断罪されたくない転生令嬢の話。
お久しぶりです(汗)
相変わらず世界観も設定もガバガバです。
気楽に読んでいただけると嬉しいです。
※評価ブクマ、沢山有難うございます!
アリアナ兄視点の小話がSS集に追加してあるので、良かったらそちらも読んでやって下さい。
あれ?
これってアレじゃない?
ある日、目を覚ますとそこは物語の世界だった―――と、少女は気付く。頭を打った訳でもショックな事があった訳でもなく、普通に夜寝て朝起きたら思い出したのだ。自分が前世読んでいた本の中の登場人物と同じだという事を。
少女の名前はアリアナ・フログスト。赤味がかった栗毛の髪に緑の瞳の凡庸な13歳の子爵令嬢で、優しいが少し頼りない父としっかり者の母、そこそこに頭が良くて割合で言うとイケメン寄りである兄がいる、ごく一般的な貴族家庭に生まれた自分。だがしかし。
(このままだと絶望しかない……)
異世界転生したと分かったのは良いが、その物語の中の自分は、断罪され、王都から追放される予定の子爵令嬢。なんてこった、とアリアナは頭を抱える。
小説の中のアリアナは婚約者のいる子爵令息に横恋慕し、彼の婚約者の令嬢に嫌がらせをされたフリをしたり、様々な冤罪を被せた。そんな嫌がらせがかえって二人の結びつきを強くし、確かな恋愛感情で上手くいく恋人達。
だがそれは物語の中心ではなく、一登場人物というか、モブ的な扱いのキャラの話で、真の主人公は別にいる。そのヒーローとヒロインがこの国の王子とその婚約者で、アリアナはついでのようなオマケな感じで纏めて断罪されるのだ。とばっちりなのか八つ当たりなのか知らないが、そんな事で家族共々没落させられるなんて、たまったもんじゃない。せめて逆転劇を狙える悪役令嬢ポジに転生させろと気配の気の字も感じた事の無い神に腹を立てる。
断罪されるとわかっていて同じルートを辿る被虐趣味は無い。
アリアナは主人公や主要キャラと関わらない方向で生きていく為、領地に引きこもる作戦を練る。こういうのは決断も決行も早い方が良い。物語の〝も〟の字にも触れない。先手必勝だ。
アリアナの前世は、おひとり様生活が長く、精神的にも経済的にも自立した妙齢の女性だったので、人生設計を立てるのに慣れていた。朝食を食べ終えると、将来の展望を書き出し、成功させるためには何が必要か、有名なメジャリーガーがやっていた様な方法で計画を立て、その日の夕食の席で家族に語った。和やかな家族団欒の空気が凍りついたのは言うまでもない。
「……ええと、あそこの子爵家にアリーと同じ歳の息子がいるのは確かだけど、結末が分かってるなら彼らに近付かなきゃいいんじゃない?」そう父が言い、
「そうよ、何なら先に別のお家の子と婚約してしまえばいいのよ!」と、力む母。
家族はアリアナの突拍子もない話を聞いても、それを否定する事無く、回避する方法を一緒に探ってくれた。それだけアリアナに対して信頼があるのか単にお人好しなのか。アリアナとしては前者に全振りしてもらいたい。この夫婦だけだとおかしなツボを買わされそうで心配だ。
「飛び級して、俺のいるうちに入学して学年を変えるとかじゃ駄目なのか?」
大体の貴族の子は14歳〜18歳までの五年間、王都にある学校に通うのだが、結婚の早い令嬢は三年ほどしか通わない事も多く、卒業という形を取りたい者が飛び級制度を利用する事もあった。2歳上のアリアナの兄アルバートと同じ学年になるように入学すればフォローが出来るだろう、と頼もしい兄が言う。
「駄目よ兄さん。世界には〝物語の強制力〟という恐ろしい神の所業があってね、もしそれが私に働いたら子爵家の息子どころか、もっと高貴な人にやらかしてしまうかもしれないのよ?」
「うっ、そういえば同じクラスに第二王子がいたな……」
家族四人、一斉にため息をつく。
王族に粗相など、考えただけでも頭が痛い。いや、考えたくもない。王族周りなんて、公爵家と侯爵家の人間がゴロゴロいる危険地帯だ。絶対に近寄りたく無い。アリアナは両腕を抱きしめるように身震いした。
「上位貴族どころか王族に不敬を働いて、家族皆で首チョンパなんて嫌…っ!」
アリアナの言葉に父母兄も一緒になって震える。
「お父様、幸い私には〝異世界転生者特典〟というべきチート能力の鑑定眼と、時間停止機能付き無制限収納―――通称〝アイテムボックス〟というモノがあります。それと前世の知識を使ってお金を儲けて、王家だろうが簡単に口出し出来ない財力を手に入れてみせます!ただ、表舞台に立てないので、私は領地に引き籠もりの生活をさせていただきますが」
徹底的に関わらない。
貴族籍を抜けて一人平民になる方法もあるが、他人の都合で人生を決められた挙げ句、苦労する必要があるだろうか?と、アリアナは腹を立てていた。
物語の登場人物ではない、アリアナは生きた、意思のある人間だ。誰かに迷惑をかける訳じゃないなら、自由に生きたいし、快適性だって求めたい。現代日本で過ごした記憶があれば尚更だ。
「任せて下さい、お父様!」
ガッポリ儲けさせてあげますわ、と、アリアナは高笑いする。末娘の圧を感じるプレゼンに、家族が引き気味に笑っていた事をアリアナはこれっぽっちも気付いていなかった。
アリアナは宣言通りに働いた。
手始めに、子爵領から貴重な魔鉱石の鉱山を見つけ出すと、利益を領民の公衆衛生に回し、感染症等のまん延を防いで死亡者数を減らす。働き手の活きが良いのは発展にプラスでしかなく、前世特にやり遂げた偉業も知識も無いアリアナだったが、何となくの思いつきを形にしてくれる協力者がいたので、子爵領は類を見ない勢いで発展していった。
そうして得た潤沢な資金を使い、五年後には小さな国家レベルの財力と武力を持ってしまった子爵家。勿論、陞爵は「田舎の一地方貴族ですので」と断り、王家から再三打診を受けたアリアナの婚約話も病弱でゴリ押しして乗り切った。権威の影響を受けない聖教会に話をつけて別の男性と婚姻を結ばせ、とにかくアリアナを表舞台から隠し通したのだ。
尚、その年、聖教会本部のある神殿がたいそう立派に建て替えられ、末端の、小さな町にある孤児院の子供達の衣食住環境すら改善されたというのは余談である。金の力は偉大だ。
「貴女…っ、何故原作通りに邪魔しに来ないのよ…!おかげでイザークとの仲がさっぱり進まないじゃないの…!」
ある日の、日も暮れかけた時分。
けたたましく扉を叩く音に「はーい」と、特に警戒することも無く扉を開けたアリアナ。そもそも、領地内とはいえ、様々な結界で隠されたこの家に危険は無い。悪意ある者に感知されることの無い、文字通りの隠れ家。とても貴族が住んでいる家には見えず、一見すると森の管理人小屋の様なその場所に、全くそぐわない出で立ちの女性が立っていた。
「あの…………………、どちらさまでしょう…?」
腰まである長くて手入れの行き届いた輝く金髪に、青の瞳。ぱっと見でも分かる、意匠を凝らした高価な服装の典型的な貴族令嬢。自分とそう変わりなさそうな年頃に見えるが、凹凸がはっきりしており、スタイルが良い。だが、こめかみに青筋を立てる程の怒りの理由は不明だ。
デビュタントも何もせず領地に引き籠っていたアリアナに、身内以外の貴族の知り合いがいるはずも無く。たっぷり時間を使って考えてみても見覚えは無かった。
「っ、あなた、転生者でしょ!?原作改変するにしたって程度ってもんがあるでしょう!おかげでこっちはイザークから未だ塩対応なのよ!?このままだと話が変わっちゃうじゃない!」
ああ成る程、と、アリアナは腑に落ちた。
自分が早々に戦線離脱したので、二人の絆を深める為の恋のスパイス的な事件が起こらなかったのかと分析する。しかし、それを起こすとアリアナも家族もお先真っ暗だ。何故他人の恋愛如きで断罪されねばならないのか。これが国の存亡に関わっているならまだしも、他人様のキャッキャウフフなんぞ至極どうでもいい。アリアナは思い出す。この迫力美人で頭の悪い相手は、恐らく。
「えーと、もしかして侯爵令嬢のエリザベス様でしょうか?」
「はぁ?!今更?」
今更も何も、会った事もないのに無茶苦茶な。
いくら原作を知ってるとはいえ、イラストまんまの姿形をしている訳じゃないのだから、一瞬で分かる筈もない。絵のままの顔だったらシュールすぎるだろう。こういう自分の都合しか考えられない人間にははっきり伝えた方がいい。幸い、家格で物を言ってきても撥ね退ける力がある。
「逆に聞きたいのですが、何故断罪されると分かっていて原作通りの行動を取ると思います?そんなアホいるんですか?王子様と恋愛したいなら自分で努力して下さいよ。その為の転生チートなんですから。便利アイテムとかないんです?」
ド正論だった。
言われたエリザベスは顔を真っ赤にし、ワナワナと震える。
「あ、あなた、私は王子の婚約者よ!?不敬―――」
「うるせーな。さっきからキンキン声が頭に響くんだけど」
低い、不機嫌そうな男の声。
突如現れたアリアナの背後に立つ男に、エリザベスは驚いて二、三歩後ずさる。
「何、この女。どっか飛ばしとく?」
いきなり物騒だった。
「いやいや、流石にちょっと待って。説明して帰ってもらうわ。同郷の人間だと思うと死なれるのは寝覚め悪いし」
こちらも負けじと物騒である。
エリザベスはちょっと涙目になった。
目を隠すように青みがかった黒色の前髪を伸ばす、物騒な物言いの人物は、声を聞く限り若い男性のようで、身長はそれなりに高く、筋肉こそ見えないが身体つきも悪くなく、エリザベスは小説の登場人物で該当する者がいないか記憶を手繰り寄せた。
「気持ちはわかるけど、人の旦那じろじろ見すぎじゃない?失礼だよ、エリザベスさん」
「え!?その人、貴女の結婚相手なの?」
そんな相手いたかしら、と、思わず口にするエリザベスに「そりゃ、知らないと思うよ?」と、さも当然のように告げるアリアナ。
「だって、作者が同じ世界線で書いてた別小説の男主人公の勇者連れてきたんだもん」
「それ反則じゃない?!」
エリザベスは食い気味に叫んだ。
彼女もその小説の内容を知っている。神の召喚により異世界転移させられた主人公が、与えられたチート能力で無双する、ハーレム要素満載の俺TUEE系の物語。作者が同じ為に、こちらと同じ時代の隣国を舞台にして作られた、ちょっとピンクなライトノベルの主人公。
「あなた、ハーレムの女の子達はどうしたのよ?」
彼は本来なら隣国で様々な毛色の美少女達に囲まれ、キャッキャウフフしているはず。何故この国でひっそりアリアナと隠れるように生活しているのか。
「はぁ?ハーレムなんて糞だろ。普通の思考でンなもん作るとか屑すぎる。チートは有難いけど、不特定多数の女とどうこうなんて気持ち悪ィ。俺は元々ハーレム要素が大っ嫌いなんだよ。だからそういう系統の話は読んでない」
そう言って男は心底嫌そうに話す。確か決まった名前はあったはずだが、原作を逸脱しているので同じ名とは考え難い。
アリアナの結婚相手は、彼女が自ら隣国へ行き、スカウトして連れてきた人物だ。自分の性格もこんな感じなので、あっちの話の主人公ももしかしたらマトモかもしれない。まぁ原作通りのイロモノ主人公なら協定を結べばいいか、位の軽い気持ちで彼を探し始めた。そして、本来拠点としているはずの場所に居なくておかしいな、と、ギルド経由で探し出した彼は、他人をこれっぽっちも信用しない、闇落ちした孤独なダークヒーローと化していた。
「いやー、初めて会った時は目にハイライトもないしさ。陵辱系の話だったっけ?って焦ったよね」
身の危険を感じたよ、と能天気に笑うアリアナに、エリザベスは「そうね」なんて簡単に同意出来なかった。普通に怖い。
「アリィは特別。他の人間に関わらなくていいって言うし。ここはアリィと俺の巣」
男の名は皆川隆之介。享年26。
生前、嫌がらせをされ続けた彼は人間不信となり、挙げ句、反抗したら激昂した相手に突き飛ばされ、事故でそのまま死んでしまった。不憫に思ったこの世界の神が魂を救い、主人公となるよう転生させてくれたが、そんな過去を持つ隆之介が異世界転生だからと簡単に気持ちを切り替えられる筈もなく。13歳の姿形で転生させられた彼は、美少女のピンチを助ける事も、平和を脅かす魔物を倒す事もせず、ソロでひっそり冒険者ギルドの依頼をこなして生計を立てていた。そんな、他人を信用せず、強大な力を隠して生きてきた隆之介を見つけたアリアナは、相手の警戒心を解くでもなく、ストレートに提案した。
『私、アリアナ・フログストと言います。前世の名前は氷上亜里沙。転生者同士、協力しませんか?』
思いも寄らない事に反応できずにいる隆之介に怯む事無く、アリアナは続けざまに怒濤のプレゼンをする。家族にもした例のあれである。
『私は原作通りに断罪されたくありません。なので、自領に一国レベルの経済力を持たせて、私自身は領地の奥に引き籠もって生きていこうと思います。貴族とか正直面倒臭いんで、目指せ、悠々自適に自堕落な生活!……という事でして。貴方様が望む未来に協力するので、どうかどうか、私に力を貸して下さい!!』
一方的に説明された隆之介だが、無茶苦茶だと思ったけれど確かに魅力的な人生に思えた。他人と関わらず、好きな事だけして生きる。ハーレムは絶対にお断りだが、猫を沢山飼って癒される生活なら……想像してみると悪くない。ふわふわの猫に囲まれ、寝転がる。そして自分の隣に同じ様にゴロゴロして微笑むアリアナ。
それはとても幸せな世界に思えた。
『……分かった。けど、条件がある』
『何でしょう?私が叶えられるものですか?』
『うん。アリサさん、俺と結婚して一緒に暮らしてくれる?』
『は?え?……えー、ええと?私と、けっ、結婚?です、か?ハーレム構成員の女性達でなく??』
『俺はアリサさんがいい』
(ハーレムの女達なんて冗談じゃない)
生前、自分を嘲笑していた女達を思い出し虫酸が走る。
申し訳ないと思ったが、チート能力で彼女の人となりは大体分かったので問題ない。同じ猫好きで大変好ましい。あと、香水臭くない所も好感が持てた。
『一応この世界って、貴族はあんま離婚出来ないんじゃなかったっけ?王族だけでなく、他からも縁談来てるんでしょ?未婚のままじゃヤバくない?』
『うーんと、あの、私実はハーレム系の主人公ってあんまり…いえ、ええと、恋人や伴侶としてはちょっと倫理的に思うところがあって……というか、この小説は作者が同じで同じ舞台だから、ってだけでパラパラッと読んだだけなんですよ』
彼女は言葉を選びながらも、ハーレム系のヒーローは苦手だと言いたいらしい。勝手に鑑定させてもらったアリアナの情報にも【ハーレム系の主人公は性別問わず苦手】とあった。
『大丈夫。俺、前世で女の醜さとか色々見てきたからハーレムとか無理。お金貯まったら引き籠って、ネコ沢山飼いながらニート生活をしよう』
大変魅力的な誘い文句である。特に猫。アリアナは生前含め、大のネコ好きだ。堕ちる一歩手前で何とか踏みとどまるアリアナだが、
『あとチート能力で空間繋げるとか、記憶にあるものなら再生・再現出来るっぽくてさ、あっちの世界の快適空間を造れるよ?』
という、トドメの一言に陥落した。チョロい。
『決まりだね。俺は皆川隆之介。こっちの世界じゃリューノで登録してる。向こうじゃとっくに成人してたけど、ここではまだ14歳』
流石にお互いすぐ結婚とはいかないね、と言うリューノにアリアナも頷く。成人が18の世界なので二人ともアウトである。特にアリアナは当時13歳だったので、ギリギリを通り越して犯罪だ。
とりあえず婚約者としてリューノを家に連れ帰ったアリアナは、両親と兄に『犬猫じゃないんだから何でも連れて来ない!』と叱られたものの、彼の有能っぷりを目の当たりにすると手の平返しで祝福してくれた。
アリアナは意見するだけで、リューノがそれを実現出来るか判断し、この世界に合わせたモノとして創り上げる。チート能力もあるが、元々地頭の良い、仕事の出来る優秀な人間だったのだろう。フログスト一家は皆、馬鹿ではないがお人好しで、裏の無い善良な人間だったので、全面的にアリアナとリューノを祝福したし、二人の希望通りに隠居生活も認めた。それに感謝したリューノにより、とてつもない財を築きあげさせられたフログスト家は、彼のアリアナへの愛情もこの様に重いのだろうな、とちょっと遠い目になった。
リューノは領地の奥の森を切り開き、周囲に結界を張って家を建て、アリアナと引き籠った。実家や街等に繋がる転移陣を作って必要時は行き来出来るようにしていた為、生活に不便はない。家の中は別次元なのか、扉が沢山あってそれぞれ別空間に繋がっている。アリアナが耳の無い猫型ロボットの便利道具の名を叫んだ事は言うまでもない。無論、製作者本人も否定しなかった。
「入っただけなら狭いログハウスなんだけど、ドアの向こうは異世界だよ〜。私の部屋なんて子供おばさん!」
扉のうちの一つ、アリアナの部屋と書かれた可愛らしいプレートが掛けられた部屋に案内されたエリザベスは、ドアの向こうに広がる光景に言葉を失う。
そこはテレビにベッドに本棚に机―――アニメグッズやフィギュアに囲まれた、生前の知識でいうと、所謂ヲタク部屋―――だった。ついでにベッドの上に猫、猫、猫。猫が数匹丸くなって寝ている。かわいい。本やらアニメ等は、リューノが向こうの世界から調達?してくれるのだと説明されたが、エリザベスの理解は置いてけぼりだった。
「流石に親には見せらんないから、リューノ以外で見せたのはベスが初めてだよ〜!」
いきなり愛称呼びされた驚きより、この部屋への衝撃が大きすぎて感情も置いてけぼりのエリザベス。天下も取れるそんな力を、無駄遣いというべきか平和的利用というべきか。リューノはリューノで、危険がないと判断すると「んじゃゲームするわ」と自室に引き籠もってしまった。
「という訳で、ベスも自力で頑張った方がいいよ?転生チートがあれば人生勝ち組と思うしね」
いいわよ〜スローライフ。そう言って、冷凍庫から取り出されたハー◯ンダッツ。いやそれスローライフじゃなくてヒキニートの間違いだろう、と心の中で突っ込むエリザベスだが、冷たく甘い前世の味は、彼女の迷子になっていた理解力と感情を益々迷走させたのだった。
■□■□□■■ おまけ ■□□■■□■
「……アリアナって未婚のお兄さんいたわよね……?」
「いるけど、なに唐突に………って、え?まさか……」
「お兄様と結婚して私もここに住むわっ!!」
「いや、それどこのあいのりよ」
「……それを言うならテラスハウスじゃ?」
図らずも転生前の年代バレをしてしまうアリアナ。
「い、いやでもうち、子爵家だよ?お金は持ってるけど、ベスの身分的にどうなのそれ」
兄は嫡男だし、性格や顔面偏差値的にも優良物件だが、王子妃予定だった将来と比較すれば、見劣りとまでは言わないが、煌びやかな世界には程遠い嫁入り先となる。侯爵令嬢として、王子妃候補として学んできた時間の殆どを棒に振る事になって良いのか。それに、とアリアナは問う。
「ベスは王子の事好きなんでしょ?」
「……王家は貴女の家にイザークの婚約者になるよう打診していたのよ?私はあくまでも保険の婚約者候補。惨めよね。だから愛されなかったし、塩対応だったワケ。いつでも捨てられる立場にいるのが怖くて―――でも、そうよ。原作通りにイザークを好きになる必要なんて無かったんだわ……!」
そう言って、吹っ切れたような晴れやかな笑顔でアイスを楽しむエリザベスは、色々勉強してきたから領地経営の補佐とか、お兄様の力になれると思うわ、と張り切っている。もう自分の中で嫁に来る事が決定しているようだ。
「……まぁここまで原作変えちゃってるし、神様に愛されてるリューノはここにいるし。何とかなるか〜」
当然と言えば当然、王家からチクチクと嫌味というか恨み節みたいな手紙が届いたが、リューノが王城にある王家のプライベートガーデンに雷を一発ピンポイントで落としてからは何も言ってこなくなった。エリザベスが嬉々としてその美貌とナイスバディでアリアナの兄を籠絡すると、意外にも相性の良かった二人はすぐに結婚し、フログスト家は更に繁栄する事となるのだが―――その発展に妹夫婦がとてつもなく貢献していたという事実は、結局、隠されてくれなかった。
アリアナは最初、ものぐさーな子で、リューノが甲斐甲斐しく世話を焼く話で考えていたんですが……どうしてこうなった…??
おまけの「あいのり」と「テラスハウス」を言いたいだけの作品かもしれない。私も実はあいのり、ちゃんと見てないんですけどね…