勇者パーティの連携戦闘
この物語はフィクションです。
この物語には社会的倫理観から
著しくかけ離れた描写があります。
逃げ場のない渓谷で前後を挟まれる
絶望的状況で真に恐れるものは何か。
そう、仲間に背中から斬られることだ。
ただでさえ厳しい状況で
裏切りの恐怖を感じながらの戦闘は
絶対に避けたい。それは当然の発想だ。
「まぁ挟撃は無いと思うで。
他の拠点は丁寧につぶして回ったし、
あんちゃんに言われて抜け道は
調べに調べたんや。
わいの力を信じぃって!」
にかりと歯を見せて笑いつつ
サムズアップをする盗賊に
同じように見た目でだけは笑って
サムズアップを返しつつ。
(その『力』を信じてるからこそ怖いんだよなぁ)
勇者からしても盗賊の力は本当に頼りにしている。
だからこそ裏切らせるわけにはいかないし、
疑っていると思われてもいけない。
となれば、今彼が出来ることは。
「あぁ、ここまでの調査ありがとう。
これ、危険任務特別手当だ」
「ほんまか!? おおきにぃ!」
納得できる理由をつけて追加でカネを渡すことだ。
「よし……では行くぞ!」
かくして勇者一同は死地に踏み込む。
「火砲来るよ!
あたいの後ろに下がって!」
「攻撃が止むまで耐えるぞ! スターシ!」
「わかってますわ、持続回復はかけます。
騎士ちゃん、お願い」
「頼りにしとるでドラちゃん!」
ここで一度火砲に耐えた後で。
「メイさん!」
「はい! それだけの火薬があるなら
綺麗な花火になりますね!」
魔道士の炎魔法で前線を薙ぎ払うと同時に
これ以上の火砲使用を封じて。
「突撃来るで!」
「左は任せたぞシール!」
「右は向かんわであんちゃん!」
「僧侶! 魔道士!
あんた達への攻撃は通さないよ!」
「はい! 斬り漏らしを狙います!」
「バフは十分にかかってるはずよ!」
徹底した役割分担で
突撃をかける魔物を経験値に変えていく。
これぞ勇者パーティの本領であった。
「前衛の布陣は全滅したみたいだな」
「宝箱回収やでー!」
渓谷を前に進むと同時に
楽しい楽しい戦利品回収タイム。
そこで、見慣れないオブジェクトが発見される。
「なんだこれは。このダンジョンの仕掛けか?」
「豪華な装飾やないか!
こりゃ高く売れるでぇ!」
「妖精さん、これは?」
「ふむふむ。これはマーカーですね」
「マーカー?」
「はい。テレポート用の中継点です。
これを残しておけば、
いつでもここに飛んでこれますよ」
「それは便利ですね!」
「現状私が記憶しているテレポート可能な地点で
一番近いのが50km手前の街の教会です。
あとはパーティ分割に備えて
馬車とみなさん個々を記録しているのみですね」
まぁ、パーティ分割はしない、
もとい、出来ないのだが。
ともあれ、不慮の事態が起きた時、
もう一度50kmを歩かなくてもいいのは助かる、
ように思えるのだが。
「……いや、破壊しよう」
「そうね。私もその方がいいと思う」
と、勇者と僧侶は冷静に判断する。
「どうしてだい? 便利じゃないか!」
「テレポートは俺達だけの専売特許じゃない。
そのマーカーがここにある理由、
俺達の冒険をサポートするためだと思うか?」
「あ……そうか。魔王軍がここに
戦力を送るためのリスポーンアンカー……!」
「そういうことだ。
これを無視して進めば挟撃されてしまう。
破壊するぞ」
そう決定されたわけだが、
ここで盗賊が待ったを挟む。
「待て待て待て!
あんちゃんこいつをよく見ろ!
どう思う!?」
「どうって……?」
「めっちゃ豪華でいい装飾品や!
こいつは高く売れるで!
持ち帰るんや!」
「お前なぁ……」
確かに言われてみればそんな気もする。
カネに悩んでいれば回収一択だ。
しかし勇者一行のカネは十分で、
既に店売りのアイテムに関しては
全アイテムをコンプリートしておつりが来る。
もはやこれ以上のカネは、
カネそのものを求める守銭奴の盗賊以外には
無意味なものとなっていた。
「わかったわかった。
このダンジョン攻略後の報酬分配、
俺の分も全部持っていっていいから」
「そういう話やないんや!
もったいないやろ!」
思わず舌打ちを打ってしまう勇者。
この守銭奴、本当にめんどくさい。
裏切り者だとか関係なくめんどくさい。
(やはりこいつが裏切り者で、
俺達を挟撃するためのオブジェを
守ろうとしている……
わけじゃないんだよなぁ。
どう見ても平常運転だよこいつ)
脳内メーカーでカネしか出ない盗賊のこと。
こいつは間違いなく正気だ。
正気で狂気だ。
だがそれでも。
「……イット。頼む」
「あいよ。ふんっ!」(ベキッ!)
「あぎゃぁぁぁぁああああ!!」
これを残すわけにはいかない。
といっても自分で壊せばヘイトを買う。
だから恋愛関係にある騎士に壊させる。
こういう細かいところでも判断を誤らない勇者。
彼は確かに、優秀なリーダーだった。




