魔道士と妖精の推理
この物語はフィクションです。
この物語には社会的倫理観から
著しくかけ離れた描写があります。
「みなさんどうしてこそこそお話しを
はじめてるんでしょうか?」
「賢者様を殺した犯人を探してるんだと思うですっ!」
今までと違うパーティ内のぴりぴりした雰囲気に
寂しそうな表情をする馬車の中の魔道士。
そんな彼女に御者務めていた妖精が
能天気な平常運転を返す。
「なるほど!
みなさんが探してるなら
きっとすぐ見つかりますね!」
「あはは! そうですよそうですよ!」
これにさらに魔道士からの能天気な返し。
結局のところこの娘は底なしのいい子である。
ちょっと放火が好きなだけで。
「でもわたしも少し
考えてみようと思います。
お付き合いいただけますか?」
「はい喜んで!」
と、ここから余り物2人の推理ごっこが始まる。
そもそも今回の一件、
証拠物件がすべて燃えている上に、
全員がそれぞれの腹に何かを抱えている状況。
賢者にトドメを刺してしまったのが
結果的に言えば魔道士だったという
意味のない結論には至ったものの、
賢者を刺し、毒を盛ったのが誰かなのかという
最も重要な謎には誰も至れていないし、
至れるはずもないように思えた。
「最初の予言を貰ってから
殺されてるとこが見つかるまでの間、
誰がどこで賢者様と会っていたかわかれば、
推理も簡単になると思うんですけど」
「あ、私わかりすよ」
「なら簡単ですね!」
と、まさかのジョーカー。
全員が能力的にも動機的にも
完全にスルーしていた妖精ティカが、
謎を解く鍵を普通に持っていたのだった。
というのも。
「ほら、私みなさまのテレポートを担当してるので。
みなさまそれぞれがどこに居るのか、
半径50m圏内ならわかるんですよ」
「なるほど!」
妖精がこれを表に出していれば、
特にこの情報が勇者か僧侶か盗賊に届けば、
スマートな解決も見えたかもしれないというのに。
それがわかって言い出さなかった理由は。
(私は犯人見つからない方がいいと思ってますし。
女神様はそういう人の複雑な闇も知るべきなんです。
大丈夫ですよ、みなさんならもうこのくらいで
魔王に負けることはありませんって)
という確信犯で。
(それでも一応サポート妖精として
手伝ってる体裁は取らないとですし、
騎士様と双璧を成すアホの子の
魔道士様なら話しても大丈夫でしょう)
という二重の舐めプである。
「えっと、確か賢者様は毒殺されたんですよね?」
「はい。あと、刺し傷もあったみたいです。
どっちが致命傷になったのかはわかりません」
「でも犯行現場は密室だったんですよね?」
「そうですね。もう燃えちゃったので、
本当に密室だったかはわかりませんけど」
「毒はあらかじめ盛られたかもとして、
刺されたのは密室の中ですよね?」
「何か遠隔的なトリックがあったの
かもしれませんけどね。もう燃えてますけど」
「で、賢者様に近付いたのは?」
「全員ですね。それも5人全員1人ずつ。
直接飲み物や食べ物を渡したかまでは
わかりませんけど、近くの飲み物に
毒を入れるくらいはできたはずですね。
遅効性の毒なら、会った順番も関係ないですし、
最後に会ったのは魔道士様です。
その時刺されてる痕跡ありましたか?」
「なかったなぁ」
やはりそううまくは進まないもの。
ここで1人でもチャンスがなかったとかなら
消去法が1つ進んだというのに。
そもそもせっかくの密室トリックにしても
燃えてしまった今、ノーヒントどころか
解決の糸口自体が存在しないのだ。
「やっぱりなんにもわからないですね!」
と、最低限のサポートの仕事は
こなしましたよと話を終えようとする妖精だが。
「でも、犯人が誰かは簡単ですよね。
とってもシンプルな話です」
「え? でももう燃えてて何のヒントも……」
「ここまで全員の行動がわかって、
密室というノイズが燃えてシンプル化した今、
もはやトロールでも解ける謎解きなんですよ」
「え? え? えっ!?」
「だって、最後に鍵を開けたのが妖精さんなら、
テレポートで部屋に入ったのも妖精さん。
あなた、トリックとかなんにも関係なく、
賢者様を刺せる唯一の人物ですよね?」
「…………」(ちっ……)
「刃物系のスキルを持たず、
小柄な体で力がなくても。
毒で体が動けなければ、
刺せますよね?」
「…………」
「証拠はすべて燃えてしまいました。
もしかしたら遠隔操作系のトリックの痕跡が
残されていたのかもしれない。
ですが、かもしれないをいい出したら、
なんでもかんでもかもしれない。
そして最後に会ったのはわたしと教えてくれた。
その時はまだ刺されていなかった。
ならば現状、ここから犯人を考えるなら。
妖精さんしかありえないんですよ。
ね? とってもシンプルな話でしょう?」
「…………」
これが舐めプの結果である。
もはや言い逃れの余地はない。
なによりも。
この表情がすべての答えである。
「でも……」
「ひぃっ……!」
「かもしれないはあるよね~」
「で、ですよね~!!」
このパーティには、1人魔王の手先が居る。
このパーティには、1人しか魔王の手先が居ない。
そんなパーティにおいて唯一の確白。
ただちょっと頭がおかしいだけの
エルフの魔道士メイ。
果たして彼女がどこまで正気で
どこから狂気なのか。
全員を即座に壁に焼き付く影に変える
4000℃の核熱魔法が使える点を含めて
謎の鍵と全員の命、その両方を握っているのが
彼女であることは間違いないようだ。
賢者殺人事件、迷宮攻略開始。
攻略完了の兆しなし。




