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12.勇気

 キーファたちは飛行機のエンジンを動かし水面の上を進んでいった。前へと進むにつれて、水路の幅は狭くなっていく。

「さっき、何であの子に、村に近づくなって言ったんだ?」

ヨセフがアナベルに尋ねる。

「……僕の住む村は労働がすべての村なんだ。」

「労働?」

「うん。毎日朝から晩まで働かされる。何かの部品や材料を作ったり、野菜や果物を育てたり。」

「部品……。」

「仕事のできない人間には価値がないんだ。大人も子供も。」

「もし捕まったら労働者として働かされる。仕事ができてもできなくても、使い古されて捨てられる。父さんや二人の兄さんもみんなボロボロになって病気になって死んじゃった。」

「そんな……っ。」

タニアは悲痛な声で言う。

「薬をくださいって言ってもくれなかった。僕らに提供されるのは、朝晩の食事だけ。」

「薬が買えないほどの安い賃金なのか?」

ヨセフはアナベルに聞く。アナベルはヨセフの質問に質問で返す。

「賃金って何?」

「……っ。」

ヨセフは一瞬、言葉に詰まった。

「賃金って、給料だよ。労働の対価としてそれに見合っただけの金が労働者には支払われる。」

アナベルは首を傾げる。

「労働は他人のために善意ですることだよ。それなのに見返りなんてもらえないよ。」

ヨセフは絶句した。

「お兄さんたちも見つかったら、働かされるかもしれない。だから、もうここまでで大丈夫。ここからは飛行機通れないし。」

進む先は水面が下がり、根が露になっている。

「あなたも帰ったら、そんな風に働かされてしまうんじゃないの?」

「そうだけど、平気だよ。今までもずっとそうやってきたんだから。」

「でも……」

「それに、お姉さんはこれ以上近づかない方が良い。ヴォルカが村に出入りしてるんだ。……奴隷を買い取るために。」

「えっ……。」

「だから、ここまでで良いよ。送ってくれてありがとう。」

アナベルは微笑む。

「逃げればいいのに。」

キーファは言う。

「何で逃げないの?今が逃げられるチャンスじゃん。」

「……友達が居るんだ。友達を残して一人で逃げるなんてできない。」

「友達と一緒に逃げられるの?」

「……分からない。」

「できるかも分からないのに、どうして一人で行こうとするの?僕たちに頼ればいいじゃん。」

「そんな……ただでさえ迷惑かけてるのに、僕なんかが、これ以上迷惑かけられないよ。僕が一人でなんとかしないと……僕が勇気を出して……」

「他人に迷惑かけたらダメなのか?」

「え?」

「みんな言うんだよなー。迷惑かけたくないって。あのお姉さんだって、いっつも言うんだよ。本当に面倒くさくって。」

キーファは親指を立てて、タニアを指す。

「なっ……。」

タニアはムッとする。

「僕は他人に迷惑かけたくないなんて、一度も思ったことないけどなー。あはははは。」

「お前はもっと気にしろ。」

ヨセフは後ろで呟く。キーファは、アナベルの頭に手を置いて言う。

「他人に助けを求めることも勇気だ。」

アナベルはキーファの眼を見る。

「……いいの?迷惑かけても。」

「ああ。」

「一緒にランセルを助けてくれる?」

「もちろん!僕は他人に迷惑かけることも、他人から迷惑かけられることも、全く気にならないんだよ。」

キーファは屈託なく笑う。

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