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黄昏時のスーベーニール  作者: 辰巳りん子
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来雷

 ぽつり。

 最初に洗礼を受けたのは、咲き終わった花弁の茶紫色を覆うように茂る一株の紫陽花の葉の、その一枚であった。

 ぽつり。ぽつ、ぽつ。

 先ほどまでの満面の星空を無かったことにするように、夜空の濃紺を錆色に変えながら嵐が迫って来ていた。ぽつぽつと葉を打つ音はやがてしとしとと葉の一面を濡らし始め、ざあざあと葉を揺する音に変わるとやけに無造作に萎れた花弁を振るい落とし始めた。紫陽花の萎れた花弁にはそれに抗う術はなく、朽ち果てた花びら一枚一枚をその葉や宿る大地にぺたりぺたりと貼り付けて行った。

 窓を叩く雨の音に、大鳥啓輔はやっと外の天候不順に気が付いた。読み物に没頭すると途端に世間との回路が遮断される。「夏の嵐か…」何となしにそう呟き、遠くピカリと光る雷雲を見るでもなしに見て、停電になった際に読むことに困らぬよう、書斎の引き出しに仕舞ってある蝋燭の有り様を確認した啓輔は、小夜子の部屋からであろうパタンパタンと何かが旗めく音にも特に気を止めず、読み差しの本に目を落とした。

 外には確実に雷雨を伴った嵐の群れが差し迫っていた。


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