未帰還
◆◇◆
SIDE:ヨルシカ
「ねえ、連盟の人って他にどういう人がいるの?」
体を重ねた後、少し気だるい雰囲気の中、何となく気になっていたことを聞いてみた。ヨハンは隣でごろごろ転がっていたけれど、こちらに顔を向けて少し考え込んで口を開いた。
「偽聖職者、偽英雄、木工職人、占い師、貴族、鳥、葬儀屋、蒐集者、骨好き、娼婦、為政者、人間じゃないなにか…そして俺。ヴィリが偽英雄だな」
ヨハンの答えに気だるさが吹き飛ぶ。
鳥?骨好き?為政者?
人間じゃないなにか!?
鳥って?と私がきくと、ヨハンは鳥だよ、と答える。
「本当に鳥なんだよ。大きい鳥だ。猛禽類というのかな。人語を解する上、風を操る。彼が言うには、故郷に帰りたいから覚えたのだそうだ。彼の故郷は空中都市なのだとか…ただ、鳥とはいえ空中都市の存在するであろう高度までは飛べないそうで、風の力を借りていつか帰るのだといっていた。ちなみに彼自身が話せるわけじゃないのだが、風を利用して言葉を操ることが出来る」
「葬儀屋は葬儀屋だ。職業として葬儀屋の仕事をしている。焼いた時の煙がね、好きなんだとか。肉体と言うものは不純物の塊で、それらが全て焼け落ちて最後に残ったものが煙…それが彼が言うにはとても美しいのだと。温厚な青年だよ。ただ、好意を持つ相手を煙にしたがる…つまり、焼きたがるんだ。彼自身もそれは良くない事だと分かっている。彼はいつも己の性癖に悩んでいるんだ」
「骨好きは名前の通りかな。骨が好きなんだ。葬儀屋とは余り仲が良くない。なぜなら彼は生物の美しさは骨にこそあると思っているからね。葬儀屋は骨まで焼いてしまうから。骨が好きな事以外は害はない…とおもう。多分。そんな目で見るなよ、まあ少しは危険かもな…」
「苦手な者もいる。蒐集者だ。彼女は不幸を集めているんだ。世に溢れるちょっとした不幸…転んだとか皿を割ったとかそういうものから、悲惨なものまで…彼女は安心を求めている。安心、安全が好きなんだ。だから世に溢れる不幸話を集めて、自身と比較することで安心や安全を再確認する。悪い娘じゃないんだが、顔を合わせると陰鬱で救いがたい悲劇を延々しゃべくり倒すんだ。嫌だろ?」
「為政者もその名の通りかな。東方のとある小国で女王をやっている。彼女の国の国民は全て彼女が創り出したモノだから。人形とかそういうモノじゃない、ぱっとみれば普通の人間だよ。だから誰も気付かないんだ。あの国の異様に」
「人間じゃないなにかはマルケェスだよ。まあなんとなく皆察している事だけれどな。でも俺達がやらかしたらマルケェスが大体尻拭いをしているからなぁ、人間じゃないくらいでないと体が持たないだろう…。俺はそこまでやらかさないが、ヴィリとかな。アイツはめちゃくちゃなんだ。乱暴というか雑なんだよ。山滑りで被害が出る地域があるとするだろ?そしてあいつがしゃしゃり出るとする。アイツは山が崩れる原因を突き止めて柵を作るなりなんなりみたいな事は考えない。山を斬って破壊するんだ。最悪だ」
ヨハンの“家族”になったなら、そんな彼らにも挨拶をしなきゃいけないのだろうか?私は胃が痛む未来を幻視してしまった。
■
「久しぶりだな」
翌朝、ギルドに一応移動した旨を伝えにいくと、いつかの親父がいた。
ヨルシカは買い物があるというので別行動。
まあすぐ移動する町で移動報告を出す者なんてあまり居ないのが現状だ。
だが、一応規約は規約だから俺は気になってしまうんだよな。
「イスカの認可冒険者という札を出したことは結構だが、金を出し渋ったことは忘れていないからな。と言う事ですぐイスカは出るが一応移動した事を報告しに来た」
親父は頷き、そういえば、と口を開いた。
「お前が依頼を受けた子供とその姉。いまはイスカで暮らしているぞ。姉のほうは元気そのものだ。お前に会いたがっていたぞ」
ああ、あの時の…。
元気なら何よりだ。
「公私は混同しない主義なんだ。まあ元気そうなら良い事だな」
俺はそれだけ言い残して踵を返す。
シェイラが居れば挨拶くらいとおもっていたが居なかったか。
イスカを離れれば再び戻ることはあまり考えられない。
シェイラと会う事もないだろう。
■
会う事になった。
通りの向こうから声がかかる。
「おーい!あんた!ヨハンじゃないか!久しぶりだねぇ」
「シェイラか。ああ、壮健そうで何よりだ」
軽く会釈する。
以前はまさにアマゾネスといった感じだったが、今は大分落ち着いた感じだな。
それから俺達は軽く情報交換をする。
ヴァラクで会ったセシル達の様子も知らせると嬉しそうにしていた。
「そういえばさ、なんか最近妙な依頼っていうのかね…教会絡みの依頼が増えているそうなんだ。調査依頼が多いんだ。どこそこの地域の動植物の生態を調査してくれとか…まあそれだけなら…きな臭いけどいいのさ。報酬もかなり良いしね。問題は…未帰還が少しあるんだ。目立つほどじゃないけれど、調査依頼でだよ?なんだか臭いだろ?確かに調査依頼といっても討伐依頼とか程危険はないといってもさ…」
シェイラが気になる事をいう。
教会絡みの調査依頼か。
未帰還もある、と。
1つの町の認可冒険者になるような冒険者がおかしいと感じている、と。
俺はシェイラに銀貨を渡す。
金を払うだけの価値がある情報だと思ったからだ。
「相変わらず律儀だねぇ。でも助かるよ。実はまあ、結婚ってやつをね…考えてるんだ。二人で話してね。家もほしいなって思っててさ。それぞれの貯えもあって、もう少しで貯まるんだよ」
大型武器をぶん回す勇猛な戦士が随分しおらしくなったじゃないか、と俺は鼻で笑って、もう3枚銀貨を積んでやる。
シェイラは目をぱちくりさせていたが、またぞろ口を開く前に俺はその場を辞した。