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星の果ての邂逅③~ケロッパ、カッスル、タイラン、ヨルシカ組~

 ◆


 力のある存在は時として自身の身を分けたり、変容させたりする。


 何かしらの目的が存在したとして、その目的に沿った器というものがあるのだ。


 例えるならば豆を拾って数えなければならないといった時、剛力満ちた天を衝く巨人と非力な子供ならば、どちらがより素早く事を為せるのかという話である。


 しかしただ身を分ける事はできない。


 核とする根源が無ければ分けた身を維持できないのだ。


 例えば上魔将マギウスはその身を四つ身に分ける。


 その根幹にして核である死……そして病、傷、老を司る分け身へと。


 マギウスを討つにはまず病、傷、老を司る三体のマギウスを討たねばならない。


 死に纏わる三要因を司る化身を全て滅ぼしたその時に初めて本体たるマギウスの命に手をかける事が出来るのだ。


 それと同じ事を魔王もやっていた。


 魔王は記憶を触媒とし、世界を多層に切り分けていた。


 全ては"それ" を封じる為だ。


 魔王は星の果てからやってきたナニカを時間軸に沿って細分化し、過去・現在・未来という異なる時期に分散させて封じ込めている。


 これが何を意味するのかと言うと、この場は過去の果ての大陸と言う事だ。


 魔王もまた過去の魔王。


 力に満ちた若かりし頃の魔王であった。


 ・

 ・

 ・


 ぎゅると抉る様に放たれた突きはしかし、魔王の肌を貫く事が出来なかった。


 突きは背の皮膚の表面で止まっている。


「なぁッ!?」


 カッスルが驚愕の叫びをあげる。


 ──地竜の表皮もぶち抜くってのに! 貫けないのはまだしも傷を負わせることすらできねぇってか!? 


 カッスルは追撃をせず、素早くその場を離れる。


「児戯よ」


 魔王が大きく脚を踏み出す。


 するとケロッパの左目からツと血色の涙が流れ、頬を伝った。


 掛けた術の一部が破れ、同時に反動でケロッパ自身も傷ついた。


 如何なる魔術にも代償は要る。


 触媒が必要なのだ。


 その触媒は有形無形のものに分けられ、無形のものは身を切るタイプである場合が多い。


 ケロッパの場合は知識と魔力だ。


 彼が行使する理術は例えるならば、広い荒野のどこかにいる誰かに声を掛けるようなものだ。声が届く範囲は狭い。大声を出しても狭い範囲でしか届かない。


 声の大きさが魔力、どちらの方角へ声をかけるかが知識である。


 だが大声を出せば喉は枯れ、あるいは破れてしまうかもしれない。


 そうなった結果が今の傷ついたケロッパだ。


 ◆


 ──二重に束ねた超重を、こうも簡単に返されてはたまらないな


 ケロッパは自身から凄まじい勢いで魔力が流れゆくのを感じている。


 その残量が致命水位へ至るまで、そう長くはない。


 ケロッパは仮に自身が死ぬとしても、最終的に勝利するならばそれは必要経費として割り切る事が出来ると考えていた。


 これは戦いに身を置く者……それも手練れの思考だ。


 そういった割り切り方ができなければ潜り抜ける事が出来ない、そんな戦場は存在する。


 だが、とケロッパは内心で苦笑した。


 そういった割り切り方をする事で命を落とす戦場もまた存在するのだ。生きてこそ、生きようとしてこそ浮かぶ瀬もある。


 ・

 ・

 ・


「ちょっとちょっとちょっと~!」


 緊迫した戦場に似つかわしくない声が響いた。


 タイランだ。


 中域出身の禿頭の拳士。


 心と体の性が異なり、迫害から逃げてきた自称乙女。


 上衣を脱ぎ捨てており、筋肉に(よろ)われた肉体美を見せつけている。


 なぜか汗まみれなのは、魔王のプレッシャーに圧されての事だろうか? 


「押されっぱなしじゃないの! 私が時間を稼いであげるから、何とかしてよね~! ヨルシカちゃんも少し体力戻しなさいよ。──まあ、そうね、呼吸が500か600か、それくらいは稼いであげるわ」


 そうでもなさそうだった。


「稼げると思うのか」


 魔王が静かに言う。その身はいまだケロッパの術に束縛されているものの、ケロッパの憔悴からして余り長くはもたない事は明白である。


 ずしり、と重く歩が進む度にケロッパの体は傷ついていく。


 タイランは横目でケロッパの様子をチラと見て、ふうと息をついて汗を掌で拭う。


「稼げないかもしれないわね~。でも不思議なんだけれど、魔王様ならなんで大きい魔法で私たちを一気にやっつけてしまわないのかしら。舐めているのかなと思ったけれど、もしかしたら使えないのかなと思ったのよね~。それにしても暑いわね、ねえ、ちょっと魔王様、私って汗臭いかしら?」


「いや臭くはねぇけど、流石にちょっと……どうしたんだよ」


 カッスルが呆れたように言った。


 ドバドバと、どろどろとタイランは汗を流している


 カッスルはタイランの汗が空気中に混ざり込んでいるんじゃないかと思ってしまって気分が悪くなってしまった。


 ──俺ぁ、男の汗のにおいを嗅ぐ趣味はねえんだよ


 ◆


 タイランの無駄話に魔王は答えず、緩慢な動作で左手の人差し指と中指を立てて右脇へ構える。


 まるで剣を横一文字に振り切ろうとしている剣士の所作だ。


 ケロッパの術のせいで機敏な動作が出来ないものの、魔王の動きから濃密な死の気配が漂ってきている事をその場の誰もが理解できた。


「ヤバ! それ魔法? 冗談抜きで死んじゃうからやめてよ。ねぇ、そもそも私たちって戦う必要があるの? 魔王様はここで何かを守っていると思うのよね、何を守っているのか私、すっごく気になっちゃう! 話せばわかるって言うでしょう? 人と魔族でも、分かり合える事って出来ると思うのよね。ほら、市井に紛れ込む魔族だっているって話でしょう?」


 タイランは構わず只管べしゃり倒し──……それを見ていたヨルシカは既視感を覚えた。


「いい加減に黙れ、下賤」


 ──גזר(ガズラ)


 ガズラとは切り取るという意味を持つ魔法の言葉だ。


 これは物体を切断するのではなく、空間を断ち切る。


 しかし、魔王が宙を横引こうとした瞬間。


「あ、それはダメよ」


 タイランがその場でショートアッパーを繰り出した。


 魔王の手首が跳ね上がり、魔法行使が中断される。


「まあもう、話し合って済む段階は過ぎちゃってると思うし、私の方も準備は済んだからちょっと付き合ってよ、時間稼ぎに……」


本日は「イマドキのサバサバ冒険者」のコミカライズ最新話が更新されておりますので、コミックウォーカー、ニコニコ静画などからご覧いただければ幸いです。基本的に更新はコミカライズ更新に合わせるようにしています。ただ、月2回更新だと少ないのでもう少し更新回数増やします!


それと3/4にコミックス一巻が発売されます。印税で煙草沢山買いますね!


さらに下部でいくつか作品も紹介しているので、食指が伸びそうなものがあればそちらもお願いいたします!


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他に書いてるものをいくつか


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 頑張れタイラン! おか〇のマッチョは強く美しい花と決まっているのです!
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