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イスカへの道中②

◇◇◇


「それで、なにか言い遺す事はありますか?ああ、そうだ。貴方達の遺体は綺麗に掃除してしまうのでそのお積りで…。…?もうお亡くなりになっていましたか…あなただけは中々手を焼きました。良い研鑽ですね」


血塗れた手を拭きながら、ザジが斃れ付すケイセルカットへ言葉を投げた。

ザジの右腕には大きく切り裂かれた痕がある。

小細工無しの近接戦闘しか能が無い男だったが、元騎士だという素性に恥じぬ正統派の剣術は見事だった。


敵手の動きが読めるとはいえ、読まれる事を前提に強引に力押しで来られると、最終的にはどちらの業が優れているかという話になってしまう。


例えるならば今からこの棒を思い切り振り下ろしますよ、といわれてそれをかわせるか、というような話だ。

体が反応しきれずに棒で打たれる者は多いのではないだろうか。


それにしても、とザジは思う。

勇者と接触があったからといって、一般人の元へ異神討滅官を5人も送り込むというのは異常だ。

こうまでして勇者の痕跡を消したいというのは…


「勇者殿は余程教会にとって不都合な事を知ってしまったのでしょうかねぇ」



「ねえヨハン、もしもだけど旅の途中で勇者にあったらどうするんだい?」


ヨルシカの質問に、俺は“教会へ引き渡せそうなら引き渡すが、無理そうなら無視だ”と答えた。

どういう事情があるのかは知らないが、勇者というのはザジが言うには散々“楽しんだ”後に姿を消したらしい。


押し付けられた義務なんぞは果たす必要はないとおもうが、権利を行使してしまったなら義務は果たすべきだとおもう。


まあ教会の最終戦力とまで言われている勇者を一介の術師と剣士がどうこうできるかといえば怪しいが…。


俺とヨルシカが未熟だとは思わないが、力の根源の馬力が違う。

馬に乗って走る者相手に、猫に乗って追いつけるか?

無理だ。


基本的にそういう相手の場合は乗り物から殺して、徒歩を強いるというのが定石なのだが、法神が相手というのは流石にな。


一神教の大神は樹神とは訳が違うだろう。

だからもし今の段階で出くわしたらならば無視する事になる。


ふうん、と納得してるのだかしてないのだか分からない返事をしたヨルシカはなにやら悪戯めいた笑みを浮かべ、今度は奇妙な質問をしてきた。


「その勇者って大した悪童みたいだけど、もし私にちょっかいをかけてきたらどうする?」


ヨルシカはどのツラを下げてそんな事を言うのだろうか。


「君はそんなちょっかいに甘んじる女ではないだろうが。勇者のアレをちょんぎってしまうだろうさ。それで勇者を悶死させるんだ。当然教会はメンツを潰されたと怒り狂うだろう。異端審問官だのなんだのを送り込んでくるに違いない。俺と君は教会の暗殺者共を殺しながら、やがては俺達も教会ももはやひくにひけない所までいく。その後は連盟も巻き込んで大戦争だよ。ちなみに君がアシャラの国民全ての命を捧げる覚悟があるなら勝てるかもな」


俺がそういうと、ヨルシカはごめんってば等と言っていた。


そんなこんなで世界一くだらない話をしているうちにイスカが近付いてくる。


イスカの思い出は…無いな。

セシル達とパーティを組んだが、彼らはヴァラクにいったわけだし。

ああ、でもシェイラがいたか。


冒険者を引退して恋人と一緒になったらしい。

賢明だ。

俺が言うのもなんだが、冒険者の大半は所構わず糞小便を垂れる野良犬が如き不良である。


素晴らしい者だってもちろんいるが、基本的にはチンピラか、少し上等なチンピラばかりだ。

チンピラの末路と言うのは古今東西どこを見渡しても決まってるのだ。


惨死である。

他に道を選べるならそちらを選ぶ方がいいだろう…。


そんな事をつらつらと思っていると、ヨルシカがにじりよってきた。

どうしたのか聞くと、少し寒いのだという。真っ昼間なのだが…。


そして餌を狙う四つ足の獣の様な密やかさでジリジリと距離を詰めてきて、あっという間に俺の隣に座り込んでしまった。


「一応言っておくが…別にさっきのは阿呆な事を聞くなぁとは思ったが、気持ちを試されたとは思ってはいない。だが本当に君の言う様な事がおきて、もうどうにもならず勇者を殺めてしまったら本当に覚悟しておけよ。俺の知る限り、勇者というのは全世界うっかり殺したら本当に不味い人物リストの3番目に位置する。友人や家族などは除外だ」


“1番目と2番目は?”とヨルシカが聞いてくるので


「教皇と冒険者ギルドの職員…特に人気受付嬢」


と答えた。

教皇は言うまでもないが、冒険者ギルド職員殺しもかなり不味い。

めちゃくちゃな懸賞金をかけられて、全世界の冒険者が暗殺者になり得る。


ああ、それにしても本当に最近は厄介な相手、手強い相手、ちょっと勝てなさそうな敵などが多すぎる…。


俺は自他共に認める優れた術師だが、ここ最近のトラブルは俺の器量を越えている。


やはり絡んでくるチンピラを痛めつけて、カツアゲをするというのが平和でいい。

多くの者がそうだとおもうのだが、暴力というのは振るわれるより振るうほうが良いと思わないか?


ともあれ、明日にはイスカだ。

シェイラがいれば挨拶しておこう。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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