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1.悪魔の血を持つ少女

 ダガーと呼ばれる人種が存在した。彼らは髪や肌の色が白く、花の模様が刻まれた青い瞳を持っていた。そして、ダガーの血は生き物を死に至らしめることができた。屈強な大男でも、巨大なドラゴンでも、不老不死でも、ダガーの血が少しでも体内に入れば、苦痛を感じることなく、眠るように死んでいく。大昔、幻獣の襲来が天災とされていた時代、幻獣を殺すため生み出されたのがダガーだった。ダガーの犠牲によって、幻獣がもたらす天災は減っていったが、ダガーの血を恐れ、虐殺する者たちもいれば、争いの道具として利用する者たちもいた。数百年もの間、悪魔と呼ばれ、迫害され続けたダガーは、今では、たった一人の少女しか生き残っていなかった。


                        *


 飛空艇に緊急時を知らせるベルの音がけたたましく鳴り響いた。タニア・アウストラは月明かりが射しこむ暗い部屋の中で、冷たい壁にもたれて座っていた。今日の分の血を抜かれた左腕がずきずきと痛む。血が垂れないようにきつく包帯で巻かれている。明日もこの血で名前も顔も知らない誰かの命を奪ってしまうのだろうかと、そんなことを考えていた矢先のことだった。扉の向こう側から人の叫び声が聞こえ、飛空艇が大きく揺れた。

「エンジンに火が!早く消せ!」

タニアはこのまますべて燃えてしまえば、もう誰も殺さなくて済むと心の中で呟き、目を閉じた。すると、頭の中に言葉が流れ込んできた。

《ダガー、窓から離れていろ。》

「え?誰?」

タニアは目を開け、部屋についているバルコニーの窓の方を向くと突然、何かが投げ込まれ、窓が割れた。

「な、なに?」

タニアは恐る恐るバルコニーに出た。タニアの白い髪と白いワンピースが風になびく。さっきまで射し込んでいた月の光が何かによって遮られた。タニアが空を見上げると、そこには真っ白な巨大なドラゴンが飛んでいた。

「ド、ドラゴン!?」

タニアは初めて見るドラゴンから目が離せなくなった。ドラゴンはバルコニーに近づいてきた。ドラゴンの足には黒髪の少年が掴まって立っていた。

「逃げよう!」

少年はタニアに向かって手を伸ばした。

「早く!」

「あ、あなたは誰なの?どうしてダガーの私を助けるの?あなたも私の血が目当てなの⁉」

「違うよ!君を助けに来たんだ!だから、早く……」

「できない……‼この血がまた誰かの命を奪うなら、私はここで死んだ方がいい。きっと、みんなそれを望んでる。」

二人の間に火の粉が舞う。少年は真っ黒な瞳で真っ直ぐタニアを見つめ、笑顔でこう言った。

「どうでもよくない?」

「え……。」

「僕は今、君を助けたいから助けるだけ。僕が君を助けて、その後、君の血で誰かが死ぬことになっても、気にすることないよ。」

「い、いいわけないじゃない!何の罪もない人が死ぬのよ!」

「君だって罪なんてないでしょ?何か悪いことしたの?」

「わ、私は……。」

「ああ、何?生きてることが罪だとか思ってる感じ?」

少年は笑いながら言う。

「自分が死ねば、世界が平和になるとでも?君が死のうが生きようが、世界は何も変わらないよ。殺す人間は殺すんだ。」

少年の全く悪意のない満面の笑みにタニアは戸惑う。この人は悪い人なのだろうか。

「世界が何て言おうと、どうだっていいじゃん。生きようよ。」

少年の言葉は、タニアには理解しがたいものばかりだったが、初めて生きていることを許してもらえた気がした。タニアが手を伸ばそうとすると、突然銃声が鳴り、少年の頬をかすめた。飛空艇の戦闘員が少年とドラゴンに銃口を向けていた。少年はタニアに向けた笑顔から一変して、銃弾を放った戦闘員を睨み付けた。

「ドラゴンだ!ダガーが奪われる!」

少年はタニアの腕を引っ張り、バルコニーから連れ出した。

「アストランティア!」

少年はドラゴンの名前を呼び、それを聞いたドラゴンは翼を羽ばたかせ、飛空艇から離れた。飛空艇はドラゴンに向けて砲弾を発射した。ドラゴンは口から火を放った。タニアは燃えながら落ちていく飛空艇を見つめる。

「あなたたちが飛空艇に火をつけたの?」

「うん。本当はちょっと混乱させるだけのつもりだったんだけどね。あはは、すっごく燃えちゃったねー。」

お金や権力のために町を襲っていた空賊。彼らはたくさんの罪のない人を殺していた。今度はそんな彼らが命を落としてゆく。タニアはとても複雑な気持ちだった。少年は相変わらず罪悪感など微塵も抱いてなさそうだ。タニアの青い瞳に赤い炎が映る。私のせいで、またたくさんの人間が命を落としたのだろうか。タニアは落ちていく飛空艇から眼を逸らし、少年の横顔を盗み見た。少年は眠いのか大きな口を開けて呑気に欠伸をしている。

「うわー、もう朝になっちゃったよー。」

薄暗い世界に地平線から昇る太陽の光が射しこみ、新しい世界の始まりを告げているようだった。

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