盗賊シールについての考察(from勇者ヒイロ)
この物語はフィクションです。
この物語には社会的倫理観から
著しくかけ離れた描写があります。
俺の名はヒイロ。勇者、ヒイロだ。
早速だが、俺達パーティの中に紛れているという
魔王の手先の正体を暴露しよう。
それはズバリ、盗賊シールだ!!
東方の盗賊ギルド「オニワバン」に所属し
ニンジャのスキルを操るシールは
戦闘でも探索でも頼りになる仲間だ。
ワーウルフの少年である彼はパーティ最年少。
どこか幼さの残るそのどこか中性的な顔は、
男女問わず魅了してしまう魔性を持つ。
同じ男としてキモい男にまで色目を使われるのは
同情したくなってしまうが、こいつはそこから堂々と
『色で誘い暗殺するクノイチの術が使えるやないか』と
笑ってしまうのだ流石と言わざるをえない。
まぁ、実際に同じ男としていっしょに
風呂に入ったことはあるのだが、
ワーウルフだからなのか、
乳首が8つあったのは初見ちょっと引いた。
ちなみに耳も4つあるが、
おかげで四方八方、様々な音を聞き分けられるらしい。
で、こいつが裏切り者である理由だが、
単純明快。こいつは……
超のつく守銭奴なのだ!!
こいつの裏切りは、なにも今に始まったことじゃない。
思い起こせばあれは冒険が始まったばかりの頃のこと。
~~回想
「お、勇者のあんちゃん、こんなとこで何しとるん?」
(しーっ! 声が大きい!)
(なんやなんや……何見て……あー……)
俺が茂みに隠れてこっそり見ていたもの。
それは……
魔道士、メイの行水だった。
(あんちゃん、何隠れてんのや。
堂々と入ってけばええやろ)
(な、何言ってんだお前!)
(だってあのエルフのねーちゃん、
勇者のあんちゃんの許婚やんか)
(……うん、まぁ)
許婚といっても双方の親同士の合意ではなく、
向こう、メイの側の一方的なものだ。
エルフの里から魔道士を勇者パーティに送り出す場合、
その魔道士を勇者の嫁とするのが
エルフの伝統なのだそうだ。役得。
(ねーちゃんからの好感度も低くないやろ?)
(そうは言ってもまだ高くない!)
(……あんちゃん、どーてーか?)
(どどど、どーてーちゃうわ!)
(はいはい。まぁそうやろなぁ。
ちょっとでも女性経験があれば、
とりあえず押し倒すのが正解って
わかってるはずやもんなぁ)
(何言ってんだお前!
お前だってどーてーだろ!)
百歩譲って俺がどーてーだと認めるにしたって、
4つも年下のガキにそんなこと言われる筋合いは……
(わい、普通に房中術使うが?)
(……は?)
……ぼ、ぼーちゅーじゅつ?
防虫術のことじゃないよな? まさか……
(あんちゃん、尻使うか?)
(冗談はよせ!!)
まぁ、そんな頼りになるヤツなのだが。
(さて。じゃ、エルフのねーちゃんに教えてくるわ。
覗かれとるで、って)
(ちょっ!? おまっ!?)
(言われんの嫌か?)
(嫌に決まってるだろ!!)
(なら……)
にやりと笑みを浮かべ、
指で丸い輪を作り。
(わかっとるやろ?)
(くっ……!)
こうして口止め料を要求される。
まぁ、そこまではいい。
そこまでは、百歩譲って許していいのだ。
問題はその翌日だ。
「勇者君」
「ん? どうしたの?」
「君、わたしの行水覗いてたんだってね。
見損なったよ。戦闘中、後ろにも気をつけてね。
わたし、範囲攻撃魔法苦手だから」
「はぁぁぁぁああああ!?」
冷ややかな目とゴミを見るような目を向けてくる
僧侶と騎士を無視して、俺は盗賊に詰め寄る。
「どういうことだてめぇ!
口止め料払ったよなぁ!?」
「あぁ、もろたで。
もろたが、その後でな、
エルフのねーちゃんに聞かれたんや。
誰か覗いてなかった? って」
「口止め料払っただろ!」
「あぁ。だから知らん言うたんやが、
ねーちゃん、あんちゃんの倍のカネを握らせたんや。
だもんで、全部喋ったで。
あんちゃんがどーてーのことまでな」
俺は頭がくらりとし、その場に倒れ込むのだった。
~~回想終わり
と、こいつはそういうヤツだ。
結果、今は俺を含めてパーティの4人が
こいつに『友達料』を払っている。
それはこいつのスキルにも由来している。
俺達パーティの中で、
戦闘中にHPを回復させる魔法や技が使えるのは3人。
言うまでもなく専門家の僧侶スターシに加えて、
全体回復が出来る勇者の俺と、
ニンジュツの技で回復も出来る盗賊シール。
そして、この中で最速なのがシールである。
すなわち、本当に命が危ない時、
盗賊の回復が最後の命綱になってくる。
にもかかわらず、
戦闘中『いのちをだいじに』の指示に変えた時、
こいつが回復系の術を使う優先度は
残りHPの割合と危険度判断に加えて
その友達料による補正がかかってしまうのだ!
文字通り、地獄の沙汰もカネ次第、
友達料をケチると、結果的に六文銭を失うことになる。
なんてやつだ!
しかも、そんな友達料を
決してケチれない理由がさらにもう1つある。
それが先日の魔将軍との戦いの中でのこと。
~~回想
「追い詰めたぞ! そこまでだ!」
相手は魔王軍でも名を馳せた悪辣な魔将軍。
卑劣な数々な罠を突破し、
俺達はついに魔将軍をダンジョンの奥まで
追い詰めることに成功したのだが……
「ほほほ、バカな勇者だこと。
追い詰められたのが自分達とも知らず」
「ふん。強がりはよせ。
既にダンジョン内の魔物はすべて経験値に変えた!
後はお前だけだ!」
「そうね。魔物はもういないわね」
「……どういうことだ?」
にやりと笑った魔将軍が、俺達の後方を見て叫ぶ。
「さぁ今よ! 裏切りなさい守銭奴の坊や!
そこから罠を発動すれば、こいつらは終わりよ!」
「なぁっ……!」
4人が一斉にしまったと盗賊に振り返る。
が、やつはニヤりと笑って……
「ちぃと、足りんかったなぁ……」
足元の罠のスイッチを、踏み込む。
同時に巨大な落石が、魔将軍の上に落ちてきた。
哀れ、魔将軍はぺちゃんこだ。
「お前、買収されてたのか!?」
「あぁ、されたで。されとったが……
貰った額が、あんちゃん達4人の
友達料合計よりも少なかったんで、
買収されたふりだけして、ちゃんと最後に味方として
あいつにトドメ刺しとったんや。
今後ともおおきに、あんちゃんら」
~~回想終わり
と、それで俺達は今も友達料を払っているのだが、
つまり、4人の友達料合計よりも多くが支払われば、
こいつは間違いなく裏切るということ。
だから魔王の手先の正体は盗賊シールで、
裏切りの原因はカネなのだ!
そもそもカネは人の欲望の象徴。
犯罪の多くがカネ目当てだ。
カネで裏切るというのは、最も「らしい」理由だ。
……と、同時に。
実はこいつが裏切り者である理由はもう1つある。
それは消去法だ。
こいつは全員から友達料を受け取り、
行水の覗きなどを含めた他のパーティメンバーからの
悪意をガードするという、結果的に言えば
パーティ内の警官的な役割を果たしている。
つまり、誰かが裏切り行為を働けば、
こいつが間違いなく気付くのだ。
そして、パーティ内で最も隠密技能が高いこいつを
出し抜くことは他の誰にもできず、
他3人の合計以上の友達料を1人で支払える
個人的な資金力も俺達の誰にもない。
故に、裏切り者は盗賊シール以外にありえないのだ!
(と、わかった上で。問題はどう解決するか。
こいつの技はこれからの戦いに必須だし、
むしろカネで裏切っているなら
カネで裏切り返すことができるということ。
都市国家で政治家をやってたうちの親父から
俺はその手の権謀術数を学んで育った。
魔王の手先をこちらの味方につければ、
魔王側の情報が手に入るということで、
むしろこの状況はチャンスだ。
問題は、こいつがいくら貰っているかと、
その額以上のカネをどう調達するかだが……)
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と、勇者のあんちゃんは考えとる。
僧侶のアネさんも考えそうやな。
だが、勇者のあんちゃんは
この先を含めた別のことを考えてる。
何故ならあんちゃん。
裏切り者は、あんただからや。




