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死雨の出迎え

 ■


「これはこれは!随分と辛気臭いじゃないか、果ての大陸というのは!地面の赤いのはなんだい?ええと、血に見えるけれど血ではないのかな!匂いがしないものね!じゃあなんだろう?素手で触れるのは少し危ないかな?ウフフ!空も見たまえ、我々が転移門に踏み込んだのは夜更けだ、であるのにうっすらと周囲が見えるのはどういう理屈だい?もう夜明けを迎えたとでも?…ありえる!ありえる話だね、あの暗黒の回廊の距離はせいぜい1000歩といった所だが、その間に外界では夜が明ける程の時間が経っていたという所だろうか?」


 転移門から出てきたゴッラ…その肩に座っていたケロッパが地面に飛び降りて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらブツブツと独り言を言った。


「頓狂な御仁だな」


 そんなケロッパを眺めていたラグランジュは少し疲れたように言う。ラグランジュとケロッパ、ゴッラは合流地点へ向かう際に同じ馬車だったが、どういう因果かなんだかんだで行動を共にする様になっている。


 男嫌いのラグランジュではあるが、ケロッパとゴッラに対しては嫌悪感が湧いてこないのだ。

 男性として魅力があるからというわけではなく、ケロッパは研究狂いでゴッラは喋るゴーレムといった感じで、男性性というものを全く感じない事がその理由であった。


「セ、センセ。さわったらだめだ、のむのも、だめ」


 地面に頭を近づけて、くんくんと不気味な赤い液体の匂いを嗅ごうとするケロッパにゴッラが注意をする。

 ゴッラはケロッパをセンセと呼んでいる。

 この黒い肌の巨漢が膝ほどの背丈しかない小男を尊敬しているのが傍目からも分かった。


「術師ケロッパ、先を急ぎましょう。ほら、勇者は既に先に行って…しまっていませんね。きちんと我々を待っている。意外と協調的な性格なのかな」


 ヨハンもケロッパを促す。

 視線の先にはこちらを振り返ってぽつねんと佇むクロウの姿があった。どこか所在なさげなその様子は、得も知れぬ庇護感を掻き立てられる。

 そんな彼の姿に思うものでもあったか、ファビオラが小走りでクロウの元へ駆け寄っていった。


 ・

 ・

 ・


「勇者様、待っていてくださったのはありがたいですが、一人離れてはなりませんよ。ここはもう敵地、魔族の戦力は大半が侵攻に回ったとはいえ、それでもすっかりからっぽになる事などないのですから…」


 お姉さんぶったファビオラが指を一本立てると、それにつられた様にクロウが上を向いた。


「ええと、勇者様?そういう意味では…」


 ファビオラがそこまで言って、自身もハッと上を向く。

 なにやら不自然な影がいくつも飛び交っているのに気づく。それらは鳥らしきものだが、何かが違うように感じた。


 ・

 ・

 ・


 かつてアステール星王国は海を行く船団、そして空を行く船団で果ての大陸を急襲した。

 これらの船団は正体不明のトラブルに見舞われ、そのほとんどが未帰還で終わったが、正体が明瞭であるトラブルに見舞われた艦も僅かながらに存在した。


 その正体とは何か。

 鳥である。


 ■


 その鳥に名前はない為、便宜上“魔鳥”と呼ぶ事にする。

 その鳥は、体長約60cm、重さ約1.5kgほどの中型の猛禽である。濡れたような艶のある黒い羽は金属を思わせるようで、美しくもどこか禍々しい。嘴もまるで闇を塗り固めたような黒色で、魔力を帯びてない状態でさえも安物の板金鎧程度なら容易に貫く強度を有している。


 更にこの鳥は果ての大陸全体から放射される得体の知れない何かの影響を受け魔力を扱えるようになったおかげで、色々と無茶が利く身体能力を得るに至った。


 約1.5kgの物体が時速約2000kmで降下して来た場合、その運動エネルギーは約251,500ジュールとなり、これは重さ650kgの軽自動車が時速100kmで衝突した時のそれに匹敵する。


 こんなものが直撃した場合、魔力がどうとか身体能力がどうとかそういう問題ではどうにもならない深刻な被害が発生する事は自明の理である。


 一羽ならばまだ対応できるかもしれない。

 業前優れた者ならば回避も出来るだろう。

 軍艦の類なら何羽か衝突したところで損傷軽微で済むかもしれない。


 ではそれが10なら?100なら?1000なら?

 かつてアステール星王国の数個艦隊に深刻な損害を与えた死槍の雨が勇者一行へ降り注いだ。


 ■


 ──我が手に集うは吹き荒ぶ暴風

 ―――其は報復の刃、フラガラッハ


「斬るッ」


 ファビオラの左手が深く青い光を放つ。

 蒼光のヴェールが彼女の手刀を覆い、伸長。

 瞬間、幾つもの有機的な幾何学模様の剣閃が宙へ描かれた。


 そしてボトボトと落ちる鳥らしき生物の幾つもの死骸。


 血統魔術“フラガラッハ”はフラガラッハ公爵家の者にしか使用できないとされている。如何なる鎧も引き裂き、その刃に斬られて出来た傷は決して癒える事がない。


 彼女は一応剣士という事になっているが、厳密に言うと魔術師である。一通り剣術は修めている彼女ではあるが、実戦で剣を振れば“フラガラッハ”を喪失してしまう。

 物理的な防御を無意味なものとし、治癒を阻害するという強力な効果を実現するためには、それ相応の覚悟と資格が必要なのだ。フラガラッハ公爵家の血を継ぐ者が資格、そして生涯実剣を振るわないというのが覚悟である。


 ちなみに法術に“神聖刃”というものがあり、これは右拳を握り、親指側の方で胸を叩き、まるで胸から剣を引き抜くかのような所作を取りつつ、左手の人差し指と中指で宙に聖印を描かねばならないが、“フラガラッハ”の場合は正統詠唱か、あるいは斬るという意思のみで発現する。


 “神聖刃”と“フラガラッハ”は共に光刃を生成する魔術だが、前者の斬撃が光熱による溶断であるのに対し、後者は分子結合を破壊しているという大きな違いがある。


(数が、多い!クロ、ゆ、勇者様は!?)


 一羽なら当然、それが五羽でも十羽でもファビオラには物の数ではなかっただろう。しかし余りにも数が多すぎた。

 一呼吸でファビオラが斬り落とせるのは数羽に過ぎない。

 だが空から飛来してくる死の弾丸の残弾はまだ何十何百とあるのだ。

この回でMemento-moriの更新を停止します。

暫く同じ流れになってしまいますし。

ただ、アリクス王国防衛戦はMementoのほうに書きます。

帝都防衛はサバサバにかきます。

なお、本文中の各種数値とかは指摘不要でお願いします。

まあ大体そんな感じなんだなくらいなノリで…。

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鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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