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このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!  作者: 猫長明
第1章:賢者殺人事件編

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10/23

盗賊と騎士の結託

この物語はフィクションです。

この物語には社会的倫理観から

著しくかけ離れた描写があります。

 馬車から離れ、

 聞き耳も届かない距離で

 2人会話する勇者と僧侶。

 その後姿を盗賊が悔しそうに見る。


(流石や、勇者のあんちゃん。

 足の速さではわいがパーティ最速でも、

 頭の速さではあんちゃんが最速や。

 僧侶のアネさんに手をつけるのが

 一歩……遅かったわ)


 盗賊シールは、

 勇者を裏切り者と見ると同時に

 最大限の危険視を向けていた。


 同時に僧侶のこともまた、

 その頭のキレの良さから危険視している。


 勇者が裏切った理由は合理的判断。

 そして、その言葉に最も共感してしまう

 可能性が高いのが僧侶だった。


(下手するともうここで、

 あの2人に共謀されたか……?)


 冷や汗を流しつつここからの

 逆転の手を考える盗賊。

 その背後から近寄るのが……


「なぁ、シール」

「ん? どうしたドラちゃん。

 なんかわいに用か?」


 ドラゴニアスの騎士イット。

 その表情には迷いと不安が見える。


「シールじゃ……ないんだよな?」

「賢者様を殺したのがか?」


「うん。それと、裏切り者も……」

「わいとちゃうで。

 ドラちゃんもやろ?」

「うん……」


 と、優しい笑顔で返しつつも。


(ま、誰にしたって同じやけどな、今の話。

 誰も自分が犯人だなんて言わんわ)


 そうため息を挟んだ後で、気付く。


(待てよ?

 ならなんで、そんなこと聞いた?)


 改めて騎士の顔を見る盗賊。

 表情から伺えるのは、迷いと不安と、

 プラスのなにか。


(……好かれとるとはちゃうな)


 ちゃうんとちゃうわ。


 勇者のことをどーてーと小馬鹿にしていたように

 盗賊には房中術の覚えがあるし、

 その前提の恋愛経験もあった。

 では何故彼は騎士の思いに気付けないのか?


 その答えは、魔族である騎士が盗賊に向けるのは

 恋愛感情というよりも生物的発情であり、

 彼女はその背中に隠した触手をもって

 人間とは致命的に異なる方法で

 盗賊のカラダを求めているため。

 その表情も雰囲気も、ごく普通の女性が向ける

 恋愛感情とは微妙に異なるものだったのだ。


(この表情は、好かれてるんとちゃう。

 ありえへん。ありえへんとは思うが、

 あえて言うなら……)


――()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


「シール……シールは、

 勇者とも魔道士とも僧侶とも違うよね?」

「そりゃそうやで。わいはわいや」


 多分そういう質問じゃない。


 そもそもだが、

 他の3人がジョブ名呼びなのに

 君だけ名前呼びなあたりから

 気付いてやってもいいはずなのだ。


「うん。あたい、

 シールのこと信じてるから」

「ははは! わいもやで!

 わいもドラちゃんを信じとるで!」

「!!」


 この、告白が通ったかに見えるやり取り。

 しかし双方の今の心の内は。


(シールもあたいのこと、好きだったんだ……!)

(騎士の盾を信じずして戦えるわけないやろがい)


 致命的なすれ違いを無視して高鳴る騎士の心。

 その乙女がさらなる一言を求めてしまう。


「シール、あのさ……

 あたい、かわいいかな?」

「うん? ははは!

 なにいうとんねん!

 ドラちゃんはかわいいやろ!」

「!!」


 改めて2人の心の内は。


(あたいのこと、かわいいって言った……!

 ちゃんとあたいで発情できるんだ……!)

(ほんまドラちゃんはかわええなぁ。

 小さい頃飼っとったわんこを思い出すで)


 もはやこいつが裏切り者でいい気もする。

 少なくとも女の子の気持ちに関しては

 全力で裏切っているのだから。


「しかしドラちゃん。

 こんなことがあってドラちゃんは

 いつも通りに戦えんのか?」

「え?」


「敵の攻撃からわい達の盾に

 なれるんか聞いとるねん」

「シールは守れるよ!」


「わいは、か。エルフのねーちゃんや

 勇者のあんちゃんや僧侶のアネさんは?」

「魔道士は……

 後衛範囲火力は優先的に守らないと、

 パーティ戦略が瓦解する」


「そやな。騎士の基本や。で?」

「勇者と僧侶は……その……」

「……なるほどな」


 すぅ、と息を整えて。


(本命は、わいと同じか)


 僧侶に関して言えば、その通り。

 彼女は僧侶の本性を知っている。

 邪神の狂信者であるその本性を。


 その一方、何故騎士は勇者に不審を向けるのか。

 その理由は……


(勇者の力……

 クソオヤジを殺せる唯一の力。

 その力で後ろから斬られたら、

 あたいに生き残る術はない)


 生物的本能からの恐怖だった。


 が、この事実に関しても

 盗賊は別のものを見てしまう。


(わいらのジョブ構成なら

 騎士は基本的に

 後衛の魔道士と僧侶の盾になる。

 前衛でもわいは滅多に当たらんし、

 あんちゃんはそもそも

 騎士に次ぐ防御力がある。

 だが、それにしても……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは勇者に背中を見せられない、

 魔王の娘の本能だったのだが。


(僧侶のアネさんを怖がるのは、

 こないだ一度死んだからや。

 流石に死の恐怖は強烈だったんやろな。

 が、あんちゃんを守らないのは、

 わいと同じで、わかっとるからや。

 あんちゃんの、危険性を。

 アホ……もとい、素直ないい子のドラちゃんは

 それを雰囲気から感じ取ってるんや!)


 一瞬アホとか言った時点で

 盗賊からの男女の好感度がフラットなことがわかる。

 かわいい子だとは思っていても、

 そのかわいいの意味が致命的に違う。

 盗賊は騎士のことを、デカくて人語を話す

 ゴールデンレトリバーくらいしか見ていないのだ。


 そもそも彼の好みはおねーさんであり、

 あえて言うなら一番のタイプは僧侶。

 あくまで顔と体だけで言うならだが。

 流石に彼も僧侶の危険性を

 直感的にはビンビンに理解していた。


「もしかして、シールも……」

「ん、あぁ。わいもあの2人は苦手やな」

「やっぱり……」


 少なくとも同じ敵を共有する2人。


 その上で騎士は盗賊を信頼している。

 その理由は言うまでもなく片思いの恋愛補正。


 一方で盗賊も騎士を信頼している。

 その理由は。


(このアホの子に裏切りとかそういう

 複雑で高度なムーヴができるわけないやろ)


挿絵(By みてみん)


 と、そんな絶望的すれ違いを見せつつも。


「……なぁ、ドラちゃん」

「なに?」


「この先なにがあっても、

 わいのことだけは信じてくれへんか?

 わい、ドラちゃんになら

 なんでも話すさかい……ダメか?」

「っ!! う、うん! 信じる!

 あたいシールを信じる!

 シールにならなんでも話すよ!」


「そっか……ははっ!

 そうかそうか!

 今後ともおおきになドラちゃん!」

「こちらこそだよシール!

 あ、これ今月の友達料だよ!」

「まいど!!」


 こうして勇者と僧侶が結託したと

 勘違いした盗賊は、

 騎士と結託するに至る。


 一方の騎士は盗賊と結託したつもりはない。

 彼女にしてみればここで、

 盗賊とは恋仲になったつもりなのだ。


 もしもここを僧侶が見ていれば

 こんな絶望的なすれ違いは起きず、

 盗賊は即座にフレイルで脳天をかち割られた後で

 おざなりな蘇生魔法がかけられていたはず。

 しかし今ここに僧侶の目はない。


 魔王の娘、騎士イットよ。

 もしもこの旅が無事に終わるなら

 君にはこのショタを孕み袋にする権利がある。


 そしてもしも盗賊に逃げられたなら、

 平和な世界で君は注意して生きねばならない。

 君には絶対に足を踏み入れてはならない場所がある。

 ホストクラブっていうんだけど。

ここまでの読了ありがとうね。

ブックマークや評価や感想、いただけるとうれしいわ。


この物語は最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

プロローグ以降は毎日22時20分更新。

全4章で、各章4話構成、最終話は10月16日になるわ。




前作にあたる異世界転生モノ、

鉄道オタクのエルフのお話もあわせてよろしく。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)

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