星の果ての邂逅⑤(了)~ケロッパ、カッスル、タイラン、ヨルシカ組~
魔王の本拠地がある果ての大陸へ転移してきた12人
ヨハン "連盟" の魔術師
ラグランジュ アリクス王国の近衛騎士、レズ
ファビオラ アリクス王国の貴族
ゴッラ レグナム西域帝国の闘
ランサック アリクス王国の冒険者
ザザ アリクス王国の冒険者、剣の達人、風俗好き
クロウ 頭おかしい青年、偽勇者
カプラ アリクス王国の貴族に雇われてる上級斥候
ケロッパ "協会" の魔術師。ショタじいさん
カッスル レグナム西域帝国の冒険者
タイラン 中域出身の冒険者、LBGT枠
ヨルシカ ヨハンの嫁
果ての大陸の様々な障害を乗り越えて魔王城へ。
魔王の待つ間へと通じるっぽい門には封印がかかってるらしい!
近くに三つ扉があるぞ、その奥のなにかを斃せば封印がとけそう
パーティを3つにわけるぞ
ヨハン、ラグランジュ、ファビオラ、ゴッラ
ランサック、ザザ、クロウ、カプラ
ケロッパ、カッスル、タイラン、ヨルシカ
ということで、ケロッパ組がボスをやっつけたぞ
◆
魔王の分体が絶叫を上げる。
ヨルシカの渾身の斬撃は命の核に届いていた。
赤黒い液体が飛沫となって宙へ舞い、床へ落ちた瞬間、まるでそれが合図かのように部屋のすべてが凍りついたかのように静寂に包まれる。
カッスルとタイラン、そしてケロッパも動きを止め、ただヨルシカの背を凝視していた。
「やった……か?」
声とも息ともつかぬような、カッスルのかすれた言葉が部屋にか細く響く。
実際には「討ち取った」と断言できるほどの安堵があるわけではない。
これまでの戦いがあまりにも苛烈で、しかも相手は魔王の“本体”ですらない。
全員が確かめるように魔王の分体の骸へと視線を注いだ。
ずるり、と断面からこぼれ落ちる内臓と赤黒い粘液。
それらが床の上で何度か痙攣するようにうごめき、やがて力なく動きを失う。
分体の血肉はゆっくりと黒ずんでいき、まるで長く放置された死骸が急速に腐敗するかのように萎縮していった。
「……終わった」
ヨルシカが低く呟き、サングインを引き抜いて一歩後ろへ退く。
その目は充血し、表情は達成感よりも疲労感が強い。
ヨルシカは胸元を押さえながら肩で息をつき、そのまま膝を折りかけた。
「ヨルシカちゃん……大丈夫?」
疲労困憊のタイランが駆け寄ろうとするが、その足取りもまた弱々しい。
たった数分前まで全身を燃やすような闘気を漂わせていた拳士が、今にも倒れこみそうなほど消耗している。
ケロッパも随分と老けた様に見える。
カッスルは「無事、か……?」と言いたげに口を開くが、うまく言葉を出せない。
何も言わないままカッスルはヨルシカたちのそばに寄り添う。
頬からは汗が滲み落ち、さきほどの戦闘の熱が未だ抜けきっていなかった。
四人全員が満身創痍だ。
そのとき唐突に部屋全体が微かに揺れた。
いや、正確には“揺れ”というよりは“ひび割れ”に近い感覚が足元から伝わる。
床を踏みしめた足裏に小さな亀裂が広がるような、そんな妙な気配が走ったのだ。
「いまの……何?」
タイランが思わず声を上げると、あたかもそれに呼応するかのように部屋の空気に翳りが生まれた。
空間そのものが薄く灰色がかった色味を帯びはじめる。
まるで部屋の彩度が少しずつ奪われ、モノクローム化していくようだった。
「色が……なくなっていく?」
ケロッパが信じられないという表情であちこちを見回す。
この空間そのものから、赤や黄、黒といった“色”が一つずつ剥がれ落ちているようなのだ。
「こんなの、初めて見る……まるで、世界自体が崩壊しているみたいだ」
息を飲むような静寂。
先ほどまでの激闘の名残で血だらけになった地面さえ、どこか白茶けた無彩色へ変わりつつある。
肉の匂いや血腥さは変わらず漂うというのに、視覚だけが色を失う違和感。
カッスルは「やっぱり終わっていなかったのか」と小さく吐息を漏らし、うねりの魔剣を手に立ち上がった。
不意にケロッパが突然息を呑んだ。
キッと"上"を睨みつける。
まるで何かとてつもなく強大で名状しがたい存在に睨まれたような寒気を覚えて身を振るわせる。
明確な意志を伴う巨大な圧の感。
「これは……まるで、途方もなく巨大な“なにか”が、こっちを見ているような……そんな感じがするんだ。みんなも……感じる?」
星の暗黒に潜む“渦”がこっちを覗いているような。
「お……おい、勘弁してくれよ。もう、ワケのわからん強敵はお断りなんだが……」
カッスルは軽口を叩く余裕があるように見せているが、その顔は血の気を失って蒼白だ。
「……この部屋、崩れ始めてる!」
今度はヨルシカが鋭く叫ぶ。
色を失った空が淡いモノクロの粉を撒き散らすようにして崩れ落ち始めた。
「い、急いでここから出るよ! じゃないと、巻き込まれる!」
ケロッパが声を震わせて言い、体をかろうじて支えながら駆け出す。
だが逃げるといってもどこへ逃げるのか。
この異空間のような場所のどこを見渡しても扉のようなものはない。
最初に入ってきた扉を探す四人だがしかし、みつからない。
そうこうしているうちに、四人は空間の崩壊に巻き込まれ──
◆
──何かに、吸い込まれている
ヨルシカは上下も判然としないまま、"転移"にも似た感覚を覚えていた。
そして次の瞬間、誰かが荒い息をつく音が聞こえた。
カッスルだ。
「は、はあっ……み、みんな、無事か……?」
彼の呼び声に、タイランとケロッパが反応する。
ヨルシカは胸を押さえつつ、頭を振って状況を確かめる。
目を開けると、そこは最初の広間だ。
扉が三つ。
そのうちの一つを通って四人は若き魔王の元へと辿り着いたのだ。
そしていま、四人は最初の広間へと戻った。
「戻ってきた……?」
ヨルシカが床に片膝をついたまま、広間の状況を見回す。
「他の連中はまだ戻ってきてないみたいだな」
カッスルが言う。
「私たちが一番乗りかしら? こんな感じでみんなが部屋の奥の、ええと、まあすンごい強いのを斃せばアレがひらくわけよね?」
タイランが指をさす方向にはこれでもかというほどの厄を放つ、黒い大きな扉があった。
「そうだね……ところでさっきの事だけど。みんなは……なにか、見えた? あるいは、聞こえたとか……」
ヨルシカの問いに誰もはっきりと答えられなかった。
だが皆がみんな同じような辛気臭い面をしている。
「ヨハンならこういうのも知ってそうなんだけどなあ」
ヨルシカがぼそりという。
彼女が知るヨハンという男は、この手の話にはやたらと詳しいのだ。
「みんな無事だといいわね……」
タイランの言葉に、ヨルシカは小さく頷いた。