティは彼女のテレポート能力に
何度も助けられており、
戦闘中以外ならほぼ無尽蔵に使用できる
回復スキルに加えて、
死亡後すぐ、かつ傷が大きくなければ
応急蘇生魔法も使用できる。
まさに勇者パーティーの縁の下の力持ちだ。
それを考えれば、ちょっと頭のおかしい
ギャン中、アル中、ヤニ中であっても
まぁそこまで気にすることはないのだろう。
ちなみに彼女にとってのギャンブルは
カネを増やす手段ではなく
スリルを楽しむ遊びである。
普通に硬い賭け方をすれば
ほぼ確実に収支をプラスにできるだけの
頭脳もあることは付け加えておこう。
「さて、ご納得いただけたようですので、
我らが世界の女神にして、
勇者のみなさんを選んだ慧眼を持つお方、
女神クリア様に関してお話をさせていただます」
「といっても、話せることは
そこまで多くありません。
クリア様は現世に直接介入はできませんし、
人の子に力を与えることもできません。
ただ、人の『才』を見抜く力に長けており
クリア様に選ばれた以上、
私達より個々のポテンシャルが高い者は
現在この世界にはいないということです」
「そんなクリア様の性格は、
一言で言えば善性の塊です。
決して悪意を持つことがなく、
不正を嫌い、どこまでも人を信じるお方。
ようするに……」
ふっ、とティカの雰囲気が変わり。
「世間知らずのバカですね」
「人間ってそんな綺麗な生き物じゃねーんですよ。
引きこもりで外の世界を知らない箱入り女神が。
愛とか正義とか、そんなものより
欲望と狂気の方がよほどデカい力があんですよ。
魔王の存在だって、強大な敵がいるからこそ
世界が戦争をせずに1つにまとまれてる。
本質がなんもわかってねーんです。
あんたがその『才』を見抜く目で選んだ6人が
全員クズって時点で気付けないんですかね」
はぁぁぁぁと、クソデカため息をついた後。
「ともあれ、私達が『腕だけで言えば』
最強勇者パーティであることは間違いない。
私達は魔王を倒せてしまうんです」
「だからこそ、裏切り者の存在は
世界を正しく維持する鍵かもしれません。
綺麗すぎる水に魚は住めない。
女神クリア、あんたはそれがわかってねーんですよ」
ここで話を打ち切って、カチッとライターを響かせ。
「……ふぅ」
「では私、今日はオフなので。
高設定台に並んできます。
何かありましたらテレポートしてきますので」
そう言い残して森の中に吸い殻と
空いた酒瓶と割れた通信水晶を残し
妖精ティカは姿を消すのだった。
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……改めて、勇者パーティを紹介しよう。
勇者ヒイロ。
徹底した合理主義のマキャベリストで、
本物の勇者の兄を殺した偽勇者。
盗賊シール。
超のつく守銭奴であり、
カネ次第で平然と味方を裏切る。
僧侶スターシ。
優生主義で享楽主義の邪神の信徒であり、
その狂信は魔族を同じ生物とは見ていない。
騎士イット。
思春期で家出した魔王の娘であり、
その素直すぎる直情で暴走突撃する。
魔道士メイ。
純にして無垢な心から力と炎に酔い、
一度世界を破滅させた禁断の魔術を操る。
妖精ティカ。
女神クリアを堂々とバカと批難し
人の邪心を肯定するギャン中アル中ヤニ中。
この中に一人、魔王の手先がいる!
……ひとりだけぇ?




