11.アダリアの少女
滝に突っ込んだキーファたちは、滝の裏側にあった洞窟に入っていた。洞窟の中は傾斜になっており、キーファたちが乗る機体は水と一緒に物凄い勢いで流された。必死に機体にしがみついているキーファは辛うじて目を開けた。すると出口が見えた。真っ白な光が射し込んでいる。キーファは叫ぶ。
「出口だ!」
洞窟から抜けると、下には入り江があり、キーファたちが乗る機体は水飛沫を上げて入り江に落ちた。キーファたちはびしょ濡れになった。キーファは座席から抜け出し、入り江に浮かんだ機体の先端に立って辺りを見回した。
「良かった!無事にヴォルカから逃げられたね!」
そう言うキーファの頭をタニアは殴る。
「良かったじゃないわよ!死ぬかと思ったじゃない!」
キーファは痛そうに頭をさする。
「ここは何処なんだ。」
ヨセフが辺りを見渡して言う。入り江はたくさんの大樹に囲まれている。周りには大樹が立ち並び、上は大樹の深緑の葉で覆われ鬱蒼としており、下は透き通った水で満たされ、水の中で木々の太い根が絡み合っているのが見える。タニアはまるで自分達が小人になって、森に迷い込んでいるように感じた。上をよく見ると、葉の隙間から光が射しこんでいる。完全な地下というわけではないようだ。男の子が座席から出てきたので、タニアは声をかけた。
「君の名前は何ていうの?」
男の子は少し驚いた顔をしてから俯き、小さな声で答えた。
「アナベル……。」
「アナベル。いい名前ね。」
タニアはアナベルに微笑んだ。
「あのっ……一緒に連れてきてくれてありがとう。」
「うん。」
「それから、あの……ごめんなさい……。」
タニアは悲しそうな、困ったような顔になった。
「いいの。もういいのよ。」
タニアはそう言い、アナベルを抱きしめた。
「あなたも辛かったのよね。」
キーファは二人を温かく眺めていた。すると、ヨセフがキーファに話しかけた。
「これから、どうする。」
「どうしようか。まだ奴らが地上に居るかもしれないから、しばらくここでのんびりしてようよ。」
「だけど、奴らがこの場所を知らないとも限らないだろ。」
「知らないと思うよ。」
アナベルが言った。
「ここは、村の人たちも知らない、僕らの遊び場なんだ。」
「アナベル、あなた、ここを知ってるの?」
「うん、あんな入り方があるのは僕も知らなかったけど。」
「それにしても、キーファ。どうして滝の向こうにこんな場所があるって知ってたんだ?」
ヨセフは聞いた。
「え?どうしてって、これを僕に教えてくれたのは君じゃないか、ヨセフ。」
「えっ……。」
二人の会話を遮るように、突然、何かが水に落ちる音がした。
「どうしたの?」
「アナベルが入り江に落ちたの!っていうか、何かに引き摺り込まれたっていうか…」
キーファが入り江に飛び込もうとしたとき、小さな茶髪の女の子が勢いよく水面から顔を出した。女の子の左眼は頭に巻かれた包帯で隠れている。右目の瞳は透き通った緑色をしていた。その目を見たキーファは片目を抑えてふらついた。キーファは何かを思い出したような気がした。
「キーファ、どうかしたか?」
様子がおかしいキーファを見て、ヨセフが声をかける。
「……何でもない。」
キーファは静かに答える。
「アナベル!大丈夫?」
タニアはアナベルを呼んだ。すると、水面からアナベルがゆっくり顔を出した。女の子は何がそんなにおかしいのか声を出さずに笑っている。女の子はアナベルの首に手を回し,抱きついた。アナベルは嫌そうに女の子から離れようとする。女の子は構わずじゃれて遊んでいる。女の子はタニアの視線に気付き、タニアを見つめ返す。タニアは少女の右目を見て、綺麗な瞳だと思った。少女はタニアの方を向いたままタニアに微笑みかけた。少女はまるで妖精のように水面を泳いでいる。アナベルはタニアの手を借りて、機体に上がった。
「あの子は?」
「エラ。僕の友達。ここは二つの集落の間にある入り江なんだ。」
入り江の周りを渡すと、並んだ木々が途切れる空間が両側に存在し、水路のような道ができていることに気が付いた。
「あっちに僕の住んでた村があるんだ。途中まで連れてってくれないかな。」
タニアはキーフォとヨセフを見る。二人は頷く。
「ええ、村まで送るわ。あの子も同じ村に住んでるの?」
「……ううん。エラはあっちの村の住人なんだ。」
「そう。」
「エラ!僕は村に戻るから!絶対、僕の村に近づいたらダメだからね!」
アナベルは機体から身体を乗り出して、水面に浮かんでいるエラに声をかける。エラはきょとんとした顔でアナベルを見上げている。
「……。」
アナベルは俯く。
「どうしたの?」
「ううん。何でもない。」




