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黄昏時のスーベーニール  作者: 辰巳りん子
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真・エピローグ

 愛し子の柔く少しく汗に塗れた髪の束を指ですくって彼女は部屋の内側の夜に目を向ける。

 あやかしたちの世界の中で、まさか子が持てるとは思っていなかった小夜子は、未だに愛し子の存在を訝しく思いながらもそれ以上に愛でる気持ちが優っていて、己の幼い頃と同じようなモノを好んでくれる愛し子の、その一挙手一投足が愛おしくて、彼の人にだいぶん面立ちの似た我が子の立髪をもう一度撫ぜ、額に浮かんで見える汗をタオルでそっと拭った。


 小夜子は忘れられずにいた。

 時にフッと思い出されては、父とかつて訪うた浜辺へと顕現され、

 そうして老いて行く父の背中を見ては

 切ないような悲しいような心持ちの中に少しの安堵を添えて

 黄昏時、淡い時間、

 彼岸と此岸が曖昧になる折に浜辺に寄ってはいくつかの宝物を持ち帰ったり

 小夜子の部屋へと顕現されればそうっと己の宝物を一つか二つ、持ち帰った。

 ある時は母の故郷へと訪うこともあった。

 実家へと身を寄せたのであろう母は、だいぶんと窶れてはいたが緑の溢るる公園で、

 春夏秋冬、それでも悠介を穏やかに見つめていた。

 どんな思いで小夜子のことを思い出したのだろう。

 父も母も、何故か淡い時間に小夜子を思い出し

 そうして小夜子に土産を持ち帰る時間をくれた。

 シロツメクサの大群が彼の地に棲みついてから

 彼岸と此岸が曖昧になる時間帯にだけ、

 小夜子は愛娘への『現実世界での土産物』を拾い集め帰ることが出来るようになった。

 それは父母に思い出された証としてでもあるように。


 ブリキのバスに乗り夜空を舞っているであろう愛し子に掛けた毛布をもう一度愛おしさを込めた手付きで掛け直し、その額にそっと口付けをした小夜子は、廊下へと続く扉へと物音を立てずにそっと向かい、優しく扉を閉めた。

 その姿を見届けたガーゴイルは「寝たか?」と短く問うた後、瞳の仕草だけで小夜子を己の座る膝へと誘い、幼い頃と幾分も変わらぬ幾千万の星を纏った小夜子の瞳や透けるような頬を柔らかく見詰めながら、小夜子に優しく接吻をした。


「おかえり、小夜子」


                                  −終−


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