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(まえがき~antiAIについて)

 福井県立図書館のサイトに「覚え違いタイトル集」というページがあって、図書館の司書がカウンターで見聞きした、利用者が覚え間違えていた本の題名が列挙されている。

https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/tosyo/category/shiraberu/368.html

(このページの内容は『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(講談社)という本にもまとめられているようだ。)

 ずらりと眺めていると、たまに笑いのツボにヒットするものがあって、飲み物を飲みながらでは危険である。なかでもとりわけ秀逸(?)なものの一つが、952番「たかのきよしの『せんきょう花』」ではないか。

 ……まあ、ここは仮にも「せんきょう花」のファンサイトのようなものなので、笑いごとではないのだけれど。


 話は変わって、鏡花のことを調べていると、「ノベル化文庫」というサイトで鏡花作品の奇妙な現代語訳を見つけた。サイトの検索窓に「泉鏡花」と入力しても二、三の関連作品しか出てこないが、「泉 鏡花」「鏡花」「鏡太郎」などとワードを変えると、かなりの数の作品が並ぶことになる。題名や内容はいいかげんで、『高野聖』には『高野聖(たかのきよし)』とルビがふられている。

 一見したところ、青空文庫のテキストをAIに話し言葉化させているサイトのようで、どうやらAIは、「たかのきよしの『せんきょう花』」を学習してしまったようだ。

 古典的な作品の現代語訳としてみれば、お話にならない内容であるものの、AIなりの文章の結構をともなった理解はなされている。こんなへんてこ(やく)でも、有名な古典だから粗筋を知っておきたいけど雰囲気だけわかればいい、という読者の需要を満たしてしまいそうなのが末恐ろしい。


 AIなんてこの程度と一蹴するのは簡単だが、たとえば自分が門外漢の分野の知識――たとえば一般相対性理論だとか量子力学だとかのことを手っ取り早く知りたいと思ったとき、むしろAIの解説を好ましく思うかもしれない。雰囲気だけわかればいい訳に対抗するには、雰囲気だけわかっても面白くないと納得してもらえる文章を書かなければならない、というところまで、物書きは追いこまれている。

 おまけにAI訳サイトには、適当だが見栄えだけはいい挿絵まで自動生成されているようだし、「オタク構文庫」「クソデカ文庫」「英訳文庫」など、多方面の需要を充たす姉妹サイトまで用意されていたりする。将来の強敵である。


逆に考えれば、AIが解釈した鏡花作品は、現代の平均的な読者が、平均的な集中力をもって、すべての書物に対する平均的な速度で読書をした場合の頭のなかをトレースした、意識の流れを表している。鏡花作品をある程度読み慣れたうえでAIによる現代語訳を読むと、鏡花作品を読み慣れていないというのはどういうことなのかが理解できるという最低限の利便性はある気もするが、今の段階では、その程度の使い道しかない。

 しかしながら、古典作品の語句を辞書的に対応させるような現代語訳を行えば、すぐさまAIの学習対象にされてしまうわけで、自分が行った現代語訳の一部も、すでにAIの栄養源になっているのかもしれない。ちょっと恐ろしかったりもする。


 そこで今回は、AI訳にもなっている『伯爵の釵』をとりあげて、アンチAIな現代語訳を試みたくなった。基本的には、逐語訳をしない、ことばを単純に置きかえずに大意を伝える、ということになる。けれどもこれが難しい。読みごたえのないスカスカな、鏡花であってもなくてもいい文章になるなら、むしろ原文を読んだほうがいい。時代背景にそぐわない語彙を使うのも興ざめで、けっきょくのところ、大きな逸脱はできそうにない。語りのリズムや韻律をもった原文を、現代文なりのリズムに置きかえるというやり方もあるが、(力量不足もあって)めったに成功しない。

 ほかにも、注釈が必要な内容の一部を地の文に取り入れる訳し方がある。これもまた、やりすぎると、みるからに説明的な文章になってみっともない。

 ……ということで、できあがりつつあるものは、ざっと読んだかぎりいままでの現代語訳と大差ない、あるいはこれまでよりも劣化したものになってしまった気さえするのだが、こればかりはつぶさに原文と比較しながらでなければ、やったことが理解してもらえないから、読んでくださる方にそこまでの作業を強いるつもりはありません。


 さらに、もう一つ。

 本作『伯爵の釵』は、鏡花作品にはありがちなこととして、朧化された金沢が舞台になっている。例によって、金沢が舞台であることは明らかなのに、土地や名所を指す固有名詞はほとんど伏せられている。もちろんそれには理由(わけ)があって、そのことについてはあとがきで触れるつもりなのだが、今回の現代語訳ではあえてむりやりに実在の地名を復元してみることにした。というのも、『伯爵の釵』では、舞台となった金沢の名所、兼六園(けんろくえん)周辺の地勢がかなり正確に記述されているようで、固有名詞がわかれば恰好の兼六園観光ガイド、聖地巡礼テキストになりそうだから……。

 いや、私自身、金沢は一度しか訪れたことがなくて、兼六園も限られた時間内にサッと見回しただけなのだから、ネットで調べた推測に頼るしかないのだけれど、それでも、いずれ再訪するであろう際の便利な手引きになりそうで、この点についてはあくまでも自分用、ということになる。


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