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9.ダガーとノルウェブ

 キーファとヨセフが倉庫に辿り着くと、大男が倒れていた。

「何だ、こいつ。タニア!タニア居るのか!」

キーファは呼びかけながら辺りを探す。ヨセフは倒れている男の側に近づき、まじまじと観察した。

「ヨセフ、タニアここには居ないみたいだ。」

「そうか……でも、ここに居たのは確かだな。」

「何で分かるんだよ?その男死んでるの?」

「ああ。背中に傷がある。多分、ここに落ちてるナイフで背後から刺されたんだろ。でもこの出血量から見て、そこまで深く刺されていないようだ。」

「それが何?」

「他に目立った外傷はない。」

「だから何?」

「こんな小さい傷で大男が死ぬと思うか?ダガーだ。恐らく、ナイフに自分の血をつけて刺したんだ。ダガーの血はほんの少量でも体内に入れば死ぬ。」

「なるほど!正当防衛でやっちゃったのかな。」

「正当防衛……どうだかな。」

「え?何だよ?」

「昔、俺たちの先祖は、ダガーを虐殺した。殺したのは、自分たちに危害を加える存在として排除したかっただけじゃない。その血を利用しようとする輩もたくさんダガーを捕えて殺したんだ。」

「さっきから、回りくどい言い方してさー。僕にも分かるように説明してくれよ。」

「説明しなくても分かるだろ!ダガーは俺たちノルウェブ人を憎んでるんだよ。復讐しようとしてるのかもしれない。」

「復讐―?タニアはそんなことしないと思うけどなー。」

人差し指を立ててこう言った。

「だって、この前僕が寝てるときに、タニア、ナイフ持って僕の側に立ってたけど、何もされなかったし。」

「寝込み襲われかけてるじゃねーか。」

「ん?何の音だ?」

そうキーファが言うと、ヨセフも耳をすませた。外から空気を震わせるような低い音が聞こえた。キーファとヨセフが外に出ると、遠くに小型の飛行船が見えた。こっちの方へ向かっているようだ。飛行船の胴体にはヴォルカのメークが見える。

「あれは、ヴォルカの連絡船だ。」

「連絡船?」

「ああ。ヴォルカの飛空艇は馬鹿でかいだろう。あれだと、岩場の多いこの土地には着陸できないんだ。だから、小型の飛行船で人や物資を届けるんだよ。」

「じゃあ、もしかして。」

「ダガーをあれで連れて行くつもりなのかもしれない。」

「あれを追う!ヨセフ、ありがとう!ここまでで大丈夫だから!」

キーファは走り出す。

「おいっ!」

「心配しなくても、ちゃんと戻ってくるから。」

キーファは笑って、飛行船が向かう方向へ走る。ヨセフはキーファの後ろ姿を見つめる。そして、何かを決意するように拳を握りしめる。

「キーファ!」

ヨセフの呼ぶ声にキーファは首だけで振り向く。

「ん?」


                        *


 タニアが連れて行かれたのは、街から外れた砂漠にたたずむガレージだった。小型の戦闘機が何機か停めてある。タニアは両手を縛られている。

「しかし、この小僧をこの街に連れて来ていて正解だったよ。顔を見られたと言っていたから、もしかしたらと思ったが、予想通り、ダガーが釣れた。」

男は高らかに笑う。

「そんなに復讐したければ、後で君に小僧を殺させてあげよう。」

男の子は縛られていなかったが、逃げる気力もない悲愴な顔でただ立っている。

「定期船に間に合いそうで良かったよ。またあの暗い部屋に戻れて嬉しいだろ?」

スーツの男はそう言う。タニアは男を睨む。

「まぁ、そんな顔するな。君が逃げようと私は君を必ず見つけ出す。君を助けようとする人間は構わず殺す。君が何処に居ようと、誰かは死ぬ。逃げ出した先で親切にしてくれた人間が死ぬより、顔も名前も知らない他人が死んだ方が君にとってもいいだろう。そう思わないかい?」

タニアは、あの日、キーファの脚が撃ち抜かれたことやアストランティアとの約束を思い出していた。

《キーファの側に》

でも、一緒に居ることでキーファに迷惑をかけてしまうのだとしたら、傷付いてしまうのだとしたら、それはアストランティアが望んだことではないのではないか。キーファはきっとそれでも私を守ってくれるだろう。だけど……。タニアは左腕を見た。血が流れていた傷口は厳重に包帯が巻かれている。私は人を殺した。キーファを守るために。男の子を助けるために。自分がそうしたいと思ったから、自分の欲望の赴くまま。こいつらも自分たちの欲望を満たすために人を殺す。同じじゃないか、私も。守られる資格なんてない。だって本当はヴォルカの空賊もノルウェブ人も全員憎い。殺してやりたい。私たちの苦痛を味わわせてやりたい。だから、私は男の子にナイフを向けた。そして、キーファにも……。

 スーツの男は腕時計で時間を確認する。

「そろそろ時間だな。シャッターを上げろ。」

そう手下に指示を出すと、すぐにシャッターが開いた。すると飛行船はもうすぐそこまで来ていた。飛行船は地面の砂を舞い上がらせながらゆっくり着地する。船尾が開き、スロープのようになる。

「さて、行こうか。」

スーツの男に促され、タニアは言われるがままスロープに足を乗せる。

「あー‼ちょっと待ってくださーい‼」

声のする方を向くと、ヴォルカの小型戦闘機が地面を走ってこちらに近づいてくる。後ろにはロープで台車が繋がれ、その上には大きな木の箱が載せてある。

「良かった!間に合った!」

ヘルメットを被った男が操縦席から降りて来る。

「すみません、この荷物も飛空艇に運びたいのですがよろしいでしょうか?何分大きくてこいつじゃ運べないんです。」

そう言いながら台車を押し、タニアや荷物を運びこんでいた男たちの前に置く。

「では、よろしくお願いします!」

ヘルメットの男は深々と頭を下げ、操縦席に戻り戦闘機をガレージの中に移動させた。

「確かにでかいな。何なんだ、これ。」

木の箱は暑い布で覆われている。男たちが台車を運び込もうと、取っ手を握った瞬間、布が開き、中からキーファが飛び出してきた。キーファは手に鉄パイプを持っている。

「キーファ⁉」

タニアは驚いてキーファの名前を叫ぶ。キーファはタニアに当たらないようにして鉄パイプを振り回し、男たちをなぎ倒した。そして、タニアの手を取り、笑顔で言う。

「助けに来たよ。」

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