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閑話:アステール興亡

 ◆


 遥か昔、アステール星王国という国があった。


 彼等はこの星の住人ではない。外宇宙からの旅人であった。

 しかし彼等の母艦 "アステール" は恒星間飛行中にエンジントラブルに見舞われた。結果として、彼らの母艦はイム大陸に不時着する。この瞬間から彼らの運命はこの星と深く結びつくことになる。


 技師たちは母艦を修繕しようと試みるが、この星の文明レベルは低く修繕は難航する。そもそも素材が手に入らない。最終的にこの星で新しい生活を始めるという決断が下される。


 外星系人たち…アステール人達は特異な能力を持っていた。

 それは魔法でも魔術でもない、他星系ではPSI能力と呼ばれる力である。火を出したいと思えば容易く生み出し、氷が欲しいと思えばそれも同様。あの岩が邪魔だと思えば岩は宙を飛び、任意のタイミングで任意の強さの風を吹かせる事も出来た。勿論種もあるし仕掛けもあるが。


 その能力を活かし、アステール星王国の基盤は短期間で確立される。この星の住民も彼らの技術や文化に感銘を受け…というより、彼等の力にあやかりたいという思いからアステール人たちを受容していった。


 原生人類はアステール星王国の技術力に目をつけ、彼らを人類勢力に取り込もうとする。アステール人たちはこの提案を受け入れる。彼らはこの星で生きていくと決断していたから、原生人類との関係悪化は避けたかった。


 レグナム西域帝国の皇帝ソウハクは、アステール人たちに正式に土地を分け与え、王国を名乗ることを認める。この瞬間、アステール星王国という国が正式に誕生する。


 原生人類とアステール人たちの蜜月は長く続く。


 そしてある時、アステール人たちがある程度現地に馴染んだ頃、イム大陸で第一次人魔大戦が勃発した。


 ◆


 結論から言えば、魔族達は人類に全く抗し得なかった。というより、アステール星王国にといった方が正しいか。


 イム大陸各地で築かれた魔軍の陣地を空を舞う巨大な船が空爆する。アルデバラン級空中機動巡洋艦だ。


 遥か(そら)の果てへ戻ることを諦めたアステール星王国は、その技術力を星の覇権を握る事へ注ぎ、そして完成したのがアステール星王国が誇る航空機動艦隊である。


 後の世でイム大陸の戦史でも航空戦が行われる様になるが、アステール星王国はこの時点では1000年以上時代を先取りしていた。


 魔族は魔法に長ける。

 しかしそれが何なのか?

 いかなる魔法であっても、高度1万メトル近い飛行体を撃墜するような魔法を行使できるものはほぼ皆無である。


 ・

 ・

 ・


 ロラン王国上空。


星霊恒炉(エーテルリアクター)起動。星衝(ヴォル・タ)発射準備」


 戦艦 "アステリア" の艦長席から黒髪の美女が指示を出す。


 8隻からなるアステール星王国空母打撃群を統括するルイゼ・シャルトル中将は掲げた手を振り下ろした。


 空の彼方から降り注ぐのは流星群の様な砲撃の雨である。

 襲い来る星の雨に対し、上魔将マギウスは暗黒の帳を展開する事でこれを防いだ。しかしこの様な一部の上級魔族は砲撃を防げたものの、アステール星王国が擁する航空機動艦隊は各地に散開しており、魔軍は次々に撃滅されていった。


 ◆


 ──魔軍恐るるに足らず


 アステール星王国が沸き立ったのも無理はなく、こうなれば勢いに乗って本土爆撃、そしてアステール星王国、星光騎士団団長カリギュラ・デイン率いる王国騎士団を投入し、一挙に魔王の首級をとってしまおうという第一次トゥーデンス上陸作戦が立案された。


 トゥーデンスとは "トゥード"という魔物に由来する。北方に生息するトゥードという魔物は『ムグー!』と奇矯な鳴き声をあげる生物だ。普段は穏やかな気質だが、一度激昂すると合金混じりの肌にモノを言わせて、凄まじい速度で突進してくる。ちょっとした岩壁などぶち抜いてしまう。トゥーデンス上陸作戦とは、果ての大陸の北部海岸線がトゥードの滑らかな背のようであるので名付けられた。


 作戦指揮をとるのはルイゼ・シャルトルの弟であるマルセル・シャルトル少将だ。"星落とし"のマルセル、一個人で戦略級の星術を行使できる俊英。


 本来ならば中将であるルイゼが出張るべき場面だが、ルイゼは船を飛ばす為に多大な魔力を消費していたし、なにより個人戦力としてはアステール星王国の最大戦力の一角である彼ならば問題はないだろうと作戦は決行された。


 しかし結局の所、その作戦は失敗に終わる。


 圧倒的な技術格差により魔族を蹂躙していたにもかかわらず、アステールの艦隊はただの一隻たりとも帰還しなかったのだ。


 アステール星王国は当然激憤した。

 王国が誇る圧倒的科学力、そして星術とよばれるアステール独自の異能。これらによってかの王国は大陸最大勢力を誇る様になり、その国力は西域の覇者であるレグナム西域帝国に影をも踏ませないものだった。


 当然プライドがある。国のメンツがある。

 アステール王国は次から次へと艦隊を繰り出し、空からが駄目ならばと海上から果ての大陸を攻め立てた。


 そしてそれら全てを喪ったのである。

 なぜ壊滅したのか、魔族がアステール星王国以上のテクノロジーを有していたのか。それとも果ての大陸には何かがあるのか?何か、触れてはいけないものが?


 戦力の大半を消失したアステール星王国だが、それを魔軍が放置する筈もない。複数の上魔将、下魔将がアステール星王国を強襲した。


 だが、アステールは滅びなかった。

 本土強襲には失敗したものの、アステール人が依然恐るべき異能者である事に変わりは無かったからだ。


 ◆


 ――星の光を薪と焼べ、鏖せよ塡星


 アステール星王国、星光騎士団副団長シド・デインが掲げた大剣 "極光" に黄土色に輝くオーラが宿る。

 塡星は破壊と腐敗を齎す必殺の象徴であり、この星術 "塡星" はシドが行使する9つの星術の中でも範囲あたりにおける殺傷性能が高い。


 その滅光に危機感を抱くのは強襲軍を率いる上魔将オレイカルコス。大地に掌をあて、数キロメトルに渡り高くそびえる岩壁を作り出す。上魔将オレイカルコスは大地に干渉する魔法を得意とする。城攻め、国攻めにはうってつけの能力であった。


 しかし…


 ――南より来たりて万理を解し散らしめよ


 星の力がシドに満ちるやいなや

 黄土色の輝くオーラと共に、"極光" を横薙ぎに払った。


 §§§


 最初のアステール人達はそれこそ万能とも言える様な異能を備えていた。火を起こそうと思えば火は起き、水が飲みたいと思えば宙空より水を生成し、風を受けたいとおもえば吹かせる事ができた。結局の所それはどの様な力なのかといえば、森羅万象の原理を理解し、膨大な演算を行い、望む事象が発生するように "切っ掛け" となるトリガー現象を引き起こしていたに過ぎない。


 例えば火を起こすための "トリガー"とは簡単に言えば引火点に達する熱量や酸素と燃料の適切な組み合わせなど、火が発生するために必要な条件を満たす瞬間や要素の事を言う。


 アステール人がこのトリガーを引き起こす場合、彼らは自然界の法則を理解し、その上で複雑な計算を行う。


 その結果、燃料(例えば木材やガスなど)が引火点に達するような熱量を発生させたり、酸素と燃料が最適な割合で混ざり合うように環境を操作することで、火を起こすことができる。


 しかし代を重ねるにしたがって、アステール人たちの異能は現地、つまりこの星、この世界の原理原則と混じりあった。強い想いが願いを為すこの世界の魔術原理とアステール人たちの異能、それらが合わさったのが星術である。


 強い想い…すなわち、自分達のルーツである星々にまつわる逸話の数々、その逸話に付随する超常的な現象の科学的理解、これらの要素が組み合わさり、星術は爆発的な出力を持つ一術体系として確立するに至ったのだ。


 §§§


 物は、生物は何故、どの様に腐り果てるのか。朽ち果てるのか。それらを科学的に理解した上でなお自分達のルーツである星々へ憧憬と信仰を捧げた者にしか放てない光。


 それが塡星の光である。


 触れればたちまち腐れ落ちる腐敗の魔光は魔軍を横断し、そしてそれは上魔将オレイカルコスが生み出した岩壁もろともかの魔将をも滅殺した。


 星光騎士団団長カリギュラ・デインの息子であるシド・デインは、若くして限りなく極まっていたのである。


 残る魔軍はシドに恐れをなし、軍を退く。

 魔王を除けば魔軍最強、上魔将マギウスをして勝てぬと判断したこの時のシドは世界最強と言っても過言ではなかった。


 そして結局、第一次人魔大戦は魔王を初代勇者が封じることで終結した。だがそもそも初代勇者はどの様にして果ての大陸へ渡ったのか。


 一説によれば海を凍てつかせて道を作っただとか、聖竜の背に乗り空を渡っただとか、そういった説がまことしやかに嘯かれていたが、それも信憑性に欠ける。


 だが噂の一つに『初代勇者は魔王に招かれた』というものがある。


 なぜ魔王が勇者を招くのか。

 あからさまに罠だろうに、何故初代勇者がその招きに応じるのか。


 あるいは、勇者と魔王、双方の敵が存在していたからか。

 真実は定かではない。


 ◆


 第一次人魔大戦後、アステール星王国は徐々に衰退していく。魔族による画策ではなく、人による画策だ。更に具体的にいえば、西域の覇者レグナム西域帝国による画策である。


 帝国は弱体化したアステール星王国の技術に目をつけていた。しかし正攻法はどうもまずい。ゆえに最初はアステールに対して下手に出て…警戒心を解いた。


 そしてある程度の関係が構築されてきた所で人魔大戦である。勿論、だからといってアステールへ攻めこんだりはしない。それに世界の危機であることも間違いない。ゆえに表面上は協調した。


 待ったかいもあり、アステールは果ての大陸へ大戦力を注ぎ込み始めた。これはアステールの驕りゆえだろう。結局、かの国は技術力に劣るこの星の民を、生物を心の奥底では舐めていたのだ。だから殴りつければ黙ると思っていた。しかし果ての大陸に向かった戦力は悉く未帰還。


 戦力の逐次投入は愚の骨頂である事もわすれ、アステールは貴重な戦力を次々失っていった。


 そして戦後、復興に手をつけるアステールの横っ面を殴りつけたのが帝国である。


 アステールは徐々に磨り潰され、突出した個人戦力も衆寡敵せずとばかりに少しずつ削られ、最終的に国が消滅した。


 一部の有力者たちは国を脱した。

 それは個人で大国に抗する事は不可能だと理解していたからだ。その中にルイゼ、そしてシドらも居た。勿論他の者らもいたが、そういった者達も時の流れの中へ消えていった。


 ただし、全員ではない。

 復讐に燃えるルイゼは大悪魔に何かを捧げ、そしてシドは輪廻の奇跡により、極々一部のアステールの民は時を超克して現在に至る…。

本更新のシドは拙作の「曇らせ剣士シリーズ」の主人公です。こちらもよろしくお願いします。曇らせ剣士のほうはハッピーエンド曇らせコメディなかんじです。

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