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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

かえるべき場所、いくべき場所

「ようやく死んだか」

 意外としぶとかったな、と怨霊は思った。



 鬱陶しいクズだった。

 生前は何が楽しいのかやたらと絡んできて。

 暴言・暴行、その果てに追い詰められて殺された。

 世間一般では自殺扱いになるだろう。

 だが、そこまで追い込まれて死んだ怨霊はそう思わない。

 あれはこのクズに殺されたのだとしか思わなかった。



 その恨みが強かったのだろう。

 はれて自殺者は怨霊にジョブチェンジした。

 上級職にクラスチェンジしたとも言う。

 あとは手にした能力を使って、恨みの原因達を祟っていった。



 殺すのは楽だった。

 取り憑いて、生気を吸い上げていけばいい。

 あとは勝手に衰弱して死んでくれる。

 あるいは、正気を失って発狂していく。

 どちらにしろ、長生きはしない。



 死んでも霊魂になる事はない。

 生気を吸い取られた加害者達は、霊魂の状態すら保ってない。

 存在すらも出来ないほど衰弱した霊魂になっている。

 そうなればあとは消え去るのみ。

 跡形もなく存在を消滅させていった。



 取り憑いて祟るのも楽しかった。

 窓の外に物影を見たり。

 部屋の中でラップ音を立てたり。

 金縛りにあわせたり。

 鏡の中だけに姿を見せたり。

 それだけで加害者達は怖がっていく。

 怨霊からすれば、「たったこれだけで?」と驚くしかない。

 姿が見えたり音が聞こえるだけで、それ以上の害はないのだから。



 ただ、それだけでは面白くない。

 のうのうと生きていて欲しくない。

 なので、取り憑いて生気を吸っていった。

 相手の霊魂とある程度同調する危険な行為だが。

 ある程度相手に衰弱してくれてるとやりやすい。



 極度の疲労や体調不要。

 精神的に衰弱してる状態。

 そういった時に生命活動は大きく下がってるもの。

 生気を吸い取りやすくもなる。

 抵抗力が下がってるからだ。



 事前に驚かせておいたおかげで、加害者達はそんな状態になってる。

 生気の吸収は意外と簡単にできた。

 加害者全員がそうして霊魂を消耗させられていった。

 あとは衰弱死するだけである。



 そうして加害者を殺していく。

 親類縁者や友人知人などの関係者も。

 いずれも加害者を育成した者だし、同じ遺伝子を持つ者だ。

 また、加害者と仲良く付き合い、悪事を見逃していたクズ共だ。

 生かしておく理由はなかった。



 これらを根絶やしにして、ようやく怨霊は心の平穏を得る事が出来る。

 そこまでやらねば、怨念が晴れる事がない。

 それを成し遂げた事で、怨霊はようやく落ち着く事が出来た。



「終わったんだなあ……」

 死ぬべき者がみんな死んで、ようやくそう思える。

 不思議なもので、するべき事はもう終わったという確信がある。

 死んで怨霊になってから感じていた、復讐対象の存在感。

 レーダーのように察知していたのだが、今はそれを感じ取る事が出来ない。

 それで、消滅させるべき者がいなくなったと思った。



 気分が晴れていく。

 今まで怒りと憎しみが渦巻いていたのだが。

 それが消えていく。

 放置できない問題が消えたからだろう。



 そうなると、この世にとどまる気持ちも消えていく。

 既に死んでるのだ。

 ここに居座る理由もない。

 長居したくもない。

 自分を死に追いやったふざけた世界だ。

 さっさと滅びてしまえと思う。

 出来るなら、二度とやってきたくなかった。



「帰ろう」

 自然とそんな事を思う。

 どこへ、という疑問はない。

 どこに行くべきかは自然と分かる。



(タマシイが)還るべき場所。

(死んだ後に)逝くべき場所。



 そこにどうすれば行けるのかは何故か分かっていた。

 ただ身を委ねればいい。

 変に何かを考えたり、何かをしようとしなくていい。

 浮遊感と共に体がどこかへと向かっていく。

 それに従っていればいい。

 それだけで良いのだという確信がある。



「帰ろう……」

 あるべき場所へ。

 そうあれかし、という流れに身を委ねる。

 そうしていくと、周囲の景色が消えていく。

 水に浮かぶような感覚をおぼえる。

 そんな浮遊感に任せながらたゆたっていく。

 全てが消え失せた世界の中を。



 他の全てと溶け合うような。

 それでいて自己がしっかりとあるような。

 自他の区別が曖昧でありながらしっかりとある。

 そこが霊魂の帰るべき場所だと何となく感じた。

 いわゆるあの世、死後の世界。

「帰ってきたんだ……」

 そう思いながら怨霊だった男は、本来の自分に戻ったのを感じた。



 同時に悟った。

 怨霊となって怨敵を処分した。

 その事で背負っていた業を取り除いたのだと。

 つきまとう悪意を消し去り、ここに戻ってきたのだと。

 輪廻転生をくり返しながら縛られていた地上。

 そこから抜け出す事が出来たのだと。



 何ともいえない安心感をおぼえた。

 幸福感とも言える。

 もう何も心配する事は無い。

 もう何にもとらわれる事は無い。

「自由だ」

 素直にそう思えた。



 あらゆる束縛からの解放。

 あるべき本来の状態。

 怨霊となっていた男は、それをようやく取り戻した。

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以前、こちらのコメント欄で、俺の書いた話を話題にしてくれてたので、覗いてみると良いかも

http://mokotyama.sblo.jp/

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