★エル・カーラ再び②
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ミシルとの対面にはヨルシカも連れていった。
ヨルシカとしては先の魔族との戦いに思う所があったらしく、何か戦闘用の導具があれば、との事らしい。
一応その辺についてはミシル次第なので、一旦外で待ってもらってミシルに確認を取ったが、特に問題ないとの事だったので今2人してミシルの屋敷の応接室に通されているという次第だ。
ミシルは腕や脚を取り替える気はないかとヨルシカへ提案して、ヨルシカも少し悩んだ様だがそれは断わっていた。
俺も今別に手足を取り替える必要は無いと思う。
そういうものは千切れるなり壊死するなりしてから取り替えれば良いのだ。
ミシルはあんな導具はどうだとかこんな導具はどうだとか、色々とヨルシカへ提案していた。
彼女は剣士向けの導具も色々と作っているらしく、ヨルシカの来訪は霊感を刺激されると言って喜んでいた。
そういえば術師コムラードはエル・カーラでの戦いで重傷を負ったものの、今では現場復帰を果たしたらしい。
良かった。
治療にあたってはミシルがコムラードの“部品”を取り替えたかったそうだが、とんでもない剣幕で叱られたのだとか。
◇◇◇
雑談の傍ら、ミシルはその術師としての眼をヨハンへ向けた。
術師として何が視えるかは個々人で異なるが、ミシルは心の在り様を漠然とした風景にかえて幻視する。
(一面に咲く花畑は枯れゆき、空には暗雲広がり、然して酸が混じる雨が降りしきり。変色した花々は地に溶ける。ですが…)
――無残に荒れ果てた花畑の中央に木々が生え、伸びる
――硬く黒い幹が次々と真っ直ぐ、天へ伸びていく
「黒い森…」
ぼそりと呟くミシルにヨハンは特に反応を示さない。
ヨルシカはきょとんとしてミシルを見ていた。
まあ良いでしょう、とミシルは視るのをやめてヨハンに向きなおった。
「さて、アシャラでは何があったのですか?どういう状況でどの様に私の作品を使ったのか教えて下さい。土産話という奴ですよ。見返りといってはなんですが、作品の整備はタダで請け負いましょう。他にもご要望がある様ですが、そちらは料金を頂きます」
◇◇◇
「それはまた大変でしたね。それにしても悪魔の次は地神に魔族ですか。災厄の呪いでも受けていないか確認した方が良いでしょうね」
「中央教会が?あちらもあちらでキナ臭い様ですね」
「勇者ですか。私は好きではないですね。私の師が迷惑をかけられたので」
「ああ、そうなんですか?道理で雰囲気が甘ったるいなと鬱陶しかったわけです。いえ、冗談です」
「アリーヤは元気ですよ。あの子にも友達が出来た様で何よりです」
「あれからは特に問題はないです。悪魔崇拝者の残党もいなかったわけではないのですが、もう居なくなりました。え?いえ、街から逃す筈がないでしょう。居なくなっただけです」
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ミシルとは面識のある面々の近況や、ちょっとした情報交換等をした。
義手についての改良案をいくつか受取り、その中から“現実的な案”を選ぶ。
そして腕を渡し、金を半金支払い屋敷を辞去した。
それまで腕無しだ。
改良には3日、4日かかるらしいので、それまでエル・カーラを見て回ろうと思う。
触媒も購入しておきたかった。
鉱石や木片だ。
鉱石は勿論だが、木片と言うのも触媒としてはよく使われるものの1つだ。
安価だし、色んな伝承や逸話が世界中にある。
問題は…やや嵩張る事くらいか。
俺はいつの頃からか樹木と言うものに興味があった。
種によっては1000年も2000年も生きるモノもあるというのは、学術的興味を強く刺激される。
ヨルシカにそれを言うと、彼女は黙って俺を見つめるばかりだった。
何か気に障る事でも言ったかと聞いてみたが“大丈夫だよ”などと言っていた。
そういえば俺は木片を触媒に使うと言うのに、それらを1つも持っていないな。
奇妙な事だ。
◆◇◆
SIDE:ヨルシカ
次は使わせない。
いいや、二度と使わせない。
でもそれには力が必要だ。
魔族でも神でも殺せる力が。
ミシルさんは想いは力になると言っていた。
でも油断をすればすぐ捻じれてしまうと。
捻じれた力は不幸を招くと。
でも、仮に私が力を得て、それが捻じれて不幸を招いたとしても
その不幸すら殺してしまえる程の力なら何の問題も無いんだ。
そうだろう…?
ヨハン。