夢と現実の狭間で (今回は奏視点です。)
皆さんどうも!Yukiです。
そろそろ、新しい作品を出そうかと考えています。
楽しみにしていてください!
それでは本編を
「どうぞ!」
朝でも夜でもない時間がある。
窓の向こうの空は、明るくも暗くもなかった。
そんな曖昧な色が奏に染み渡っていった。
ベッドの上に座り込んだまま、奏は手のひらを見つめていた。
指先に、誰かの体温が残っている気がした。
ありえないはずなのに、確かに温かかった。
「……カナ。」
「カナ先輩。」
また、二人の声が聞こえてくる。
振り向くと、窓の外には二つの人影が見えた。
風で髪が揺れ、制服の裾が光を掠める。
その姿は間違いようがなかった。凛音と優だ。
胸の奥が痛んだ。でも、目を逸らすことができない。夢でも幻でも、二人を見ていたかった。
二人は何も言わず、微笑んだ。
その笑みが、どんなに懐かしいものか、息を吸うだけで喉が焼けるように熱くなる。
気づけば窓へ歩み寄り、手を伸ばす。
指先がガラスに触れた時の冷たさ。それが、現実の証拠のように感じられた。
その瞬間、優の唇が動いたが、音にはならない。でも、確かに言葉を形づくっていた。
それが何を意味していたのか、奏には分からなかった。
ただただ、胸の中で何かが崩れた落ちた気がした。
その途端、凛音の姿がぼやけ、ゆっくり消えていった。
代わりに、いつの間にか部屋の中に居た優が、私を優しく抱きしめた。
急に身体の力が抜けた。優の背中に腕を回すこともなく、膝から崩れ落ちる。
冷たい床の感触が、現実へと引き戻すトリガーのようだった。
呼吸が浅くなる。
目を閉じても、瞼の裏に二人の姿が焼き付いていた。
そして、意識が闇に溶けていった。
暗闇の中で、誰かの手がそっと触れた気がした。
けれどその温もりが誰のものだったのか、確かめる術はなかった。
◇◇◇
カーテン越しに射す朝日が、白く滲んで見える。
それが現実である証拠のように思えた。だが同時に、どこか偽物の光にも感じられた。
奏は枕元の時計に視線を落とす。
針は、昨日の夜から動いていなかった。止まっている。
それだけで、時間の感覚が壊れていく。
「優、凛音……?」
呼びかけた声が、部屋の中で反響する。
分かっている。もう、いないのだ。
だけど、優の痕跡はまだそこにあった。
貸してもらった文庫本、忘れ物のイヤホンの片割れ。
ひとつひとつが、確かに「存在していた」証。
それに触れるたび、手が震えた。
記憶の中の優は、笑っている。曇りの日も、風の強い日も。
その笑顔が今は呪いのように胸に刺さる。
『どうして、置いていったの?』
口の中でこぼれた声は、自分でも聞き取ることはできなかった。
空気に溶けていくように、何も残さなかった。
覗き込むと、自分の顔が見える。けれど、少し違って見えた。
瞳の奥に、凛音の影が映っていた。
その瞬間、鏡の中の「彼」が微笑んだ。
そして、唇が動く。
「カナ先輩、あなたはまだ……夢の中。」
背筋が凍る。恐ろしくて後ずさると、足が何かを蹴った。
落ちたのは、ガラスの花瓶だった。優からのプレゼントのものだ。
ガラスが割れ、破片が光を反射し、キラキラと光る。
それら全てが凛音の瞳のように見えた。
言葉にならない悲鳴が部屋に響き渡った。
夢と現実の境界が、ふたたび曖昧に溶けていく。
奏は立ち上がろうとしたが視界が曖昧になり、次の瞬間にはーーまた別の景色の中にいた。
見慣れた校舎。空は澄んでいて、遠くでチャイムが鳴っている。
その中心に凛音が、優がいた。二人が並んで笑っている。
それは、ありえない光景だった。それでも、奏の胸はポカポカしていた。
「もう少しだけでいいから、ここにいさせて……」
そんな切ない願いは、風に溶けて消えた。
校舎の廊下は、どこまでも長かった。
窓から見える空はどこまでも澄んでいて、その静けさが恐ろしかった。
凛音と優の笑い声が聞こえる。二人とも、あの日のままの姿だった。
「カナ先輩、遅いよ。」
「寝坊しちゃった?」
そんなやりとりを、幾度も夢で繰り返した。
「ねぇ、カナ先輩。」
「まだ、ここにいたい?」
その問いに答えられなかった。声がつまって言葉が出ない。
けれど、胸の奥で確かに「うん」と聞こえた。
優が静かに微笑む。
その笑顔は、生前のままだった。
すべてが記憶と同じで、懐かしいのに、どこかニセモノのようでもあった。
「ここは、夢なの?」
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
「夢だと思えば夢だし、現実だと思えば現実。」
「どっちを選ぶかは、カナだよ。」
世界が歪み、音が遠ざかる。
目を閉じたれば、そこは病室だった。
白い壁。冷たい金属の匂い。カーテン越しの光が照らす。ベッドの上の、優の眠る姿を。
もう息をしていないのに、目を開けそうな程に穏やかで、その静けさが、残酷だった。
凛音が泣いていた。あの光景を、何度も何度も夢に見た。
「ねぇ、カナ。あなたを閉じ込めてるのは、私達じゃない。自分自身、それだけ。」
直接脳に響く言葉が、胸の奥に深く刺さった。痛みよりも、静けさが広がる。
私は……どうすればよかったの?
誰に向けた想いなのか、自分でもわからない。
そんな想いには、凛音は答えない。優も動かない。
ただ、風がカーテンを揺らす音だけがして、それが現実のように響いた。
そして、光がすべてを包み込む。
景色がひび割れて、崩れ落ちた。
目を開けると、部屋だった。
いつもの部屋。
時計は動いている。
カーテンの隙間から、朝が差し込んでいた。
「また、会えるよ」
空から声が降ってきた。
もう、何も信じられなかったのに、涙が頬を伝う時は、生きていると強く感じた。
それは、夢ではなく、現実だったのかもしれない。
たとえ、今まで見てきたものが現実であったとしても、二人が死んだのは夢であってほしかった。
本編はどうでしたか?
満足していただけたなら幸いです。
最近、レビューされたくて仕方がないです。
レビューお願いします!!
それではまた次回!
「バイバイ!」




