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黒門

 ◆


 それを残心と言っていいのかどうか。


 クロウは腕をだらりと垂らして、天井を仰いでいる。


 足元はおぼつかない。


 今にも倒れそうなクロウだが……


「クロウ様!」


 ファビオラがかけより、その体を支える。


「魔力切れ、じゃないな。魔力を流す肉体そのものが擦り切れているのだ」


 ヨハンが苦々し気に言う。


 その口調はクロウのていたらくを責めるというよりは、自身の無力を責める様な響きがあった。


 ヨハンとしては初撃で呪殺してしまうつもりだったのだが、それが上手くいかなかったことでクロウに負担を強いてしまった事に責任を感じているのだ。


「すまないな。俺が一撃で仕留められれば良かったのだが。術の選択が悪かったと認めよう。有言実行できないと言うのは術師失格だ。もう二度と殺しが得意などとは言えないな」


 ヨハンは頭を下げ、それを見たヨルシカは目をひん剥いた。


 彼女が知る限り、ヨハンという男は滅多に頭を下げ……


 ──いや、自分に非がある時は普通に謝ってたような気がする


 普段が無駄に偉そうなのでなんだか誤解してしまう。


 心中で "ごめんね" と謝り、ヨハンの尻をぽんぽんと二度叩いた。


「ともかくクロウは十分働いてくれたし、後は魔王までの障害は我々で排除しよう。勇猛な剣士、拳士諸君が奮闘してくれるに違いない」


「いやいや、アンタも何かしようぜ。いや、砂漠では助かったけれどよ」


 ランサックが言うと、ヨハンは床に唾を吐き「俺より働いてから言え」と言い捨てた。


 ◆


 いつまで下らない話を、とレグナム西域帝国で"剣聖"の称号を戴くラグランジュが怒鳴りつけようとした時、広場の奥での生々しい肉でできた壁が突然ぼろりと崩れた。


 その奥には、暗く不気味な通路が続いている。


 一行の視線がカッスルとカプラに注がれる前に、二人は既に通路に向かっている。


 この辺りは流石にプロといった所だろう。


 仮に罠にはまって死んだとしても、それはそれで罠を一つ看破出来て良し、というような腹の括り方をするのが斥候という人種だ。


「今度は私が前、お前が後ろ」


 カプラが短く言い、カッスルが頷く。


 一行は無言でその通路に足を踏み入れる。


 肉で出来たような通路を進むと、やがて彼らの前にひらけた空間が現れた。


 ちょっとした広場だ。


 オルセンと戦闘した広場と同じくらいだろうか。


 そんな広場の奥には階段が見える。


 階段を上った先には、また広場。


 下階のような不気味な様相ではなく、壁の各所には業物と思われる剣や様々な武器がかけられている。


 壁は肉壁ではなく石壁だった。


 今度の広場には階段はどこにもない。


「あら、上にいけないわね……でも……」


 悩ましそうな様子でタイランが言い、広場の奥に目を向ける。


 広場の奥に黒く大きな扉がある。


 異様であった。


 黒く光沢のある表面には複雑な紋様が刻まれており、長く見ていると紋様が蠢いている様な錯覚を覚えるのだ。


 扉全体が濃密な厄を放っている様にも見える。


「俺の霊感が囁いてる。逃げろと。が、そうもいくまい。仕事だからな……」


 連盟術師ヨハンはそういうなり、扉へと近づいてしげしげと文様を眺めて言った。


「封印、かな?」


「わかるのか?」


 アリクス王国の剣士、"百剣"のザザの言葉に、ヨハンは頷く。


「魔を封じる類のものだ。以前、似たようなものを見たことがある。石像に悪魔が封じられていてね、法神教、いや、旧法神教の連中と協働して事にあたった。この手の封印を解くには四方、或いは三方に触媒を配置するというのが通例だが……」


 ヨハンは周囲を見渡し、首を振った。


「ないな。それらしきものは無いようだ。隠ぺいされているようだが、それを見つけ出すのは俺の仕事ではない」


 言うなり、カッスルとカプラを見る。


「へいへい、俺らの仕事だなそれは。多分、どこかに隠し扉なりあるんだろう。迷宮で腐るほど見てきたぜそういうのは」


 カッスルとカプラが周囲の壁を調べ始める。


「……見つけた」


 カプラが巧妙に偽装された隠し扉を発見した。


 特定の箇所を押すと、石壁が開いて内部への入り口が現れるのだ。


 だが問題があった。


「こっちも見つけたぜ。おっと、もう一つ」


 カッスルが言う。


 そう、問題は隠し扉が3つもあることだった。


2024からは少しずつ刻んででも進めていこうと思います。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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