Episode 2 死中求活 -They called it training- Part 3
座学の続きが始まった。
ヴィクトルが操作すると、モニターの映像が切り替わり、ノイエ・アークとヴェスペリオンの戦争の歴史が映し出される。
「さて、お前たちにまず理解してもらうべきことは、この戦争がどのようにして始まったのか、そして何を目的として続いているのかだ」
映像には都市の瓦礫、焼け焦げた大地、そして戦火に包まれた人々の姿が映し出される。ユリウスとクラリスは無言のまま、それを見つめた。
「我々ノイエ・アークは、かつて統一された世界の中で発展を遂げていた。だが、ある時、ヴェスペリオンと名乗る勢力が現れ、理不尽な侵攻を開始した。彼らは我々の社会を破壊し、無数の市民を虐殺し、文明を奪い去ったのだ」
ヴィクトルの口調には感情がこもっていた。しかし、それは怒りや憎しみではなく、冷徹な事実を述べる軍人の声だった。
「ヴェスペリオンは、異端的な思想を掲げ、自らの理想を押し付ける狂信者たちだ。彼らに降伏するという選択肢はない。我々が屈すれば、待っているのは奴隷か死だ」
モニターが切り替わり、ヴェスペリオンの戦術データが映し出される。敵兵士の特徴、使用する兵器、戦闘の傾向などが詳細に表示されていた。
「彼らは圧倒的な物量で侵攻し、戦場を埋め尽くすように攻撃を仕掛けてくる。精鋭による局地戦も得意とし、徹底した戦術で我々の防衛網を突破してくる。また、彼らの兵器は我々のものとは異質な構造を持ち、高い適応能力を誇る」
クラリスが手を挙げた。
「質問いいですか? その“異質な構造”って、具体的にはどういう意味なんです?」
ヴィクトルは一瞬クラリスを見つめ、モニターを操作すると、敵の兵器――マローダー(Marauder)の戦闘映像が流れ始めた。
「それをこれから説明する。ヴェスペリオンの兵器は、我々のものとは根本的に違う。まずは、奴らの主力である人型ロボット、マローダーについてだ」
映像の中で、黒く細身の人型機体が人間の兵士を瞬時に切り裂いていく。その動きは異様なほど滑らかで、まるで生き物のようだった。
「マローダーは柔軟な外骨格を持つが、小銃程度の火器でも十分に撃破可能だ。ただし、動きが素早く、無闇に近づけば逆にやられる危険が高い。さらに、高度な自律行動が可能であり、戦場で即座に状況を判断し、最適な攻撃を仕掛けてくる。加えて、最も厄介なのは……」
映像が切り替わる。小さな機械が兵士の頭部に取り付き、彼が突如味方に銃を向けた。
「この子機、スプロウト(Sprout)だ。こいつも小銃程度で破壊できるが、問題は寄生される前に排除できるかどうかにある。こいつはマローダーが戦場に散布する小型兵器で、人間に寄生し、意識を乗っ取る。兵士が気づいた時には、もう手遅れだ」
クラリスが息を飲む。
「……つまり、奴らは単なる機械じゃない、こっちの兵士を戦力として利用するってこと?」
「その通りだ」
ヴィクトルはモニターを指しながら、静かに言った。
「マローダーとスプロウト、この二種をまとめて『小型種』と分類している。我々が最も頻繁に遭遇する敵であり、その数も膨大だ。適切に対処しなければ、すぐに戦場を制圧される」
ヴィクトルはモニターを操作し、新たな映像を映し出した。
「次に説明するのは『中型種』だ。現在確認されているだけでグリムリーパー(Grim Reaper)、バンシー(Banshee)、ベヒモス(Behemoth)の三種類が存在する」
映像には、グリムリーパー(Grim Reaper)が映し出された。マローダーをそのまま巨大化させたような姿を持ち、全高5メートル。触手を振り回し、歩兵を容易く薙ぎ払っていく。
「グリムリーパーは近接戦闘に特化し、機関砲数発、戦車砲なら一発で撃破可能だが、接近を許せば甚大な被害を出す」
次の映像では、バンシー(Banshee)が高速で移動しながらプラズマ射撃を行う。
「バンシーは中距離支援型で、機動力と攻撃力が高い。ただし、中型種の中では唯一、小銃での撃破が可能だ」
最後の映像では、ベヒモス(Behemoth)がゆっくりと進み、体内から大量のマローダーを放出していた。
「ベヒモスは独立した武装を持たないが、その防御力は極めて高く、戦車砲の直撃を複数回受けても耐える。目標地点に到達するとマローダーを放出し、戦場を混乱に陥れる」
映像では、圧倒的な防御力を誇るベヒモスが進軍し、マローダーが解き放たれていく様子が映し出された。
「ヴェスペリオンはこれらの中型種を小型種と組み合わせ、圧倒的な数で戦線を押し潰す。無策では、敵の波に飲まれるだけだ」
ユリウスは映像を睨みながら、無意識に拳を握りしめていた。
ヴィクトルは画面を切り替え、新たなデータを表示した。
「次に、『航空種』について説明する」
モニターに映し出されたのは、滑らかに飛行しながら編隊を組み、戦場を制圧する異形の機体群だった。
「ヴェスペリオンの航空種は現在レヴナント(Revenant)の一種のみが確認されている。レヴナント(Revenant)は超長距離からの狙撃を行う航空種だ。通常の航空機とは異なり、単独で行動し、水平線の向こうからレーザーによる精密射撃を仕掛けてくる。動力源や構造の詳細は不明だが、その攻撃精度は驚異的であり、一度照準を捕えられれば回避はほぼ不可能とされている。レヴナント(Revenant)は積極的に交戦する航空機ではなく、戦場のはるか外から攻撃を行うため、通常の対空兵器では迎撃が困難だ。戦線の後方に潜むため、正確な位置を割り出すことが重要になる」
ヴィクトルはモニターを指しながら続けた。
「これらの航空種は単体ではなく、大型種ドレッドノートと連携して戦場に投入されることが多い。地上部隊にとっても脅威だが、戦術機動郭や戦闘機との連携が不可欠だ。最後に、『大型種』について説明する。現在確認されている大型種は、先ほど話に上がったこいつ、ドレッドノート(Dreadnought)だ」
モニターに映し出されたのは、戦場を踏み荒らす巨大な影だった。砲撃が直撃してもなお進み続けるその姿は、まるで要塞そのものだった。
「ドレッドノートは、確認されている中で最も強大な個体だ。これまでに遭遇した報告例は少ないが、目撃情報を総合すると、このドレッドノートは存在が確認されている」
クラリスが思わず息をのむ。
「……まるで、歩く要塞ですね。しかも、それだけじゃない」
「その認識で間違いない。だが、厄介なのはドレッドノート(Dreadnought)が単なる防御兵器ではないという点だ。こいつは中型種、小型種、さらには航空種まで体内に格納している。目標地点に到達すると、それらを一斉に展開し、戦場の支配権を奪う。航空支援、大火力兵器、そして戦略的撤退を前提にした対応が求められる」
映像が切り替わる。巨大な砲塔を備えた機体が、遠距離から圧倒的な火力を放ち、広範囲を壊滅させる様子が映し出されていた。
「ドレッドノート(Dreadnought)は圧倒的な戦力を持つが、その投入にはヴェスペリオン側にも大きな負担がかかる。つまり、奴らが大型種を戦場に出すとき、それは我々にとって最大の危機であると同時に、奴らがリスクを背負っている証拠でもある」
ヴィクトルは腕を組み、静かに言葉を続けた。
「戦争は情報戦だ。敵の動きを見極め、こちらの戦力を適切に運用することで、生存の可能性を引き上げられる」
ユリウスとクラリスは、それぞれの胸の内に不安と覚悟を抱きながら、ヴィクトルの説明を聞き続けていた。
〇
小型種
《マローダー(Marauder)》
・全高2メートル程度の人型兵器。
・柔軟な外骨格を持ち、触手を使って攻撃する。
・小銃で撃破可能だが、機動力が高く接近戦では脅威。
・高度な自律行動が可能で、戦場で瞬時に最適な攻撃を選択する。
《スプロウト(Sprout)》
・直径5センチほどの小型機。
・人に取り付き、自爆するか脳や脊髄に寄生し意識を乗っ取る。
・マローダーが戦場に散布し、兵士を内部から崩壊させる。
中型種
《グリムリーパー(Grim Reaper)》
・マローダーを巨大化させたような全高5メートルの機体。
・触手を用いた近接攻撃が主体。
・機関砲数発、戦車砲一発で撃破可能だが、接近を許せば脅威となる。
《バンシー(Banshee)》
・高速移動が可能な中距離支援型兵器。
・機動力と攻撃力が高く、素早い射撃で敵を翻弄する。
・中型種の中では唯一、小銃での撃破が可能。
《ベヒモス(Behemoth)》
・独立した武装を持たないが、防御力が極めて高い。
・体内にマローダーを格納し、目標地点に到達すると一斉放出する。
・戦車砲の直撃を複数回受けても耐える耐久性を持つ。
航空種
《レヴナント(Revenant)》
・水平線の向こうから長距離レーザー狙撃を行う航空兵器。
・通常の航空機とは異なり、単独で行動し、戦場を超遠距離から制圧する。
・その攻撃精度は驚異的で、一度照準を捕えられれば回避はほぼ不可能。
・戦線後方に潜伏し、対空兵器では迎撃が困難。
大型種
《ドレッドノート(Dreadnought)》
・確認されている中で最も強大な兵器。
・戦場を踏み荒らす巨大な機体で、要塞のような防御力を誇る。
・体内に小型種・中型種・航空種を格納し、目標地点で一斉放出する。
・遠距離砲撃も可能で、広範囲への壊滅的な攻撃を行う。
・戦場に投入されると、それは敵側にとっても大きな賭けとなる。




