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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛・短編

悪役令嬢に転生しましたが、本編終了まではヒロインの邪魔をいたしません・短編

作者: まほりろ


「エリザベート・ラッセル公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」


卒業パーティの会場に響き渡る怒号。


その声を発しているのは私の婚約者である王太子。


彼の横には儚げな容姿の男爵令嬢が張り付いている。


彼らの後ろには王太子の友人である宰相令息と、魔術師団長の息子と、騎士団長の息子が控えていた。


みんな私ではなく、清楚で可憐な男爵令嬢の味方だ。


「貴様が嫉妬に駆られか弱いジーナを虐めたことは分かっている!」


「お言葉ですが殿下、私はジーナ・シフ男爵令嬢を虐めたことはございません。学園に似つかわしくない振る舞いをしないように、諌めただけ」


「口答えをするな! 貴様のような醜い女の顔など見たくない! 衛兵! やつをつまみ出せ!」


私は彼の護衛により卒業パーティの会場から、放り出された。


前世の記憶を取り戻してから六年。


自分がゲームの悪役令嬢で、卒業パーティで婚約破棄され、修道院に送られると知ったのは十二歳の時。


それから私は婚約者の王太子の機嫌を損ねないように、ゲームのヒロインを虐げないように、気を配って生きてきた。


だがやはり結末は変わらず、ゲームのシナリオ通りに婚約破棄された。


「お嬢様、お早いお帰りで」


馬車に戻ると、執事が迎えてくれた。


「ゲームのストーリー通り婚約破棄されたの。祝ってくれる?」


「ええ、もちろん。ですがそれは全てが終わったあとの方がよろしいのではありませんか?」


「それもそうね」


今日の卒業パーティをもって、ゲームのシナリオは終わった。


いや、正確には半年後の王太子と男爵令嬢の婚約発表をもってだろうか。


「半年後が楽しみだわ。身分の差を越えて真実の愛で結ばれた二人……」


国民に受けそうなストーリーよね。


「二人には国民に祝福されてもらわなければ困るわ。二人をサポートした宰相の息子と魔術師団長の息子と騎士団長の息子にもスポットが当たってもらわないとね」


でないと、その後のインパクトが少なくなってしまうもの。


「細工は流々、仕上げを御覧じろ」


せいぜい今のうちに我が世の春を謳歌しなさい。


幸せが大きければ大きいほど、失った時の落胆は大きいものよ。




◇◇◇◇◇





一年後、私は修道院で新聞を眺めていた。


新聞の一面には王太子が毒杯をあおり、元王太子の婚約者の男爵令嬢が処刑されたという文字が綴ってあった。


「あらあら二人共一年でだいぶ変わったわね」


新聞記事の二人の似顔絵は覇気がなく、髪はボサボサで、目の下にくまができ、酷くやつれていた。


卒業パーティのとき、我が世の春を謳歌していた彼らとはまるで別人のようだ。


男爵令嬢の実家は取り潰され、宰相の息子は処刑、宰相の実家である公爵家も取り潰された。


さて、幸せの絶頂であった彼らが、なぜ一年でここまで落ちぶれたのか、皆も知りたいだろう。


そのためには少し自分語りをしなくてはいけない。


私エリザベート・ラッセルは、12歳の時前世の記憶を取り戻した。


前世はゲーム好きの普通の女子高生だった。


ゲームの世界の悪役令嬢に転生したと知った私は、ゲームの知識を活かし、家の権力を拡大する計画を立てた。


私がその計画を立てたのは、前世の自分よりも、現世での私の自我の方が強かったらしく、前世の自分を吸収する形となったからだろう。


だから前世で読んだ転生ものの主人公のように、王太子と円満婚約破棄しようとか、ゲームヒロインと仲良くなってトゥルーエンドを目指そうとか、実家と縁を切り田舎でスローライフしようとか、そんな考えは一つも浮かばなかった。


私は公爵令嬢として生を受け、実家のために生きている。


だから家の権力を拡大するために使えるものは何でも使う。


前世の知識だろうが、婚約者だろうが、貧しく健気な民だろうが、なんでもだ。


このまま王太子と結婚したとしても、実家はいち公爵家のまま。 


目の上のたんこぶである宰相はいるし、魔術師団長や騎士団長など邪魔な役職も多い。


私はもっと大きな力がほしかった。


宰相も魔術師団長も騎士団長も蹴落とし、王家の力すら吸収するほどの力が。


その力を手に入れるため、私はゲームの知識をフル活用することにした。


私が最初に目をつけたのは、ヒロインの実家である男爵家だ。


ヒロインの父親である男爵を洗脳し、邪神教に入信させ、邪神復活のための生贄を集めさせたのだ。


我が国では邪神教への入信は固く禁止されている。


邪神教に入信したものは家族もろとも死刑。


邪神に生贄を捧げていたものは拷問の末に三親等先の親族まで処刑される。


王太子との婚約発表後に、男爵令嬢の実家が邪神教崇拝者による連続誘拐殺人事件の黒幕だと知れ渡ったら、どれほどのスキャンダルになるだろう?


この計画を考えた時、興奮で背筋がぞわぞわした。


富めるものからも貧しいものからも怒りを買うように、生贄は貴族、富豪、平民から平等に選んだ。


遺族の怒りが増すように、生贄の私物に血をつけて実家に送り届けた。


王太子と宰相の息子と、その他の取り巻きの間に溝ができるように、王太子と宰相の息子の親族や親しい人間はターゲットに選ばなかった。


逆に魔術師団長と騎士団長の息子の親しい人間をターゲットに定め、二人のトラウマに残るような酷い殺し方をした。


こうすることで、男爵令嬢の実家が邪神教による連続誘拐殺人事件の黒幕だとわかった時、両者の間に温度差が生じる。


案の定、男爵令嬢の父親が邪神教崇拝者による連続誘拐殺人事件の黒幕だとわかった時、王太子と宰相の息子は事実を隠蔽しようとした。


男爵令嬢を守るために、また自らの保身のために。


王太子は邪神教の崇拝者の娘を婚約者にしてしまったし、宰相の息子は二人の仲を取り持ってしまった。


事実が世間に知れたら二人共無傷ではいられない。


魔術師団長の息子と騎士団長の息子はそれが許せなかった。


親しい人を殺した男爵令嬢の父親も、その娘である男爵令嬢も、その事実を隠蔽しようとする王太子も、宰相の息子も、全て許せなかった。


だから二人は、事件の真相を新聞社にリークしたのだ。


事件の真相は新聞社によって暴かれ、邪神教崇拝者による連続誘拐殺人事件の黒幕の娘を婚約者にし、その事実を隠蔽しようとした王太子の名声は地に落ちた。


もちろんそれに加担していた宰相の息子も無傷ではいられなかった。


王族は自らの保身のために王太子を切り捨てた。


邪神教崇拝者による連続誘拐殺人事件の黒幕である男爵は処刑され、男爵家はお取り潰しになった。


そして男爵の三親等先の親族まで、残らず処刑された。


もちろん本作のヒロインであるジーナ・シフも例外ではない。


私はやつが転生者であることを知っている。


私は学園に入学してすぐ、私がゲームの筋書き通り男爵令嬢を虐めなかった場合、やつがどのような行動に出るか試した。


悪役令嬢の虐めがなければ、男爵令嬢と攻略対象者の距離は縮まらないからだ。


痺れを切らしたやつは、虐めの証拠を捏造した。


やつがクズで良かった。遠慮なく叩き潰せる。


男爵令嬢が処刑されたあと、私がやつにはめられたと報じれば、世間は私に同情するだろう。


それも計算のうちだ。


魔術師団長の息子と騎士団長の息子は、敵の娘と王太子の仲を取り持ったことに負い目を感じ、自ら実家から籍を抜き、北方の戦場に赴いた。


彼らの親は魔術師団長と騎士団長の職を辞し、爵位を二つ降格させた。


これで王太子妃と、宰相と、魔術師団長と、騎士団長の座に空きができた。


信頼の回復と第二王子の後ろ盾を得ることに躍起になった王家は、私に第二王子との婚約を打診してきた。


第二王子は今年十三歳。私とは六年の年の差だ。傀儡にするには丁度よい年齢だ。


私は、第二王子との間にできた子を王太子とすることを条件に、その話を受けた。


その間に父は宰相の職に就き、親族の者を魔術師団長と騎士団長の職に就けた。


父も抜け目がない。


こんな大掛かりなことを私一人ではできるはずがない。当然父もぐるだ。


邪神教崇拝者による連続誘拐殺人事件の黒幕だと怪しまれないように、公爵家からも何人か被害者を出している。


自ら殺すように命じた親戚の少女の葬儀で、涙を流す父は、演劇の賞を取れるほど名演技だった。


肉を切らせて骨を断つ戦法だ。


そのおかげで邪魔なゴミどもを一掃できた。


これからは我が家の天下。




◇◇◇◇◇




結婚式のあと、私は寝室のバルコニーで寛いでいた。


おこちゃま第二王子は、ベッドでぐっすりねむっている。


王家の力を安定させるため、第二王子の成人を待たずして結婚式が執り行われた。


第二王子との婚約から半年、やつは私の良い傀儡人形として働いてくれている。


このまま良い子でいてくれるなら、世継ぎを授かったあとも傀儡として生かしておいてやってもいい。


「全てが終わったわ。一緒に祝杯を上げましょう」


私は近衛兵の一人を呼びつけた。


私が学園に通っていた時の執事だ。


権力で近衛兵にねじ込んだのだ。


世継ぎは、王太子となったおこちゃま第二王子との間に作る。


私が王家に嫁いだ目的の一つだから、これはくつがえせない。


でもやつに愛まで与える気はない。


「あなたは恐ろしいお方ですね」


彼は私の顔を見て苦笑いを浮かべた。


彼は幼い頃、前世の記憶を取り戻しパニックになっていた私を、恐れず、否定せず、受け入れてくれた。


だから、私は今日まで正気を保ってこられたのだ。


「あなたの存在がそうさせたのよ」


ゲームのシナリオどおりに破滅して修道院に送られたら、彼と会えなくなってしまう。


身分の差があるから彼と結婚できない。それは分かってる。


公爵家に生まれたのだから、政略で他の男と結婚しなくてはいけない。それも分かってる。


その二つは耐えられる。


だが彼と会えなくなるのだけは耐えられなかった。


「強欲で残酷な私は嫌い?」


グラスにワインを注ぎ彼に渡す。


「いいえ、そんなあなただから愛しています」


彼はグラスを受け取り、私の手の甲に口付けを落とした。


私は全てを手に入れた。


富も権力も愛する人も。


ゲームのヒロイン的にはバッドエンドだが、私にとってはこれがハッピーエンドだ。




――終わり――




最後まで読んでくださりありがとう。


私の初の電子書籍「婚約者に蔑ろにされた私は、隣国の皇太子に溺愛される」が、本日発売となりました。お手に取っていただけると幸いです。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


本日より、下記の作品の連載を始めました。

そちらも宜しくお願いします。

【連載】「四度目の婚約破棄〜三人の妹に婚約者を奪われた私は、四人目の婚約者を美形の弟に奪われました。結婚は弟とするから、愛人になって子供だけ生んでくれ? ふざけんな!」

https://ncode.syosetu.com/n8040io/



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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったですが、ヒロインが悪すぎでしたね。
[良い点] 頭空っぽで純粋悪の主人公を楽しめるところ [気になる点] 強い悪人と弱い悪人がいて強い悪人が勝っただけのストーリーをざまぁとは言わないかなあと思いました 作者様の脳内に設定があっても書かれ…
[良い点] 流れるようなストーリー展開で、分かりやすく、また面白く読めました。 [気になる点] ざまぁタグがあるのが気になりました。 主人公が男爵令嬢に対して狡猾さでも邪悪さでも、始終上手過ぎて。 …
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