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イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


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イスカ⑤

 ◇◇◇


 ゲイリー達はギルドへ引き渡された。

 冒険者ギルドは同胞殺しを決して許しはしない。


 ゲイリーらは拷問にかけられ、やがてはそのバックにいる商会も芋づる式に引きずり出されるだろう。たかが一港町の有力商会などは冒険者ギルドという巨大組織の前では木っ端にも等しい。


 ギルドのメンツに傷を付けた以上、ゲイリーらが娑婆に戻れる可能性は極めて低い。


 ■


 あれから1日がたった。今日ヨハンは仕事を休むつもりでいる。触媒を補充しておく必要があるからだ。


 術を行使するには基本的に触媒が必要で、触媒抜きに術を使うとなると心身に大きな悪影響を及ぼす場合がある。例えば視力と引き換えにだとか、例えば体内を流れる血液の一定量と引き換えにだとか。


 多かれ少なかれ、代償が求められるのだ。


 ・

 ・

 ・


 イスカの街には一つしか術師の触媒を売っている店がない。木造のボロい家屋である。


 店には名前もなく、街には魔女の店などと呼ぶ者もいる。


 ヨハンが扉を開けると、どこからどうみても魔女!というような老女が歯の無い笑顔をみせた。


「術師さんかい…。花とか草ばっかりじゃなくてもっと高いものを買っていっておくれよ」


 その店の主がこの老女であった。


「そうだな。良い品が揃っていると見える。高いものか…"石"はあるかな?使い道が広いものがいいな」


 石というのは触媒に使う水晶やら宝石の事だ。呪術の類ではなく、より直接的な術の触媒に適している。


「ひっひ…そうこなくちゃね。ただ…まぁ…使い道が広い、というと…ふむ」


 老女は腰をあげ、緩慢な足取りで棚へと向かった。そしていくつかの石を取り出す。


 老女がヨハンに示したのはいくつか水晶欠片だった。水晶には特定の逸話がなく、様々な術の触媒となる事で術師からは人気がある。勿論そういった触媒は用途が限定されているような触媒と比べると効果は薄いが。


「濁りも少ない。良い品だ。買わせてもらおう」


 ヨハンが言うと、老女はニタリと笑った。



 ■


(ヨハン視点)


 店を出ると、メスガキ…違う、リズが所在なさげにたっていた。


 何の用だ?


 リズが口を開いた。目線は合わない。俯いているからだ。


「ヨハン…あの、さっき歩いてたら見かけて…助けてくれたこと、改めてお礼をいいたくて」


「そうか、その礼は受け取ろう。まあ無事でよかったよ。それじゃあな」


 俺はそういって去ろうとしたが、ローブが引っ張られる感覚。


「待って…お礼をしたいから、でもどうすればいいのかわからなくて…それで、オヤジさんに相談したら、本人と話してみろって…」


 俺は俯いた。

 礼は受け取ったといったのにリズが話をきいていなかったからだ。


 そして、難しいな、とおもう。

 ニンゲン関係とは難しい…

 コイツは要するに、言葉だけじゃ気が済まないんだろう。


 なにか行動で示したいわけだ。

 だが、それはあくまでこいつの欲を満たす行為であって、俺のための行為といえるのだろうか?いいや、言えないね。


 とはいえ善意か、あるいは善意に似たなにかを基にしての言動であるということもわかる。


 それらを鑑みれば…


 俺は別に好んでメスガキを傷つけたいわけではないのだ。


 ならば…


「そうか。じゃあ情報という形で礼をいただこうか。俺はこの町にきてまだ浅い。安い宿、飯が美味い店、品質がいい武具店…知っていたら教えてくれ。武具は術師向けがいいな。そのへんを調べたらまた今度会ったときに教えてくれ」


 俺がそういうと、リズは尻尾をふっている犬のような様子でわかったといい、駆けていった。


「獣から人へ。これが進化の過程か。感慨深い」


 俺はリズの成長ぶりに感動はしなかったが、それなりの気分でギルドへと向かった。


 ■


 ヨハンはギルドにつくなり、ルドルフの元へ一直線にむかっていった。


「親父、街を移ることにした。知り合いから助けを求められてな。力を貸して欲しいとのことだ。俺も男だ、友から助力を求められて無視なぞできようもない。傭兵都市ヴァラクへ向かう。移動の手続きを頼むぞ。夜馬車にのって出立する。じゃあな、世話になった」


 ルドルフは暫時目を見開き、そしてあわてて言い募る。認可冒険者として通そうとしたものがそんなにすぐに街を出ていくというのはルドルフとしても面目が立たないのだ。


 だがこの時、ヨハンとしてはもはやイスカに残るつもりもなかった。理由は色々とある。


「な?!お、おい待て!理由はわかったが、ちょっと待て!」


 ヨハンの耳に何か聞こえるが、黙殺した。


 ──友よ、待っていてくれ。すぐに向かう


 いもしない友を脳内で作り出したヨハンは早足で乗り合い馬車の乗り場へと向かい、あっというまにイスカを去っていった。まるで借金取りから逃げているかのような性急ぶりである。


 ■


 夜馬車に揺られ、街道沿いの木々を見ながらヨハンは思う。


 ──面倒事からはさっさと退散するに限る


 勿論ヨハンはヴァラクに友人がいる訳では無い。少し派手に立ち回ってしまったので粉をかけられるのが嫌だったのだ。


 特にゲイリーである。それなりに名が知れている冒険者とのことで、ヨハンは警戒した。仲間達の仇討ちだのなんだのに巻き込まれる可能性が0とも言えない。


 あとはセシル、シェイラ、リズである。


 ──セシルは今後商会の残党などと揉め事があるかもしれないし、リズは変な懐き方をしてきて鬱陶しい。シェイラは……彼女は普通か。 ともあれ、関係の清算には丁度良い


 ヨハンはうん、うん、と大きく頷き、懐の手帳をローブの上から撫で、そして座ったまま眠りについた。




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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] フラグを全力回避して笑いました
[一言] 想像以上のサバサバ具合に驚きです
[一言] 笑ってしまった!不覚
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