勇者パーティの和やかな食事風景
この物語はフィクションです。
この物語には社会的倫理観から
著しくかけ離れた描写があります。
世界は今、魔王の闇に覆われています。
日の光は閉ざされ、人々は恐怖に怯えています。
しかし安心しなさい、人の子よ。
光の前に、闇は必ず消え去るが定め。
今、魔王を討つため、
曇りなき心の戦士たちが立ち上がりました。
善の心と愛を知る彼らならば必ずや魔王を討ち、
混沌の世界に光と秩序を取り戻すことでしょう。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
女神クリアに選ばれ集った5人+1の勇者パーティ。
ここまで数々のダンジョンを攻略し、魔の罠を退け、
レベルを上げると共に絆を結んできた彼らだが、
今、温かく豪華な食事を前にして
誰一人笑顔が浮かばず、会話もかわされていない。
その理由は、先刻、
賢者ハイセから授かった予言にあった。
――あなた達の中に一人、
魔王の手先が紛れ込んでいます。
賢者ハイセの予言は絶対である。
その言葉は彼女の知識と慧眼によるものではなく、
賢者のみが使える魔術によるもの。
アカシックレコードにアクセスし、
絶対の真実のみをハイセの口を通して語る
口寄せに近い術である。
真実は真実であり、思想も目的も持たない。
賢者ハイセにしても、具体的に誰が裏切り者かわからず、
勇者達を疑心暗鬼に落としてしまう言葉と理解できても
その言葉を紡ぐことを止められなかったのだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
事実、5人は疑心暗鬼に駆られている。
実際彼らには、それぞれ同じパーティ内の仲間を疑う
疑念の種とも言える秘密を知っていたのだ。
(魔王の手先の目的は間違いなく……)
ちらりと一瞬だけ盗賊シールの顔を覗いて
即座に目線を食器に戻す勇者ヒイロ。
(間違いなく、こいつには魔に堕ちる理由があるんや。
いや、むしろこいつの正体は……)
そんな視線に気付きつつ、
逆に勇者ヒイロの様子を覗う盗賊シール。
(私は裏切り者の正体を知っています。しかし)
僧侶スターシは淡々と食事を摂りつつも、
騎士イットの動きだけには注意を払う。
(動けば互いを道連れにする、か)
その騎士イットも、僧侶スターシを警戒しつつ
いつも通りの落ち着きを保っている。
(もしもわたし達が仲間割れするようなら……)
そんな4人のやり取りを
どこか邪悪な笑みを浮かべて見守る魔道士メイ。
……改めて紹介しよう。
これこそ、女神クリアに選ばれた
善の心と愛を知る曇りなき心の戦士たち。
魔王を討つべく長い旅をし、
数々のダンジョンを攻略し、魔の罠を退け、
レベルを上げると共に絆を結んできた
勇者パーティ一同の和やかな食事風景である!
まさかこの中に一人裏切り者が、
魔王の手先がいるなど、誰が信じられようか。
(絶対こいつなんだよなぁ……)
(わいはお前の正体知ってるねんで……)
(どこで始末しましょうか……)
(できるだけ穏便に、事故に見せかけて……)
(ひとりは寂しいよね……ふふ……ふふふ……)
誰が信じられようか!
と、そんな和やかな食事風景の中、
6人目とも言えるパーティの仲間、
妖精のティカが大慌てで飛び込んでくる。
「み、みなさん! 大変です!
賢者ハイセ様が……死んで……!」
「なっ……!」
まさかの展開に全員が同時に立ち上がる!
賢者ハイセが再度アカシックレコードに
アクセスできさえすれば、
この中の裏切り者の正体を暴けたというのに!
予期できるはずがなかったこの未曾有の危機を前に、
勇者達5人の心は1つになる。
(((((そりゃ口封じするよなぁ……)))))
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
世界は今、魔王の闇に覆われています。
日の光は閉ざされ、人々は恐怖に怯えています。
しかし安心しなさい、人の子よ。
光の前に、闇は必ず消え去るが定め。
今、魔王を討つため、
曇りなき心の戦士たちが立ち上がりました。
善の心と愛を知る彼らならば必ずや魔王を討ち、
混沌の世界に光と秩序を取り戻すことでしょう。