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★イスカへの道中


短い逗留期間だったが、俺達はヴァラクを出立した。

ちょっとした再会もあり、ラドゥの少し気になる言もあり。まあ立ち寄ってよかったと言えるかもしれない。


これからイスカへ向かうわけだが、馬車はやはり屋根付きの高級馬車だ。

挿絵(By みてみん)

俺はあちらこちらを転々としている為、馬車には一家言あるのだが、やはり安い馬車と言うのは家族を人質にでも取られない限りは乗ってはいけないと思う。


安い馬車の筆頭といえば荷馬車だろう。

乗り心地が劣悪だ。

ただ、まあ仕方ない部分もある。

そもそも荷台に人が乗る事を想定されていないのだから。


ともあれ安い馬車に乗らなければ家族の首を搔っ切ると脅しかけられたなら、その時初めて乗るかどうかを検討すべきだ。


挿絵(By みてみん)

「結構居心地はよさそうだね」


ヨルシカも特に不満は無い様だった。

まあ俺も彼女もその気になれば板敷きだけの馬車でも我慢できるが、しなくていい我慢なんてものはする必要は無いと思う。


「乗り合い馬車もちょっとな。それにイスカまでは少し日数も掛かる。寝台がある方がいい」


俺がそういうと、彼女も頷いた。


「本棚まであるんだね。ル・ブランの紀行物か。結構好きだよ」


ル・ブランは世界中あちらこちらを旅して回っている冒険者だ。本当かどうかは分からないが、空中都市や海底都市も旅して回ったと言う。

果ての大陸に渡った事もあったとかなんだとか…。

彼は実在する人物だが既に故人だ。


だが、彼の子孫たちもまた冒険好きで、俺も子孫の1人とあった事がある。


だがその子孫は世界を冒険するより、女体を冒険するほうが好きというていたらくで、知りたくもなかったのに俺も色々と話を聞かされてしまった。


「ねえ、ル・ブランは地底都市へいった事があるというけれど本当なのかな?この挿絵…どう思う?」

挿絵(By みてみん)

地底都市か。

はるか地の底に一大文明圏が築かれているとかなんとか。そこでは擬似的な空が広がっており、なんと陽光も差すのだとか。

挿絵(By みてみん)

「あるかもな。いわゆる迷宮に近しい性質を持つ都市なのかもしれない。迷宮というのは不可思議な空間で、魔術だか魔法だかにより擬似的な空が壁面に投影されている階層もあるのだとか。大きい迷宮は基本的に国が囲っているわけだが、どうせ目的も特にはないのだし、目指してみても面白いかもしれない。運が良ければ財宝にありつけるかもしれないぞ。魔法の武器や道具も出土するそうだ。俺は以前、刀身が螺旋をまいている不可思議な剣を持つ剣士に会った事がある」


◇◇◇


「おじちゃん後ろ!」


男と女、そして少女を襲う火炎弾を結界術で相殺して、彼らに怪我がないかを確認していたザジに、少女の悲鳴のような警告が飛んだ。


ザジは振り返ると同時に裏拳を放ち、襲い掛かってきた黒い僧服を着た男達の1人の顔面を叩き潰す。


鼻が折れたとかそんなチャチなダメージを与えたわけではない。膨らませた風船を釘つきバットで引っぱたいたかの如く、ザジの拳は男の顔面を破裂させたのだ。


脳の欠片と血飛沫がザジの身を飾り立てる。

だがザジの表情は無表情のままだった。

それもそれで異様なのだが、彼と相対する男達もまた異様であった。


ザジに仲間を殺されたにも拘らず、誰も何も感情も見せようとはしないのだ。


「勇者を消す、と言う所までは理解はしましょう。共感はしませんが。しかし勇者と接した事があるからといって、一般の人達までも消そうというのはどうなのでしょう」


ザジが言う。

すると男達の1人が口を開いた。


「彼らは異神を奉じていると調べが付いている。豊穣の神などというものは存在しない。それだけでも許しがたいと言うのに、逃げた勇者を庇い立てするなど言語道断。それなのに何故貴様は我々に牙を剥く?貴様の敵は我々ではないはずだ。貴様、法神の教えに刃向かうか?」


ザジは首を振った。

異神を奉じてようが馬鹿な勇者を庇い立てしようがどうでも良いのだ。

ザジが信じるのは法神のみ。

別に教会を信じているわけではない。

その法神はこのように教えている…


悪意を以て盗んではならない

悪意を以て騙してはならない

悪意を以て殺してはならない

悪意を以て傷つけてはならない

ただ我のみを奉じるべし

他の何者にもその信仰を捧げてはならない

我が言葉をあるが侭に受け入れるべし

地には平和、天には秩序を齎せ

陰陽遍く、法の光を照らすべし


ザジの解釈では、法神は民が異神を信じているからってぶち殺していいとは言っていない。


個人の信仰の在り様に文句をつける気はないが、法神が言っていないことをあたかも言っているかのように振舞うのはどうも気に食わない。


「自分個人の考えとして、異教徒が気に食わないから彼らをぶち殺します、ならまあ分からないでもないのです。しかし…なぜ法神が異教徒は殺せと言っているかのごとく振舞うのです?法神はそんな事を教えてはいません。聖典のどこにもそんな事は書いていません」


ザジの言葉に男達は黙り込んだ。

過激派と呼ばれる彼らにとってその質問は答え辛いものがあった。


確かに法神はそんな事は言っていないからだ。

だがここではいすみませんと引く事の出来ない事情もあった。


法神の権威を知らしめ、教会の勢力、存在感を全世界に満たす。そうすることで浮かぶ瀬というものもあるからだ。


過激派の多くは国からの追放者、亡国の王族の係累…要するに権を追われたもので構成されている。

つまり、彼らは再び造りたいのだ。

自分達の王国を。

千年王国を。


そのためには力がいる。

それは教会権力だったり、盲目な信者達であったり、あるいは意のままに動く勇者であったり。


だから邪魔なのだ。


穏健派が。

人ならぬ力があり、信奉を集めかねない存在…他の神が。

自分達の意図に気付き、散々教会の評判を下げるべく行動し、挙句の果てに逃げ腐った勇者が。


そう、要するに中央教会とは、過去の栄光にすがる私欲まみれの亡霊たちが再起を目論む為の組織だったのだ。しかし、そんな腐った組織だって信者という力を集めなければいけない以上、表向きは耳障りの良い言葉を並べ立てるわけで。


穏健派とは、そんな組織の上っ面に騙されて入信してしまった者達の中にたまたま異常なまでに純粋な者がいて、そういった者らが立ち上げた派閥であった。


そんな穏健派の者達は神の正しさというものを信じて行動している。

そして、“正しさ”に任せて行動する事の狂気さや強さというものは、権力欲などとは比べても劣らないほどの狂猛さを秘めている事は多くの者が知っているだろう。


過激派がこれまで一度も教会の実権を握ったことがないという事実がそれを証明している。


「聖典のどこにもそんな事は書いていません…なのに、なぜぇ…?なぜ貴方方は…神の言葉を騙るのですかぁ~…?」

ザジがニタリと嗤った。


そりゃあ過激派はやばい。常に殺気立ってる。

力が欲しい欲しいと啼いている。

過去の栄光を取り戻すためなら何万人、何十万人だって殺すつもりでいる。

異教徒、魔族、逆らう連中は何でもかんでも殺してやると息巻いている。

権力欲だって馬鹿には出来ない。

権力とは世界を動かすに足る力だ。


だが、穏健派だってやばいのだ。

だって、彼らは信仰に狂ってるから…。

ヨハンがいっている螺旋になった剣は、モデルとしてはウィザードリィというゲームのカシナートの剣みたいなかんじです。

カシナートの剣、ミキサーでググるとイメージがわくかなとおもいます。

AIでの生成はいいのができなくて諦めました。

また、作中の色んな写真を活動報告であげているので宜しければ見てください

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] ザジィ- なんでか名前があんまりすきくないけど 改心しよう。反省?しよう。 何て良い子なんだ。ザジ 命は大事にし過ぎると腐る も法に追加しといて。 あ、屑に利用されるからやっぱなし。 法なん…
[一言] 狂信者ェ…
[良い点] レベル10ファイターと知り合いなのしゅごい ※おおっと!※
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