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第四次人魔大戦

 ◆◆◆

挿絵(By みてみん)

 その日、世界に闇が侵蝕した。

 果ての大陸を縛鎖する広域結界が崩壊したのだ。

 封じられていた闇の魔力が世界中へ拡散していく。青い空は不吉な黒雲で覆われ、瘴気混じりの雨が降る。


 これは法神という存在が消えた為である。

 法神は確かに魔族の傀儡ではあったが、それでも法神の存在こそが魔族を封じている…という共通概念があった以上、存在そのものが封印に影響を強く及ぼしていた事は否定出来ない。


 では、そもそもなぜ法神は傀儡であるのに魔族を封印していたのか?

 それは勇者の存在が大きく関わってくる。


 勇者は光神の残滓による選定により選ばれ、そして法神より力を賜り覚醒する。

 法神は光神を乗っ取る形で生まれたのだから、光神の権能…機能、役割をある程度は引き継ぐ必要があった。

 魔族としても勇者など誕生させたくはなかったが、法神を法神として存在せしめる核となるのはあくまでも光神なのだからこれは仕方が無い。


 よって魔族は法神による信仰の乗っ取りを継続した。勇者という存在を見逃してでも、世界から搾取する祈りの力というものは大きかったからである。


 ただ魔族側としても単に勇者を見逃すわけではなく、勇者という世界の希望に力を与えるであろう神々を出来るだけ滅ぼすなり無力化しておくという策は巡らせていた。


 勇者が恐ろしいのは、神から賜った力だけではなく、“世界の希望”であると言う概念をも有する点だ。

 ただ勇者であると言うだけで世界に存在する他の神々は勇者を祝福せざるを得ないのだ。


 だから法神教は苛烈な異端弾圧により、他の神々を廃していった。

 樹神に対して魔族が干渉したのもそれが理由である。


 とはいえ勇者は傀儡の神の使徒ではあるが、勇者の役割を全うせんとしてはいたのである、少なくともこれまでは。


 初代から三代にかけての勇者は皆そうであった。

 しかしどの勇者も完全に魔王を斃すには至らなかったのは、やはり最後の最後、法神の加護と言うものが眉唾であったと言う事実と、あとは加速度的に勇者へ流れ込む力が減衰していった点が原因であろう。


 四代勇者の頃にいたってはその力を大きく落とし、上位の魔族にすら敗北する有様であった。

 四代勇者は上魔将マギウスに惨殺されたが、仮に勇者の力がもっとも大きかった初代勇者と相対していたならば、結果は真逆であった筈だ。


 魔王ではない魔族にすら敗北するほどに勇者という存在は力を落とした、よって魔王が再度の敗北を喫する心配はない、だからこそ今。


 第四次人魔大戦がここに勃発したのだ。

 そして、開戦の狼煙は余りにも急であった。


 西域はレグナム西域帝国へ、東域はアリクス王国への魔軍侵攻である。

 特にアリクス王国は開戦と同時に複数の有力貴族が殺されるという憂き目に遭ったため被害が大きかった。


 侵攻は迅速であった。

 魔王の転移門により、果ての大陸から直接侵攻してきたのだ。

挿絵(By みてみん)

 転移門と便宜上は言うが、実際それは真っ黒い巨大な積乱雲のようなものだ。

 黒く巨大で不吉な雲から魔物達が侵攻してくる。

 人々は恐れ、逃げ惑った。


 ◆◆◆


 レグナム西域帝国・帝都ベルン

 ――帝城


挿絵(By みてみん)

 レグナム西域皇帝、サチコの瞳が神秘を湛えた。

 帝都に、臣民に迫る脅威を感知し、その権能を更に強化しようとしているのだ。


 帝国占星院の予知は封印破綻、魔王復活を告げ、サチコは皇帝としての権能を行使すべき時が来たのだと判断した。

 それに占星院の予知を信じる信じないの段階ではもはやない。

 帝都の空が見る見る内に闇に覆われていくではないか。帝国占星院は、崩壊した帝都、いや世界…死屍累々の暗黒の大地をも予知した。

 これは放って置けば必ず実現してしまう未来だ。


 サチコがある種の覚悟を決めねばならなかった原因である。


 そう、サチコの、レグナム西域帝国皇帝、『愛廟帝』サチコには固有の術がある。

 それはある一定以上サチコへ好意を持つ帝国臣民に忠誠という名の鎖をくくりつける術だ。


 常時起動のその術の触媒は帝国臣民の国を思う愛国心。


 愛国心は忠誠の炎を燃やす燃料となり、忠炎に焼かれた帝国臣民は更なる愛国心を生産するのだ。サチコに対しての敬意、敬愛というものが欠片もない者には効果を及ぼさないが、精神汚染、洗脳系の術式としては古今東西を見渡しても有数に強力な術である。


 勿論平時ではそのように強力な効果は顕現しない。せいぜい体調が少し良いとかその程度である。だが帝国の危機ともなれば話は別である。

 その時こそ帝国臣民は狂戦士と化して外敵に襲い掛かるであろう。


 幼いながらも帝国臣民を愛するサチコが、臣民を死をも恐れぬ戦士へと変貌させるとは何たる皮肉か。


挿絵(By みてみん)

 傍らに控える帝国宰相ゲルラッハの目に怒気が漲る。


 戦後、サチコは泣くであろう。

 自身のせいで多くの臣民を死に追いやった事を嘆き悲しむであろう。


(許すまじ、魔軍)

読んでくれてありがとうございます。★評価、ブクマ励みになります。

本作は拙作内でのクロスオーバー要素やスピンオフの別作などもあります。

スピンオフなどはストーリー管理でまとめます。


西域物語

https://ncode.syosetu.com/s1933h/


R18指定版

イマドキのエチエチ冒険者というノクターン版の同人誌みたいなのもかいてます。

リンクはっていいかちょっとわからないので、これはお手数ですが検索で。

18禁のほうは全話えちちなAI画像アリで、一話完結の小話程度のものです。


スピンオフやえっちなのは基本的に本編既読前提ということで書いています。

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他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
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イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
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47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
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鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] R18サイトページへのリンクはアウトですよー。
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