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このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!  作者: 猫長明
プロローグ

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6/23

魔道士メイの独白

この物語はフィクションです。

この物語には社会的倫理観から

著しくかけ離れた描写があります。

 わたし、魔道士メイは、

 範囲攻撃魔法が苦手です。




 優れた魔法素質を持つエルフは

 勇者パーティに加わり旅をするのが定め。

 わずか数名で数万から数億までの魔族に立ち向かう旅は

 帰らぬ者の数の方が圧倒的に多いものです。


 魔王を倒した暁には勇者の嫁となるという伝統も、

 絶望的な戦いでの吊り橋効果が恋愛感情に繋がるため。

 最初からそれを肯定し「ご褒美」として置くことで

 戦いに命を賭けるように仕向けるため。

 わたしは今のところあまり興味がありませんけどね。


 中にはこの旅をただの自殺行為だと言って逃げ出したり、

 逆にエルフでありながら世界全体を統治して力を集結し

 数には数で魔族と立ち向かった女王も居たとか。


 しかし、わたしはそんな人たちが理解できません。

 だって、こちらが少数で、敵が無数ということは……


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 ご覧のとおり、わたしはエルフです。

 森から生まれ、木々の中で育ちました。


 生まれながらに高い魔法素質を持っていたわたしは

 師匠の大おばさまから最初に風魔法を習いました。

 先天的にエルフは、風魔法が得意なんだそうです。


 こうして風魔法の基本を習得したわたしが

 次に習得を目指したのは炎魔法でした。

 理由は簡単です。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 この火魔法は、風魔法ととても相性がいいものでした。

 わたしは気付いたのです。


 炎が燃える理由はマナではない。

 風の中の2割ほどを構築する

 2()()()()()()()()()の力だと。


 小さな火に風魔法をぶつければ、

 またたく間に火は消し飛んでしまいます。

 しかし、ある程度以上に大きくなった火の場合、

 地面を這うように下から風魔法を送れば

 一気にその炎が燃え盛ると。


 これに気付けたおかげで、

 わたしは一度に4600万ヘクタールの森を燃やせました。

 これはわたしの半生で一番の記録です。


挿絵(By みてみん)


 そんなわたしの努力がエルフの中で

 高い評価を得るのは当たり前のことでした。


 燃える森(インフェルノ)の悪夢(ナイトメア)

 それがわたしがいただいた2つ名です。

 2つ名をいただくエルフはほとんどいません。

 私の記憶では他は全員猟奇殺人鬼ですので、

 まともなエルフでの2つ名持ちは世界に私1人だけです。


 此度の魔王討伐の任にも女神様の指名に加えて

 長老様方満場一致で選んでいただき、

 二度と帰るなとありがたいお言葉をいただきました。


 死んだエルフは森に帰る。それを帰るなとはつまり、

 わたしにかける期待の大きさであり

 絶対勝利を信じた激励の言葉なのです。


挿絵(By みてみん)


 こうしてはじまった勇者君との旅。

 範囲攻撃の苦手なわたしは

 頻繁に勇者君や騎士さんを巻き込んでしまいましたが

 他のみなさんのサポートで

 たくさんの魔族を燃やせました。


 僧侶さんは特にわたしに良くしてくれました。

 特に、火山のまわりに広がる毒ガスの一部が

 火により爆発的に燃えると教えてくれたことが大きく、

 ダンジョン内にガスを送った後に火を放つことで

 より効率的な攻撃ができると知ったのは大きな発見です。

 わたしの学びはまだまだ尽きません。


「ふふっ……ふふふっ……」


「なぁあんちゃん」

「どうした?」


「エルフのねーちゃん、わいらの味方で良かったな」

「それは本当にそう思う」


「敵だと困るのはそうなんやが、

 それ以上にあのねーちゃん。

 魔族と戦ってなければ、放火魔か爆弾魔になってたで」

「音楽が彼女を救ってくれていたと思いたいよ俺は」


 ともあれ、わたしは幸せものです。

 心が綺麗で優しく素晴らしい人間のみなさんとの旅で

 魔族を生きたまま焼き払えるのですから。

 熱に喘ぐ魔族の声は、至高の音色(ラウド・ロック)

 森が焼け落ちる音(ヘヴィ・メタル)の次に好きです。


「あ、ダメそう」

「何がや?」

「音楽でもメイさんは救えなさそう。

 今、なんとなくそう直感した」


 そんなある日。とある古代遺跡の探索が

 わたしにさらなる飛躍をもたらしました。


「随分と古い遺跡だな……」

「数千年前にこの地に繁栄していた先史文明の遺跡ですね。

 この平らな石の壁や透明なクリスタルの板が特徴です」


「オニワバンの任務で遠目に見たことはあったが、

 中に入るんははじめてやなぁ」

「なんでだろう。ドラゴニアスの住む岩山とは

 まるで違うのに、何故かとっても懐かしくて

 心が落ち着くような気がするよ」


 そんな古代遺跡の奥でわたしは、

 奇跡的に風化を免れていた魔導書を発見します。


「ロスアラモス……マンハッタン……」

「読めるの!? メイさん!」

「少しだけ……でも全然意味がわからない」


 魔導書の内容はほとんど理解できませんでした。

 しかし、その中にあった絵に

 わたしはインスピレーションを受けます。


「精霊の絵だ……」

「精霊? これが?」


「うん。たくさんの手と雲を持つ精霊」

「手と、雲……?」


「うん。雲の中にはさらに小さな精霊がいるの」

「よくわからないな……」


「92個の雲……

 その精霊の数が増えていく……

 そんなことができるの……?」

「うーん、俺にはさっぱりだなぁ……」


 わたしがぶつぶつと仮定を呟きながら

 魔導書を解読していると、

 外で警戒していた盗賊君が遺跡に駆け込んできます。


「やばいであんちゃん!

 凄い数の魔族や!」

「なんだって!?」


「ついにあたし達を危険な存在と

 認めてくれたようだね……!」

「しかし数がいるのは面倒ですね。

 エルフちゃん、お願いできますか」


「精霊に精霊をぶつけて精霊を増やして、

 増えた精霊をさらに別の精霊にぶつける……」

「エルフちゃん、後にして。

 今はここを切り抜けるわよ」

「あっ! ご、ごめんなさい!」


 後ろ髪をひかれつつ、とりあえず数冊の魔導書を回収し

 外に出たわたし達を待っていたのは……


「……まじかよ」


 砂漠の地平線を埋めるほどの魔族の大軍勢でした。


「……どうする? 勇者サマ」

「逃げる」

「なんだって!? あたいは戦うぞ!」

「落ち着けドラちゃん。

 こいつの判断は正しい。

 いくらなんでも多勢に無勢や」

「はわわわわ!

 みなさん集まって! 集まって!

 とりあえず出来るだけ遠くにテレポートしますので!」


 即座に撤退を判断する勇者君の判断は多分正しい。

 わたしもあんなに多くの魔族を見たことはなかったので。

 燃やし放題とはいえ、全力の火災旋風でも

 あの数は流石に分が悪いと言わざるをえません。


 しかし……


「妖精さん、テレポートの用意を」

「もうしてます!

 はやく手につかまって!」


「流石です。でもちょっと待ってください。

 試してみたい魔法があるんです」

「こんな時に何を!」


「いや、少しでも数を減らすのはいい判断だ。

 だけどメイさん、1発だけだ。

 全力の1発を詠唱したら、

 着弾を見ずにテレポートするぞ!」

「わかった」


 わたしは深く息を吐いて、精霊に意思を伝えます。

 しかしそこでわたしは生まれて初めての経験をしました。


(精霊が、拒絶を返す?

 世界が滅びる?)


 ごくりと息を飲みつつも、

 わたしは精霊にもう一度命令します。


(知らない。ここでやつらを滅ぼさないと……

 やられるのは、わたし達だっ!!)


 精霊も渋々お願いを聞いてくれるとのこと。

 わたしはお礼を言った後で、

 魔導書に記された詠唱を行います。


「我は死なり! 世界の破壊者なり!

 古代魔法、APOCALYPSE(アポカリプス)

 いっけぇぇぇぇええええ!」

「飛ぶぞティカ!」

「はいっ! テレポート、いきまーす!」


 こうしてわたし達は妖精さんの力で

 数百kmの距離を移動したのですが……


「……なんや、あれは」

「火のキノコだ……」

「エルフちゃん、まさか……」

「あれは、君が……?」


 わたしは小さく、首を縦に振りました。

 こうしてわたしは、おそらく今この世界で

 わたしだけの独自の魔法技術体系。

 核分裂魔法スキルを習得したのです。


挿絵(By みてみん)


 そんな危機を乗り越えて、今。

 わたし達のパーティに新たな危機が訪れます。


(わたし達の中に、裏切り者がいる……)


 わたしはとても信じられませんでした。

 勇者君も、盗賊君も、僧侶さんも、騎士さんも、

 おまけの妖精さんも、みんなとてもいい人です。

 魔王の手先になっているなんて、

 わたし達を裏切ろうとしているなんて、

 絶対にありえません。


 だけど、もし。

 もしも本当に誰かが裏切っているなら。

 その方にはきっと、その方なりの思いがあるはず。

 正しさがあるはず。


 そしてなによりその人は、孤独なはず。

 裏切りに成功しても、失敗しても、

 必ずひとりぼっちになるはず。だから……


(もしもわたし達が仲間割れをするなら、

 わたしは裏切った方に。

 数が少ない方につきます。

 どうせ戦いになってしまうなら、

 私は数が少ない方がいい。何故ならば……)


――わたし、魔道士メイは、

  範囲攻撃魔法が苦手だからです。


挿絵(By みてみん)

ここまでの読了ありがとうね。

ブックマークや評価や感想、いただけるとうれしいわ。


この物語は最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

プロローグ以降は毎日22時20分更新。

全4章で、各章4話構成、最終話は10月16日になるわ。




前作にあたる異世界転生モノ、

鉄道オタクのエルフのお話もあわせてよろしく。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)

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