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東へ②

 ■


 一行はどこか弛緩した様な雰囲気で東を目指して進んでいた。

 勿論実際に気が抜けているわけではない。

 力は入れるべき所で入れ、そうでない時は抜いているのが丁度良いのだ。


 12人もいれば自然とグループみたいなものが出来、ぼっちなのはアリクス王国の上級斥候カプラだけであった。



 一行の列の半ばあたりには、三つの人影が横列になっているのが見える。左からクロウ、ヨハン、ヨルシカの三名だった。

 クロウは連盟とはなんぞや?という疑問をヨハンに尋ねたかったのだ。


「組織という訳じゃないんだ。何処かに本拠地がある訳でも無ければ会合の様なモノが開かれる訳でもない。役職がある訳でもなければ、魔導協会の様に等級を定めている訳でもない。敢えて言うなら箱庭だよ。俺と師ルイゼを除き、連盟の術師は皆マルケェスに "開かれて" いるが、マルケェスはそういう人間を集めて楽しんでいるんだ」


 クロウの問いに、ヨハンは事も無げに答える。

 開かれている?とクロウが疑問を浮かべると、まるで読心したかの様にヨハンが続けた。


「ああ。君も知っているだろうが、強い想いというものは強い力となる。それが覚悟でも決意でも殺意でも敵意でもなんでも良い。純粋に想えば想う程、それらは輪郭を帯びてくる。つまり願いが叶うという事だ」


「とても飢えている者が居たとして、自身の飢えが拭われる事を強く強く想えば、その者が手に触れるものをパンへと変える魔術を覚えても不思議ではない。だがね、帝都近辺はマシだが、この西域にも名も無き寒村なんて山ほどある。飢えで死ぬ者もいるだろうな。そういった者が魔術に目覚めたなんて話は聞いたこともない。なぜだかわかるかい?」


「例えばだが…君に意中の相手が居たとして、時や場所を考えずに適当に想いを告げたとする。それで恋が実る場合もあるかもしれないが、まあ失敗するだろう?だが、相手の事を知れば知るほど成功する可能性が増すと思わないか。例えば好きな食べ物、例えば趣味…。そういうものを知り、相手の状態…現在どういう気分なのか、想いを告げられるとしたらどういう状況を好むのか…そういうものが分かれば告白はより成功しやすくなるとおもわないか。マルケェスが "開く" と、その辺りの事がよく分かる様になるんだ。分かれば "正しく" 願える様になるのさ」


 ──敵を知り、己を知れば…ってやつかな?


 ヨハンの言葉にクロウは合っているような合っていないような、そんな事を思いつつ、ちらと奥のヨルシカに目を向けた。

 強い警戒心が混じっている視線が先程から突き刺さってきていたからだ。臨戦態勢とまでは言わないものの、仮にこの場でクロウが剣の柄に手を掛ければたちまち死闘が始まるだろう。


 平時のクロウと戦闘時のクロウはかなり様子が異なり、前者はともかく、後者はちょっと酷い。故に、後者のイカれクロウを見たヨルシカが彼を警戒したのは無理からぬ事であった。


 ──警戒されているな、一応は仲間なのに


「いや、彼女は君を警戒しているかもしれないが、敵意などは持っていないと思う。まあこれが最期の戦いになるかもしれないから、赤の他人である君よりも私と話せという事なんだろう。公私混同かどうか怪しい所だが、これでいて周囲へは十分な警戒を向けている。気を悪くしないでくれよ。ついでに言えば、俺もヨルシカ…妻と話したい。結婚したばかりだからな。色々と熱い状態なのさ。さあ、他に質問はあるかい?なに?ない?じゃあ俺が話そう。ロイという男のパーティに加わっていた頃、ガストンというチンピラ斥候から可愛い女魔術師と縁を繋いでくれと頼まれた事がある。冒険中にだぞ。信じられるか?まあ今の俺たちも緊張感がないと思われるかもしれないが、大丈夫だ。俺は警戒用の意識と雑談用の意識に分けられるんだ」


 と、またもや読心したかのようなヨハンの言だが、話の出汁にされたヨルシカは暫時頬を赤らめ、やがて軽い怒気を瞳に宿し、ヨハンの脇腹をペシッと小突いてから歩を緩めて背後で聞き耳を立てていたファビオラの横に移動した。


 ■


 ファビオラは是が非でもクロウの子を産まねばならないので、ちょっとした会話からも趣味嗜好を把握しなければいけない…と思っている。なにせ彼女が少ない時間でしっかり調べた所では、クロウという青年はちょっとした雑用というか労働を好んで行い、中でも草むしりが好きだというしょうもない情報しかない。


 クロウが望むのなら、例え自身が公爵令嬢の身の上だろうとも土に膝をついて、王都中の雑草を抜き、根絶してやってもいいと覚悟しているファビオラだが、やはりもう少し情報が欲しい所だった。結句、やっている事はバレバレの盗み聞きなのだからファビオラも少しアレではある。


 そんなファビオラは突然隣にやってきたヨルシカに、困惑の色を隠さなかった。頻りに目をしばたたかせ、ちょっとした挨拶をしようとおもったものの…


「あら、ご機嫌麗しゅう…」


 などという、公私の意識が混濁して混乱している事がありありと分かる様な中途半端な事を口にした。


「いや、そこまで畏まらなくても。やあ、改めてよろしくね。知っていると思うけれどヨルシカだ。貴女は公爵令嬢だというけれど、普通に話しても大丈夫かな?命を預けあう仲間だし」


 ファビオラは彼我のコミュニケーション能力の格差に慄き、しかしそんな内心を表出することはせずに楚々と微笑んだ。

 とはいえ、微笑んだは良いもののどういう会話をすればいいのかさっぱり分からない。ファビオラは高位貴族だが、コミュニケーションはどちらかと言えば苦手であった。


 そもそもフラガラッハ公爵家自体がべしゃりを苦手としてきたのだ。第二次人魔大戦時代、後のフラガラッハ女公爵となるファラ・トゥルーナ・フラガラッハ公爵令嬢は、婚約者であるシルマール…当時のアリクス王国王太子へ粉をかけた男爵令嬢に決闘を挑み、首をはね飛ばしたのだが、その直情径行気味の性格は延々とフラガラッハ公爵家の者に受け継がれている。(スピンオフ『アリクス王国・婚約破棄』参照)


「ファビオラ、貴女はあの勇者殿と結婚すると言っていたけれど、やっぱり女性としての振る舞いを家から教えてもらっているのだろうね。この戦いが終わってからでいいのだけれど、良ければ貴族としての振る舞いを教えて欲しいんだ。私も青い血は流れているけれど、色々事情があってね。戦いが終われば帝都に住む事になるとおもうし、それに一代とはいえ貴族になる事になっているから…」


 ヨルシカは爽やかな笑顔で言う。

 先程は怒ったふりをしたヨルシカであったが、男二人話したいこともあるのだろうと席を外したのである。


 クロウの事をイカれだと思っている事は間違いないが、考えてみればヨハンも相当だと思うし、なんだったら実力者連中を思い出してみたら皆キワモノばかりだった事に思いが至り、シルマリアとの戦闘の時におぼえた感情は大分鳴りを潜めていた。


 だが、それはそれとして暇だからファビオラに絡みに行ったという次第である。ヨルシカとしては他の者達とも話したかったが、皆が皆…カプラ以外は他の者と談笑しており、ちょっと割って入りづらい雰囲気ではあった。


しょうもなおじさん、ダンジョンへ行く

というしょうもないローファンを書いてて更新遅れちゃいました。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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