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戦場百景⑥~マリーの秘策~

 ◆


 ギマのストンピングがギオルギの頭部を激しく打ち付けた。だが


「おォっと…?」


 ギマの足首をギオルギの手がガッシリと掴んでいる。


「魔族よッ!!この地は我等の地だ!土を噛み、腑中よりそれを知れィッ!」


 ギオルギが渾身の力を込めてギマを振り回し、地面へと叩き付けた。

 周囲の尖兵達はそれを止めようとするが、振り回されたギマに打ち付けられ、吹き飛ばされる。


「どうだ!母なる大地の味は!」


「旨いかァッ!」


「ぐおらァァァアアッ!!」


 叩き付けの回数が5、10、15と増えていき…不意にギオルギは眼を見開き、ギマの足首を離した。


 ――何度叩きつけても、てごたえを感じぬ

 ――どういう事だ

 ――これも彼奴の体術か?


 宙空からどさりと地面に落ちたギマはしかし、大して堪えていないように立ち上がる。

 その表情には苦痛ではなく呆れが浮かんでいた。


「劣等…貴方様は狂戦士か何かで?無駄な力が多すぎますよゥ…流れゆく力は、すこぉしいじってやるだけでその矛先を変えますねェ。おや、低脳すぎて言葉では理解できませぬか?ではこのギマが1つ業をお教えいたしましょうか、そのお体に…」


 丁寧ぶって言うギマの言葉からは、所々毒素が漏れている。


 するすると近寄ってくるギマに、ギオルギは雷を帯びた左の正拳を放った。


 その拳をギマは左掌で受け止め、同時に体をやや左にスライドさせる。


 更には掌に流れる電撃はギマの体を伝導し、まるで何かに導かれるようにその威力は彼女の右手に収束していった。


 更に左掌で受け止めた拳の勢いを利用してくるくると回り、その回転中にギマは右拳を固めた。


 その拳にはギオルギから放たれた電撃のエネルギーが込められている。


 回転の勢いはギマの右拳から放たれた裏拳に爆発的な推進力を与え、まるで夜空を切り裂く流星のように弧を描いて、ギオルギの右脇腹に突き刺さった。


 ◆


 ギマの一撃によってギオルギの脇腹の肉、骨が砕かれ、叩き潰された。


 いや、それどころではない。


 心だ。

 心で負けた。


 ギオルギはギマと自身の間に埋めがたい格差がある事を感得してしまった。

 敗北とは自身が認めた瞬間に訪れるのである。


(これは勝てぬ…であるならば退いて態勢を立て直し、策を…)


「あら?あら?あららァ?怖気の香りがしますねぇ…このギマが逃すとお思いで?…む!?」


挿絵(By みてみん)

 ギマが嗜虐的に笑い、しかし視線を上空に向けた。火弾がいくつも投射されてくるではないか。


 ◆


「みなさーーん!どんどん撃ってくださぁーい!ギオルギ師が魔軍に1人で突っ込んでしまいましたが大丈夫!こうされても文句言わないからこそ1人で勝手に突っ込んだんでしょうからー!撃てー!撃てー!術師の炎は知性の灯!無知蒙昧な魔族とギオルギ師に知性とは何かを知らしめましょおー!」


 エル・カーラ南門に展開していた術師達は、ギオルギの秘書的立場と目されている女性、魔導協会3等術師ジーナに煽られ、ぽんぽんと術を投射していく。


 怒りがジーナを支配していた。

 矛先はギオルギである。

 ぽんぽんと仕事を投げまくってくるギオルギ。


 面倒且つ重要な仕事を投げてくる事甚だしく、それでいながらも自分は好きにやって、しかも窮地に陥っているのだ。


 術師とは結局自身の事しか考えていない間抜けばかりであって、利己利己利己、利己の群れでしかないのだ、とジーナはほっぺを膨らませていた。


「仕事を投げるギオルギ師、対して火弾を、爆炎弾を投げる我々。お互いが投げあう事で調和が齎されます…」


 盛大な投射爆撃を見て、うんうんと頷くジーナ。

 それを同僚の術師達は怪訝な顔をして眺めていた。


 ◆


 ――好機!


 ギオルギはほんの僅かにギマの気が逸れたのを確認し、悲鳴をあげる身体を叱咤しながらその場を全速力で離れた。


 あっ、とギマが声をあげるが、ギオルギはそれに構わず脱兎の如く遁走していく。


 背後では火弾が着弾し、次々と大地に赤々とした炎の花を咲かせていった。


 ◆


「すまないね」


 手当てを受けながら軽く謝罪するギオルギに、ジーナは笑顔を浮かべて労った。


「魔軍の戦力調査お疲れ様でした。鞘当てで死に掛けるとは豪気だなぁーと私は感服しました。あ、そうだ、先ほど志願の生徒さん達がいらしましたよ。ギオルギ師にお話があるのだとか…赤い髪の毛の元気なお嬢さんでしたけれど」

本作は拙作内でクロスしてたりスピンオフが存在しています。

例えばイマドキのサバサバ冒険者は、Memento-Moriと同一世界観、時間軸ですが主人公や舞台が異なります。

サバサバ冒険者は西域、Mementoは東域での話です。作者ページより確認して下さい。


なお、イマドキのサバサバ冒険者とMemento-moriは両方同時に完結させます。

更に、両作品の最終盤では更新内容は同一となるかもしれません。


またそれぞれの話にそれぞれのスピンオフがあります。

例えば本作に登場する連盟術師ヴィリを主人公とした「白雪の勇者、黒風の英雄」や、黒金等級冒険者曇らせ剣士シドシリーズなど、本編よりカジュアルな感じで執筆しています。


また、ノクターンではイマドキのエチエチ冒険者というR18作品を書いています。

これは本編には一切関係ありませんが、シーン切り取りでAI画像などを使い、大人のシーンを書いたりしています。


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他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
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鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] イケおじで地位も力もあってちょっとやんちゃなとこもありつつしっかりへっぽこで逃げ足は速い…… ギオルグ師の女たらし感がリアル過ぎるっ……
感想一覧
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