樹神③
■
「グィル、そういえばアシャラの防衛は副ギルドマスターに任せたそうですが。彼は実戦の指揮をとった事があるのですか?」
ちょっと気になっただけだ。
「ないな」
ないのか。
一度も話す機会は無かったが、話によれば都市開発の責任者だそうだ。
失敗が許されない場面で副ギルドマスターとはいえ、その様な重大な任務を与えるだろうか? 俺なら任せない。
適材適所。これが冒険者だ。
たとえ副ギルドマスターとはいえ、明らかに実戦経験に乏しいのなら別の者に任せる。
人材なら幾らでもいるではないか。
「グィル、貴方は森を進んでいる時、魔法を使っていました。それはエルフェンの血を引いているからだと思っていたのですが……つい先程1つ思ったのです。魔法は何も、エルフェンの専売特許ではないな、と」
「それで?」
「グィル、貴方は見てきたかのごとく樹神の事を語りました。実は、本当に見たことがあるのではないですか……? ギルドルームでの話です。まあそれは置いておくとしても、我々は樹神の封印されている台座まで迷わずにたどり着けました。あなたのお陰で。しかし、そこまで知っていながら何故緑の使徒の跋扈を許したのです?」
「もう一つ聞きたいのですが、グィル。貴方はルイゼに……「もう良いよ、ヨハン。死になさい」貴様がな」
グィルが人差し指を俺に向ける、が、俺は既に拳を地面へと叩きつけていた。
━━雷衝・散
術腕から電撃が迸り、周囲へ弾け飛ぶ。
ギャッという声が背後からした。
シルヴィスの声。
やはり回りこんでいたか。
「ヨルシカ! 黒幕はこいつ等だ!」
俺が声をあげると、彼女は既に走りこんできており、吹き飛び膝をついたシルヴィスの即頭部に蹴りを放っていた。
だがその蹴りはシルヴィスの掲げた腕に防がれる。
「いつから気付いていたのだね?」
グィルが問いかけてきた。
ちっ、無傷か。
魔法か?
即時起動の術式より早いというのは反則だ……。
「気付くも何も……貴様が自爆しただけだよ、グィル。俺は“疑問”を口にしていただけだ。それを勝手にバレていると勘違いしたのは貴様だよ」
食えない奴め、と俯くグィルからは、しかし……宙にじわじわと染み入る様な殺気がもれていた。
バレたからって降参する様なタマでもあるまい。
ちなみに、俺は本当に気付いていなかった。
ルイゼの師匠みたいなものと分かってから全く警戒していなかった。
死になさいと言われたから体が勝手に反応しただけである。
俺は俺を殺そうとする奴がいたら、念の為に殺しておかないと気が済まないのだ。
それから先の俺のセリフは、その場で考えて発したに過ぎない。