★雑談したりアシャラについたり
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「お二方。見えますか?あれが都市国家アシャラです。ここからぐるりと大きく迂回しながら下っていきます。滑落しないように慎重に下っていきますので少し時間がかかるでしょうね。まあ…暗くなる前には到着するでしょう」
俺がそう言うと、老夫婦はああとかおおとかまあとか言いながら馬車の外をのぞき込んでいた。
気持ちは分かる。
絶景というかなんというか。
自然との共存を体現しているというか。
フィールドワークが好きな俺にとっては心踊らされる光景だった。
森が街を取り囲んでいる。
いや、自然と共存しているというべきか。
自然と寄り添いながらも、文明の火を煌々と照らしている様は何とも逞しい。
遠目に見る建築物には高度な建築技術が使われているのが分かる。
飲み食いは不足しなさそうだな。
だが、獣鳥の鳴き声で安眠を妨害されそうな不安もある。
手頃な防音の術はあったかな。
音を打ち消すという逸話、伝承…そう言った物はどうも物騒なものが多く、暗殺等に使う様な術ばかりなのだ。
連盟の術は良く言えば種類が豊富で、悪く言えば整理されていない。
例えば林檎があったとして、協会式の分類なら大きい林檎か小さい林檎かという様にざっくりと分けられるのだが、連盟のそれは大きいけれど中が虫食いでやや不味そうに見える林檎、だとか、小さいけれど蜜が豊富で…だとか、そういう感じだ。
俺が知る限り防音の術だけでも…そう!45種類はある。
勿論調整はする。
この逸話のこの部分だけ切り取るにはこういう解釈をして…と言う様な。
術者の解釈と納得が術の細部を装飾する。
大まかな効果は共通意識のそれから引っ張ってくるのだが。
だがそうなると、術者本人にしか扱えない固有魔術のようなものが出来上がってしまう。
そうなるとどうなると思う?
また連盟の術体系が複雑化し、めちゃくちゃになるのだ。
もう誰もどうする事も出来ないだろう。
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等と言う事を老夫婦に話したりもしていた。
他にはどんな術が使えるのですかと聞かれたからだ。
勿論暗殺がどうこう等という事は省いて。
ああ、そんなことを話している内に都市へ着きそうだ。
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都市へ着いた。
都市内部への大門が見える。
暗くなる前に到着出来て良かった。
そう言えばヨルシカは都市に居るそうだが都市の何処なのだろうな。
まあでも彼女は冒険者か。
どうせギルドへ行くのだからその時聞いてみよう。
だがまずは宿から確保する。
宿、そしてギルドだ。
自慢ではないが、俺はこの順番を怠って馬小屋で寝た事がある。
老夫婦と別れ、俺は宿屋を探すべく街をぶらつくことにした。
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良さそうな宿屋を見つけた。
赤い屋根、二階建ての宿屋だ。
都市国家アシャラにはこんな建物がゴロゴロしている。
建材に困らないからだろうか。
早速手続きをし、ギルドへ。
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ギルドに入ると、一癖も二癖もありそうな連中が冒険に出る支度をしていた。
一応言っておくが、これは賞賛している。
まあこんな大自然に面した地域で冒険者なんてやるのだから、相当に図太くないとやっていけないだろう。
種々雑多な服装をしているのが冒険者で、青い服を着ているのが職員か。
俺は手近な男性職員に声をかけ、ギルドへの移動報告とヨルシカという冒険者は知らないか聞いてみた。
「ああ、ヨルシカさんの知り合いですか?」
俺は頷き名を名乗ると、得心した様子で親しげに話しかけてくる。
「貴方がヨハンさんですか、ヨルシカさんがお世話になったと言っていましたよ。もし彼が来ることがあったら伝えてくれと言われていたのですが、一応確認を取りますね。貴方とヨルシカさんの共通の知り合いで、酒と女にだらしない借金持ちの者の名前を教えてください」
「カナタだ。才能に溢れたろくでなし」
職員は苦笑しながら深くうなずいた。
「ヨルシカさんは郊外の孤児院に居ます。この時間だと夕食の支度などで忙しいかもしれませんね。どうされますか?」
俺は明日出向こうと答え、宿泊している宿の名前を告げる。
【振るわれる鹿角亭】。
宿の主人が大きな鹿と格闘して深手を負いながらも勝利したという話に由来するらしい。
ギルド職員はわかりましたと答え、俺はその場を後にした。
宿屋に戻り食事をとった後は眠ろう。
流石に少し疲れた。