探した先で
爽やかな風が頰を撫でる。
「ここが、皇子の離宮か」
朝廷から放逐された皇子。王に疎まれ妃や臣下達から嫌われ常に命を狙われていたと聞く。よく今まで生き延びていたものだ。
噂を聞いて、少しどんな皇子なのか見てみたくなった。ここまで嫌われるのは何か理由があるに違いない。
よいしょ、と警備の薄い壁を乗り越え離宮の敷地に入る。森のようなそこには人の気配がない。レイは足音を立てずに中を進んでいった。
(おかしい)
それは一瞬だった。レイは咄嗟に跳躍し木の枝の上に飛び乗る。先ほど立っていた地面に大きな唸りを上げて矢が何本も刺さっていた。
「ほう。よく気付いたな。今度の刺客は比較的マトモらしい」
暗闇から低く甘い声が聞こえたかと思うと、更に容赦なく木の上のレイに矢が降り注いだ。跳び上がって避けるが、それを予測していたように空中で身動きの取れないレイに向かって正確に矢が襲ってきた。
仕方なく剣を抜き矢を全て斬り払う。着地と同時に距離を詰めてきた相手の斬撃を受け止めた。何て重い剣撃。目の前の男を見ると、長衣でよく見えないが190はあろうかという位の体格の良い男だった。
闇から生まれたようだとレイは思った。漂ってくるのは貴人の焚きしめる高雅な香りだが、血と死の匂いはどうあっても誤魔化せない。
この者が幾人の者達を殺してきたのか。前世の記憶があるレイの目ははっきりとこの男を「危険だ」と捉えていた。
まだ若いこの青年の進む道は、きっと覇道になるだろう。激しい撃ち合いを繰り広げながら眉を顰めた。
「相当の手練れだな。どこの者だ?」
「恐れながら、刺客ではありません」
正直詰んでいる。レイは諦めて逃げずに降参することにした。男1人相手にするのでも精一杯なのに、更に人数が増えてしまっては厄介過ぎる。
長く撃ち合ったせいで離宮の武官が駆けつける時間を作ってしまったらしい。見捨てられた皇子だからと甘く見ていた訳ではなかったが、これは予想以上だ。
王が優秀な武官と警備体制を用意するはずがない事から、侵入者に対するこの完璧な対応は皇子か皇子の周囲の者が構築したに違いない。
「ほう。降参か。いい判断だ。だが刺客ではないなど誰が信じる?」
これでダメだったら傷つこうが何だろうが無理矢理逃げてしまおう。レイはフードを取った。それにしても目の前の男の声はいつまでも聴いていたくなる。
「…」