三色頭
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結局あの場はお互い“すまなかったな”で場が収まった。
ヨルシカはやや不満そうだったが。
「……君が謝る必要がどこにあったんだ?」
ヨルシカが聞いてくる。
確かに。逆の立場なら俺もそう思っただろう。
「あの流れだと多分彼らを殺してしまっただろうと思ってたんだ。俺は殺してしまった後の事を考えていた」
俺がそういうとヨルシカはきょとんとしていた。
「あの術はある程度時間が過ぎてしまうと制御できなくなるんだ。血肉を吸って成長してしまう。対象が死ぬと術は効力を失うから際限なく暴れたりはしないんだが。あの時点でそうだな…数分も余裕はなかった。君から聞いた状況で殺してしまうのは流石にやりすぎだろ?間違いなく衛兵沙汰になる。だからこそ謝罪の言葉があるかないかをはっきりさせたかった。あるならあるでよし、無ければないで彼らが俺と最期までやりあいたかったと言う事を周囲に印象付けたかった。その上で客を金で買収して俺達の側を心証有利にしようと考えていた」
俺がそう言うと、なんでそんな術を…とやや引き気味だったので、それは君もだぞ、と答える。
そして、気になる事が1つ…。
「なあ、俺も君もだが…ちょっと攻撃的というか破壊的な性格になってるかもしれないな。俺は秘術の影響だろうが、君の場合は多分俺のせいだな。どうも感情に引っ張られてる気がする。特に互いの事になるとそれが顕著だ。君はヴァラクではもう少し温厚だったはずだ。傭兵のタマを潰しただけで済ませた。俺もそうだ。君が彼らに直接的なちょっかいを出されていたら俺は彼らを殺してしまっていたかもしれない。お互い気をつけよう。気付いたら連続殺人冒険者になっているかもしれない」
俺がため息をつきながら言うと、ヨルシカは“そ、そう…ありがとう…”とだけ。
ありがとうじゃないぞ。
「でもヨハンは割りと最初から破壊的な性格だった気がするけど」
ヨルシカの言葉には思い当たる節が沢山ある。
「ははは…笑えないがそうだな、俺は君との初対面の時、君ごとチンピラ共を物言わぬ骸に変えてやろうと思ってたよ。そういえばアシャラに着く前は悪魔崇拝者を解体したこともあった。あれ…?俺は比較的温厚になったのか?」
全然笑えないとヨルシカが言うが、黙殺。
そんなこんなでエル・カーラの夜は過ぎていった。
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翌朝。
「お、おはよう…」
俺がさっさと身支度しているとヨルシカが起きていた。
「おはよう。今日はちょっと触媒屋を漁ってくるよ、君は適当にやっててくれ」
俺がそう言うと、ヨルシカは布団にもぐりこんだ。
まだ寝るらしい。
布団は替えておいたほうがいいぞ、とは言うまい。
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触媒屋に向かう。
香木の類も欲しいな。
触媒としても良質な術が使いやすいし、あとはこれは大事な事なんだが、虫が湧きづらい。
木材っていうのは下手をすると虫が巣食うのだ。
木片だけじゃなく、樹皮なども数が持てていいが、これもやはり油断すると虫が湧く。
虫を使った術もあるし、結構悍ましい術が使えたりもするのだが、虫の術は触媒が逃げる恐れがある。
あと餌をやらないと死ぬ。
死んだ虫は触媒にならない…
色々考えると、協会が勢力を拡大した理由が良くわかる。
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触媒屋についた。
だがあの三色頭…水色、赤色、黒色は…
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「ねえ、ドルマ、マリーが水の術なんて使うのはおかしいと思わないの?マリーは赤だ。火の術だよ。彼女は火に愛されているんだ」
「好きな術使わせてやれよ…術なんてのは本人の思い入れがある術を使うのが一番なんだよ」
「ドルマもたまにはいい事言うわね。いいこと、ルシアン!私は将来偉大な術師になるわよ。全ての属性の術を使いこなす偉大な術師にね。いずれはあの太陽だって私の意のままに操ってみせるわ。協会も連盟も私が支配するの!さあ!早く触媒を仕入れて新しい術の特訓をするわよ!」