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★逃避(アゼル挿絵アリ)

 ■


「穏健派って人達、穏健とは言うけれど話を聞く分には全然穏健じゃないよね」


 ヨルシカの疑問にヨハンはごもっともと頷いた。


「穏健、過激とは言うがぱっと見で分かる両者の違いは殺す前に話を聞くか、話を聞かずに殺すかの違い程度しかないからな。厳密には理念などが全く違うが……。物騒なのはどちらも変わらん。話がしやすいのは穏健派だ。ただ、話がこじれると厄介なのも穏健派だ」


 ヨハンとヨルシカは馬車に揺られながら雑談をしていた。

 言うまでもないがウルビスで最も高級な馬車便を利用している。向かう先は聖都だ。直行便とは流石にいかないので乗り継いで行く事になる。


「穏健派と過激派が争ってるらしいけれどさ、穏健派のほうが数は少ないのに優勢ってちょっと凄いよね。字面だと過激派のほうが、なんていうのかな……強そうだし?」


 過激派も過激派で厄介なのではあるが、厄介な者らとより厄介な者らが争えば後者が勝る……と言う事だ。

 穏健派の者らの強さの根幹は法神への信仰心なのだが、教会上層部の者達は法神がなんたるかを知っている。

 知っていてもその信仰を保ち続けると言うのは生半可な事ではない。

 そこまで強く心を保てる理由はやはり中央教会が実際に民草の為に行動して来たという実績が硬く太いバックボーンとなっているからであろう。

 例え法神が真なる神ではなかったとしても、その教えに従い民草を救ってきた自負心が極めて強固な信仰心の源となっているのだ。


 とはいえ、過激派の持つ“野心”と言うものも馬鹿には出来ない。野心とは欲望である。欲望とは人間の持つ最も根源的な力の源流である。


 穏健派と衝突しながらも速やかに派閥解体とならないのは、過激派が相応に強大な力を持つ事の証左であろう。


「まあな。率直に言わせて貰えば穏健派も過激派もイカれているよ。だが今後魔族との生存闘争が始まると言うのなら、そのイカれた者達は大きな力になってくれるだろう」


 ヨハンがそう言うとヨルシカは憂鬱そうに頬杖を突きながら答えた。

「だけどその過激派がキナ臭いっていうんだろう? 私達に累が及ばないといいのだけれど」


 全く同感だとヨハンは頷いた。

 マルケェスの話では過激派と魔族の繋がりが臭いらしい。

 過激派全体がそうなのか? それなら悪夢だ。


「全くため息が止まらないな。過激派全体が糸を引いていないと言うのならば、過激派の首魁に統制を取ってもらいたい……そう思うのだが……」


 思うのだが? とヨルシカが後を引き取ると、ヨハンは苦々しい表情で続けた。


「過激派の首魁は第三次人魔大戦の際に滅びたアステール王国王家直系の血を引く……8つの少女だ。要するに傀儡と言う事だ」


 ◆◆◆


 上魔将マギウスは自身の罅割れた左腕へがらんどうの眼窩を向けた。罅は左腕だけではない。

 纏った黒いローブは所々穴が空いていたし、端はやや焦げてさえいる。


 マギウスの眼窩の奥に暗い炎が灯る。

 炎はゆらゆらと揺らめき、まるで嗤っている様に見えた。


 やがて暗い色の炎は揺らめきを収め、骨だけの指を前方へ指し示す。

 するとマギウスの影からなにか悍ましいものが這い出し、駆け出していった。


 足元には一等審問官アゼルの無残な遺体があった。

 遺体は滅茶苦茶に損壊されている。

 特に頭部だ。

 アゼルは上顎と下顎を掴まれ強制的にこじ開けられ、口の部分から引き千切られていた。


 余りにも無残だ。

 次期勇者選定は間違いないとまで謳われた男の、勇者に選定されなくとも腐らずに研鑽を積んできた男の死に様としては余りにも哀れである。


 死体はアゼルのものだけではない。

 名も無き青年の死体……それはまさしく勇者だった青年の死体。その傍らには剣身の半ばから圧し折れた長剣が転がっている。聖剣だ。


 アゼルが命がけで稼いだ時間はその部下達が逃げるには十分とはいえず、マギウスの放った追っ手に大半を狩り殺されるも、二等審問官ミカ=ルカだけは命からがら逃げ延びる事に成功した。


 だが安心は出来ない。

 ミカ=ルカは聖都を目指し逃げるが、マギウスの追っ手は今猶彼女を追跡している。


 ヨハン達がマルケェスの元へ訪れる少し前の出来事である。


 ────────────────────────────────────────────────

挿絵(By みてみん)

 一等異端審問官【光輝の】アゼル:


 覚醒した勇者を除けば中央教会でも最大戦力の一角と言っていいほどには強い。

 例えば不死なる月魔狼に憧れた悍ましき赤魔狼等などは彼が単身で殺しつくせる程には。


 法神の真実を知った時、彼は更にその力を高めた。

 それは自身が救世主であると改めて確信したからだ。

 法神を偽りの神だと考えたわけではない。


 法神は更に高い次元に存在すると考え、その上で自身の化身を現世へ遣わしたと彼は考えた。

 アゼルは自身の事を“真の法神”が救世を行う為に必要な使徒であると考えている。


 正しくそれは狂信に他ならない。

 だが、その狂信はアゼルに光を行使する力を齎した。


 彼が光在れと唱えれば世界創世に生まれたとされる原初の光が降り注ぎ、あらゆる神敵を滅ぼす……筈であった。


 上魔将マギウスに敗北。

 死亡。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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