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樹神②

 ■


 それにしてもな、と思う。


 事此処に及んでは放置は出来ないにせよ。


 そして最初から放置していたとしても何者かが意図的に邪な形で復活させてしまっていたにせよ。


 あの樹神とやらが哀れだなと俺は思う。

 伝承にあるエルフェンとの絡みも、あの樹神はエルフェンに悪意を抱いて変容させたわけでもないのだろう。


 森で大人しく、ずっとずっと寝かせてやれば良かったではないか。

 望んでも居ない信仰なんぞ捧げられ、望んでもいないのに神の様なナニカに変えられて、人の都合で邪神等と呼ばれ、人の都合で封印される。

 ようやくゆっくりと休めた所を、木っ端の如き者らに叩き起こされ。

 ヴィリの話では、それも木っ端の使徒だか緑の使徒だかが何者かに手引きされ、そそのかされた結果だと言うではないか。


 それは怒るだろう。

 怒って当然だ。


 だが、まあ仕方あるまい。

 樹神は哀れだと思うが、放っておけばアシャラも森に飲まれてしまうのだろうし。


「やるせないですね、グィル」


 俺がそう言うと、グィルも頷いた。

「一つとして誉れのない戦だ」


 ご尤も。


 生存競争にロマンを求める程ガキではない積もりだが、分かりやすい悪役というのがどれ程気分良くぶち殺せるものかを改めて知った気分だ。


 とはいえ、殺る。

 誉れがあろうが無かろうが、気分が乗ろうが落ちようが知った事ではない。


 ヴィリが殺れればいいが、果たしてどうだろうな。



 ◇◇◇


 ━━気操剣グレモラ


 ヴィリの投擲した剣が樹神の脳天らしき部分を貫いた後、何かに操られたかのように反転し、その手に戻る。

 そしてヴィリは顔を顰めた。

 彼女は自身の意気揚々としたぶっころ死の気概に薄い靄が掛かっているのを感じていた。


(もっとイキった神なら殺る気もでたんだけどなァ)


 剣から伝わったのは樹神の心の在り様だ。

 人の運命を好き放題いじくり回して滅茶苦茶にする神をこそヴィリは嫌っていた。そんな神は全員ぶっ殺してやると意気込んでいた。

 その気概でぶっ殺した神はいずれも小神だが現に何柱もいる。


 しかし……


(コレ、どっちかっていうと……)


 そう、どちらかといえば……というより、確実に樹神は滅茶苦茶にされている側である。


 ━━忌風剣シャ・グ


 地に降り立ち、とりあえずとばかりにひゅんひゅんと剣を振り回すと、風の刃がぴゅんぴゅんと飛んでいく。

 それは樹神の身を覆うツタを何本か斬ったりはしたものの……


(うぅん……っと、と、と)


 振り回される巨腕をさけ、剣を振るうものの……なにやら本当にやる気がなくなってきてしまった。

 だがこのまましおしおと戦って居ても殺されてしまうので、無理矢理やる気を出す。


 ■


 ヴィリのやる気が余り無さそうなのも問題だが、何より問題なのは樹神が思った以上にしょぼいという事だ。


 いや、これは不敬か。


 そもそも戦いの神ではない。

 なるほど、森そのものがかの神であるというのなら、耐久力という点では厄介だろう。


 だが見ろ。


 ただただ腕をぶんぶん振り回すだけだ。

 ヴィリは何かを考え込んでいる様だがヒョイヒョイとかわしている。

 あんなものは俺だってかわせる。

 いや、少しは当たるかもしれないが、概ねかわせる。


「なあヨルシカ。どうおもう? アレ」


 俺が聞くと、ヨルシカは困った様な表情で答えた。

「倒せる気はしないけど、暫くの間だったら倒される気もしない」


 全く同感だ。

 あれはタフそうだが、それだけだ。

 だったらどうにでもなりそうな気がする。


 全てを真実だと仮定しよう。

 つまり、ヴィリが聞いた話が全て真実だったとして……あんなものを復活させて何になるのかという話である。

 緑の馬鹿をそそのかした何者かの意図を考えると……

 そもそも樹神は当て馬で……

 いや、待て待て。

 なんか景気の悪い考えを思い付きそうになってしまった。



「ねえヨハン?」


 ヨルシカが声をかけてきた。

 顔を向けると、彼女はこんな事を言ってきた。


「もし君がヴィリちゃんの言う“何者”かだったら、どういう意図で緑の使徒をそそのかす?」


 ん? 

 んん~……


 何もかも仮定の話になるが、と前置きして俺は答えた。


「第三勢力……この場合は樹神だが、それを使いアシャラの戦力を消耗させるため。もしくは樹神という存在が邪魔だから排除させようとしている……」


 景気の悪い結論を思いついてしまった。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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