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このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!  作者: 猫長明
第3章:霧と影の樹海遭難編

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16/23

勇者の本心

この物語はフィクションです。

この物語には社会的倫理観から

著しくかけ離れた描写があります。

 パーティの中に裏切り者を抱えたまま

 最後の魔王軍拠点、魔要塞を攻略。

 最後の魔将軍も倒し、残るは魔王のみだ。


 魔王城はもう目と鼻の先。

 その最後の広がるのがこの樹海だ。


「くそっ、霧でパーティが分断されたか……

 シール! スターシ! イット!

 メイさん! ティカ!

 聞こえたら誰か返事をしてくれ!」


 しかし、この土壇場でまさかの断絶。

 原因は言うまでもない。




(舐めていた。

 自然の脅威を、舐めていた……!)




 一体何のために用意されたのか、

 普段使いに不便はなかったのか。

 勇者たちは毎回そんな疑問を覚えながら

 無駄に凝ったパズルめいた仕掛けの

 ダンジョンを突破していた。


 一方でこの樹海はただの樹海。

 仕掛けもなく、エンカウントする魔物も

 攻撃力最低の魔道士が素手でビンタして

 倒せる程度の強さでしかない。


 そんな油断でだらだら進んだ結果の

 この分断である。


(またしても裏切り者が

 暗躍しやすい状況を作ってしまったな……)


 勇者は己の失策を悔いた。

 それもこれも、

 ここに来て気を抜いてしまった結果。

 盗賊を殺さずに済んで、安堵してしまった結果。


(俺はもう、疲れていたのかも、しれないよ。

 兄さん……僕は、もう……)


 目を閉じればそこに、

 あの日の記憶が蘇る。




~~回想




(僕は兄さんより強い。

 兄さんより努力もしてきた。

 なのに何故、ただ選ばれただけの兄さんが勇者なんだ?

 勇者としてふさわしいのは……)


「お前だよ、ステッツ」

「っ!」


 真剣を打ち合う危険な修行。

 その中にあって一瞬呆けた弟ステッツに

 兄ヒイロが斬りかかると同時に小声で囁いた。


「ほらな。俺がそうやって余所見をした時に

 お前に本気で斬りかかられたら、

 俺の首は落ちてるだろうさ。

 だがお前はこうして反応できる」

「僕はそんなこと!」


()()()()()()

 勇者としてふさわしいのはお前だ」

「そんなことはない!

 だって……だって僕は!」




「僕は邪なことを考えてしまう!

 兄さんのような善人じゃない!

 僕は、卑怯者だ!」


挿絵(By みてみん)




「いや、それでいい。

 それでいいんだステッツ。

 俺はもし魔王を倒せても、

 その後に現れる敵を倒せない」

「その後に現れる敵……?」


「そう。俺は……民意に勝てない」

「民意……はっ……!」


 ステッツにはその言葉の意味が理解できてしまう。

 今、世界が平和なのは。

 少なくとも人間同士で争わない理由は。

 魔王と魔物が非道を成し、

 憎しみのはけ口として存在しているから。


 魔王が倒れ、真の平和が訪れた時。

 人々は今度は暮らしへの不満をこぼし始める。

 やれ税が高いだの、やれ格差があるだの。


 そしてそれを誤魔化すため。

 権力者は戦争を決断する。

 より弱いもの達から物とカネと幸せを奪い、

 自国民に分配することで解決を図る。

 人間は、そういう生き物なのだ。


 そして、世界がそんな未来に進む時、

 魔王を倒した勇者は……


「そうだ。政治を学んだお前ならわかるだろう。

 人類共通の敵を失い、平和になった世界で

 次に始まるのは人類同士の戦争だ。

 そこで魔王を倒した勇者は、

 真っ先に処刑される。俺はそこで、終わりだ」

「そんなことはない!

 いや、その時は俺が必ず!

 兄さんを助ける!」


「いや、ダメだ」

「何故だ!?」

「簡単なことだ、ステッツ」




「勇者は助けられてはいけない。

 勇者は勝ち続けなければいけない。

 勝つために勇者は、

 敵を理解しなければならない。

 敵を知らねば敵には勝てない。

 そして敵は、民衆は、弱い卑怯者だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)




「兄さん……っ!」

「ステッツ。お前にはすまないと思っている。

 兄として俺は、お前に何もしてやれなかった。

 お前ほどの努力も、俺にはできなかった」


「それは僕が兄さんを……!」

「嫉妬していた。そうだ。

 お前は俺に嫉妬していた。嫉妬を力に努力した。

 お前は、勇者に選ばれた俺を……」


「……あぁ、そうだ。僕は……

 いや、()は、兄さんを……!」

「そうだ。お前はよく知っているはずだ。

 本当に強い力を持つのは、

 正義でも愛でも勇気でもない。

 悪と嫉妬と臆病さだ。

 それを理解し、己の力に利用した者が、

 この世で一番強い。強いのは、お前だ」


「俺は……俺は、兄さんのことが……」

「そうだ、ステッツ。

 これが俺が兄としてお前に出来る

 最初で最後の教えだ。

 ステッツ……想像しろ」


「想像……何を……?」

「俺より強く、勇者としてふさわしいお前が

 事故で俺を殺した上で

 『俺ヒイロは、弟ステッツを殺してしまった』と

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして作るんだ。その、()()()()()()()()()




~~回想終了




 俺は兄さんと本気で剣を打ち合う。

 兄さんは本気で剣を打ち返した。


 ここで俺に殺されることで

 兄として最初で最期の教えを果たす。


 身内殺しという大罪で俺の良心を壊し、

 俺を魔王にも、魔王の先に待つ

 弱い卑怯者の群れとの戦いのための心構えを

 俺に説いてくれようとした。

 無敵の勇者の、心得を。


(ありがとう、兄さん)


 もしも兄さんが生贄になってくれなければ

 俺はここまで強くなれなかった。

 勝利のためどこまでも非情になれなかった。

 俺の中のマキャベリは、絵に描いた餅だった。


 そう、()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


(そうだステッツ、それでいい。

 さぁ、俺を殺してくれ)


 俺に殺されることを決意し、

 俺に殺される覚悟を決めつつも、

 兄さんは手を抜かなかった。


 俺は最後に、迷っていた。

 尊敬する兄を本当に殺していいのか。

 そんな大罪を成して強くなって、

 その強さに価値などあるのか。


 おそらくその日の俺は、

 今までで一番弱かった。

 そんな弱い俺にも兄さんは手を抜かなかった。


 手を抜かなかった、が……


「違うな、兄さん」

「っ!?」


 そう、違う。何故ならば……


()()()()()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 そして俺は、あの時と同じ顔で。

 兄さんに教わった通りの笑顔で。


「もう、消えろ」


 ()に剣を突きたて、トドメを刺した。


挿絵(By みてみん)




「なるほど……()()()()()()もいるのか」


 俺そっくりの影との戦闘を終え、

 剣についた血を拭ってから、

 俺は舌打ちをうつ。


「無事で居てくれるか。仲間達は。

 俺と同じ、()()()()()()()

ここまでの読了ありがとうね。

ブックマークや評価や感想、いただけるとうれしいわ。


この物語は最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

プロローグ以降は毎日22時20分更新。

全4章で、各章4話構成、最終話は10月16日になるわ。




前作にあたる異世界転生モノ、

鉄道オタクのエルフのお話もあわせてよろしく。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)

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