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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第93話 繋がってゆく線の先に見えた解と謎

 ギルドで何が起こったのかを知るために、フランシスと向かい合って座る事となった。

 テーブルに置かれた紅茶を飲む。

 温かで芳醇な味が口の中で広がっていくが、それよりも聞きたい事が幾つかあって、そのために俺はここへとやってきた。


「で、知恵を貸せってのは、どういう事だ?」

「アンタは関所内で他殺を即座に見抜いたから、その知恵を借りたくてねぇ」

「それは分かったから、サッサと説明しろ」


 何があったのか、ギルドマスター本人の口から聞いた。

 発端は、その噂が広まっていたところからだった。

 冒険者が殺害された事については本当は箝口令を敷かれていたはずだったのに対し、何故かその噂が流出してしまった。

 それによって、事件に納得の行ってなかったミシェーラとやらの耳にも入り、ギルドに直談判しに来たという訳らしいのだ。

 そして、事件前日に睡眠薬を渡していたというナイラ、彼女の話も噂となって一緒に流れていたらしい。


(だから疑われてたって訳か……睡眠薬を飲ませて、それから寝てる間に殺すって筋書きに違和感は無い。いや、違和感が無さすぎる)


 だからこそ怪しく見えてしまい、リボン受付嬢(ナイラ)犯人説が妙に思える。

 事件を振り返ってみるとして、冒険者は自殺に見せ掛けて殺されてしまった。

 それに対して疑問は幾つかあり、何故自殺に見せ掛けたかったのだろうかという最大の疑問があり、冒険者の身に付けていた短剣を使えば死んだように見せ掛けられたはずなのに、という推論にまで達していた。

 しかし、ここでナイラ犯人説が正しかったとして、あんな非力な女が大の男を引っ張り上げられるだろうか?


(呪術を使えば肉体強化くらいできるのか)


 あの状況をセッティングするには、少なからず筋力が必要となる。

 魔法でも構わないだろうが、ナイラは斥候職に位置しているそうで、パワープレーとかは無理だと否定される。


「恐らくナイラは犯人じゃない」

「ほ、本当かい!?」

「あぁ、だが睡眠薬を渡したのが事実なら、他の証拠が無い以上は彼女が犯人にされちまう」


 今回の一連の事件が彼女、というのは有り得ない。

 それを確かめるために俺はギルドに戻ってきたので、そのためにフランシスへとお願いをする。


「今まで行方不明になった冒険者達のギルドカード、見せてくれないか?」

「そりゃ別に構わないさ。だが、何に使うんだい?」

「いや、少し確認したい事があったんでな」


 訝しげな表情で見てくるフランシスだったが、何とか了承を得られた。

 そして彼女が席を離して、俺達だけが取り残された。

 俺は一応念の為にセラへと声を掛ける。


「セラ、防音結界って張れるよな?」

「勿論。この部屋全体で良いかしら?」

「あぁ、頼む」


 セラに部屋の防音付与をお願いした。

 やはり彼女を連れてきて良かったと思う。


「『魔法付与(エンチャント)・サイレンス』」


 彼女の掌から半透明な魔法陣が現れて、それが球状となってこの部屋全体へと広がっていった。

 これで外へと音が漏れる心配は無いだろう。

 本当に素晴らしい力だ。


「それより何で防音結界なんて張らせたのよ?」

「俺の仮説を聞いてもらうためだ」

「仮説?」

「そうだ。今回の事件について、皆に話しとこうって思ってな」


 今回の事件に裏付けされる仮説を、彼女達に一から説明した。

 全員が話を聞いていく中で、最初は何の特徴も無い表情を晒していたのだが、俺の話を聞くにつれて固かった表情も次第に驚きへと変貌していき、最後には全員が唖然とした表情を繕っていた。

 そこまで驚く程のものでもないのだが、それでも話は理解してくれたようだ。


「でもさでもさ、もしレイの仮説が正しいんならさ、ソイツは何で冒険者を殺したのよ?」

「そこなんだよなぁ」


 仮説と言っても、結局は推論でしかない。

 だから犯人が何故冒険者を殺さなければならなくなったのか、その事が分からない。

 何のために冒険者を殺したのか、単なる口封じのようには見えないし、突発的な殺人だったように思えてならない。


(何かあったって事なんだろうけど……)


 さて、何があったのやら。

 俺の左目はまだ完全には扱い切れていないからこそ、過去や未来を見通す事ができない。


「待たせたね」


 フランシスが、アタッシュケースを片手に戻ってきた。

 それを受け取り、テーブルの上に置かれていたカップを退けてケースを置いた。

 パチッと鍵を開けて、中を開く。


「こ、こんなに……」


 誰ともなく呟く声が聞こえてくる。

 それも理解できるのだ、何故ならそこには六十枚以上のカードが保管されていたのだから。

 しかし霊王眼で確かめてみるが、痕跡らしき痕跡は見当たらなかった。

 こんなにも多くのギルドカードが保管されているのに、何一つとして痕跡が見つからないため、当てが外れたのかと落胆する。

 だが、もしかしたらこれで良い(・・・・・)のかもしれない(・・・・・・・)


「何か分かったかい?」

「あぁ、何も痕跡が見つからなかったって事が分かった」

「結局、手掛かりは無かったって事さね。カッコつけんじゃ無いよ」


 格好付けてる訳ではないのだが、ここでも分かった事がある。

 要するに、俺の考えてた可能性と矛盾しているのだ。

 だが、それで構わない。

 矛盾している事が、今俺に必要な手掛かりを立証してくれるのだ。


(犯人は多分あの野郎だが……)


 それでも、まだ判明していない事の方が圧倒的に多すぎるのだ。

 だから何もできずに後手に回る。

 先手を取るためには先んじて罠を仕掛ける必要があるのだが、その前に犯人の特定が先だ。


「はぁ……結局、何処までも職業の問題が付き纏うのか」


 誰が何の職業を持っていたところで、結局は誰にでも犯人に成り得る。

 使い方次第、俺だって階層喰い(フロアイーター)を操って人を襲わせる事もできるが、俺と似たような能力を持っていたとしても不可解な事が起こりすぎている。

 職業は千差万別、同じ職業だったとしても使い方次第で如何様にも変化してしまう。


「そういえば三日後に掃討作戦が決行されるそうだな。なんでも、『真実を映す宝玉(トゥルース・オーブ)』の使用許可が下りたとか」

「あぁ、そうさね。すでに本部では準備が進んでいるだろうさ」


 本当に掃討作戦が決行されるとは、半信半疑だったのだが信じても良さそうだ。

 だがしかし、誰が参加するのか知らないので俺から口出しはできない。


「レイグルス、お前さんに一つ依頼したい」


 その瞬間、この部屋はピリピリとした空気となった。

 人の命が掛かっているからこそ、彼女は俺という不確定要素に頼まざるを得ない。


「依頼内容は?」

「掃討作戦への参加さね。お前さんの力なら、奴を倒せるだろうと見込んでのものさ」


 つまり、彼女は冒険者を信じられないのだろう。

 倒し切れないかもしれない、そう思ったからこそ俺という切り札を用意する。

 魔神騒動の報告を受けている彼女なら、俺の実力も知っているだろう。


「幾ら?」

「は?」


 受ける受けない、それを答える前に俺が要求したのは金銭だった。

 金、或いは同等の価値を持つ何か、それを俺は求める。

 冒険者なら、当たり前だ。


「おいおい、俺は歴とした冒険者だぜ? 報酬を要求するのは当然だろ」

「なら――」

「割に合わなきゃ受けないがな」


 冒険者は命を賭ける仕事だ。

 割に合わなきゃ誰だって仕事を受けないため、俺は高額請求する。

 たとえ冒険者全員の命が掛かっていたとしても、俺は自分を優先する。


「俺の価値はアンタが決めろ。一ノルドでも一億ノルドでも構わないが、仮に金額が低かった場合は二度と俺の手を借りられないと思え」


 要するに犯人の後釜が出てきたりした場合、俺しか解決できなかったとしても、その価値で決めてしまったのだから俺は参加しないという事だ。

 高すぎても駄目、低すぎても駄目、価値を決めるという事はとどのつまり、未来を見据えて冒険者に先行投資するというものだ。

 それに、俺は貰った金の分だけ働く。

 それ以上働くかは金額次第だ。


「もし金を払いたくない場合は、俺の頼みを二つ聞いてくれたら引き受けてやっても良い」

「た、頼み?」

「あぁ、ちょっとした事だ」


 金には興味が無い。

 だからこそ交渉として先に無理難題を吹っ掛け、その上で俺の本当の狙いへと誘導していく。


「どうする?」

「……頼みってのは?」

「あぁ、それは――」


 フランシスへと二つの頼み事を伝え、彼女は考えるようにして唸った。

 今後のための頼み、先を見据えたものだ。

 一つは俺個人の問題、もう一つは事実確認のための情報提供、どちらも俺にとっては大事な問題だからフランシスにしか頼めない。


「片方は了解したよ。後で攫われた冒険者達のプロフィール全部持ってくるさね。だが、もう片方のは流石に無理だ。アタイにはそこまでの権限は無いよ」

「そうか……」


 それは残念だな。


「まぁ、とにかく分かった。掃討作戦には参加させてもらうとしよう」


 とは言っても名義上入るだけで、俺が入ったところで連携なんて無理な話だ。

 俺には協調性というものが欠けている。

 なので、一応作戦には参加するつもりではあるが、恐らく俯瞰しているだけだろう。


「じゃあ、ちょっと待ってな。もう一度必要なものを取りに行ってくるさね」


 再び彼女が何処かへと出て行ってしまった。

 俺が頼んだ事は二つ、一つは行方不明となった冒険者達のプロフィールの閲覧許可、もう一つは俺個人の問題に対する後ろ盾の確立だった。

 このフラバルドに来る前、ルドルフというギルド総本山にいる男から刺客が送られてきた。

 俺の能力欲しさに利用しようと画策しているのだが、それを防ぐための後ろ盾が欲しかったのだ。


(まぁ、支部のギルドマスター程度だったら、後ろ盾もあまり効力は得られないか……)


 支部を務めるギルマス権限は低いらしい。

 しかしながら、推薦状は何処でも使えるために少し欲しいと思った。

 いずれは冒険者の国、星都ミルシュヴァーナにも行く事になるだろうし、その時のために幾つか準備はしておきたかった。

 報酬として貰えればと思ったのだが、流石に見立てが甘かったと思い知らされる。


「ねぇ、何で犯人の事を話さなかったのよ?」

「話したら速攻で捕まえに行って、逃げられる可能性があるんだ。それに証拠も無いしな」


 ただの俺の推論、それをギルドが信じるとは限らない。

 だから俺は可能性の話をギルドへと伝えない。


「それに、ギルドそのものが信用ならない」

「アンタねぇ。いや、まぁ確かにアンタの言う通りなのかもしれないけどさぁ」


 相変わらず、俺の性格に文句があるらしい。

 少しは信じてやれ、なんて事を口走ったりはしないようだが、そう思っている事には違いない。

 と、ここでドアの外からノック音が聞こえてきた。


「あの〜」

「アンタはさっきの……」


 ドアの向こうから顔を覗かせたのは、金髪の受付嬢ナイラだった。

 白いリボンを揺らしながら、部屋の中に入ってきた。


「さ、先程は本当にありがとうございました。お、お陰で助かりました」


 が、彼女は犯人にされて落ち着かない様子を見せているので、彼女からも話を聞く必要がありそうだと判断して、フランシスが座ってた場所へと座らせる。

 睡眠薬を前日に冒険者へと渡していた事が気になったからである。


「それで、前日に睡眠薬を渡したのは本当なのか?」

「い、いえ……実は、職場に普段自分の使っている睡眠薬入りの瓶を置き忘れて、それが一つ無くなってたんです。多分、冒険者様が持ってかれたのだと思いますけど、探しても何処にも無く……」


 つまり、噂として流れていたのは嘘で、本当は盗まれてしまったのだとか。

 どんな薬なのかと思っていると、ポーチから瓶を取り出して俺へと渡してきた。


「盗まれたって言ったよな?」

「あ、これは予備の瓶です」


 用意が良いな。

 そこまでして眠れないのだろうか?

 ともかく、俺は錠剤タイプの睡眠薬を受け取って、それを視てみた。


「……」


 粉薬だったとしても、錠剤だったとしても、飲んだのだとしたら不思議な事がある。

 薬は基本、水と一緒に飲む。

 錠剤を水無しで飲んだ場合、食道とかに引っ掛かったりして食道潰瘍……だったか、胸焼けや嚥下障害を引き起こす病気となる。

 粉薬なら気管から肺に入って肺炎となるかもしれないために、水と一緒に飲むのが当たり前なのだ。


(確か遅効性の睡眠薬が体内から検出されたんだったよな?)


 写真を見る限り、ベッドと椅子以外の家具は無かった。

 水と一緒に飲むのが普通なので、どうやって水を手に入れたのかが気になるところではあるが、コップとかも無かったし、もしかして錯乱した状態で外に出た?

 いや、問題はそこじゃない。


(何故殺されたか、だ)


 あったのは寝るためのベッドのみで、本当は椅子も無かったはずだ。

 錯乱状態だったのだから、何処かから椅子を持ち出してくる事なんて無理だろうし、ロープも天井の照明に結び付けた。

 そこが可笑しいと思った。

 だから自殺は不自然だと考えた訳だし。


(犯人が薬瓶を盗んだ場合は、冒険者を眠らせて殺す事ができたが、冒険者自身が盗んだとしたら何のためだ? この瓶には何も書かれていないし、俺のように特殊能力があった訳じゃない)


 霊王眼でも効能は見ての通り、この薬はそこまで強めのものではない。

 争った形跡が無かったため、犯人が睡眠薬で眠らせてから殺した、という受け取り方もできるのだが、もしかしたら寝静まるのを待ってたのかもしれない。

 少なくとも目の前の女が犯人ではないだろう。

 彼女が犯人なら、間抜けすぎる。

 盗まれたという言葉にも嘘は無かったので、ある程度は信頼できるな。


(しかし、だったら何で体内から睡眠薬が?)


 冒険者が混乱していて盗んだ場合、何処かに瓶が落ちてるだろうし、犯人が盗んだ場合は瓶が見つからなくて普通だろう。

 仮に冒険者が眠りたくて睡眠薬を飲んだとしたら、その次の日に死ぬなんて考えてなかっただろうし……


(それだと何故殺す必要があったのかが謎だな)


 可能性が幾つもあるのに、ゴールまでには障壁が何枚もある。

 ゴールへ歩いていくと必ず何処かで袋小路に行き詰まり、泥沼に足を取られてズブズブと身体が深みに嵌っていく感覚がある。


「待たせたね……ナイラ、アンタここで何してんだい?」

「ぎ、ギルドマスター!? す、すみません! 今すぐ出ていき――」

「ちょっと待て、まだ聞きたい事がある」


 戻ってきたフランシスと入れ違いにナイラが出て行こうとしたため、呼び止める。

 詳しい状況を聞く事ができたのだが、まだ聞いてない事があるため、座らせる。


「なぁ、最初に死体を発見したのは誰なんだ?」

「わ、私とリューゼンさんです」


 詳しく聞いてみると、二人は朝食の用意をして保護された冒険者へと持って行ったそうだ。

 扉をノックしても返事が無かったため、扉を開けてみると自殺した現場が目の前にあったのだ、と。


「薬も渡しちまったし、最初に発見したって事で疑われてるのさ」

「……」


 ナイラは噂と自分の行動についての矛盾を黙っている。

 ここで、噂はデマです、そう言えばフランシスでも少しは耳を傾けるはずなのに、何故疑いを晴らさない?

 彼女が瓶を盗まれた事をフランシスは知らなさそうだったので、俺は一つ聞いてみる。


「なぁ、その噂って本当なのか?」

「どういう事だい?」

「いや、噂にしては妙なところがあると思ったからな」


 事件の犯人に近付いている最中、こうして噂が流れて矛先がナイラへと向いた。

 お誂え向きだったようだ。

 しかし、噂として彼女の薬が盗まれて噂まで流れたという事は、犯人が薬瓶を盗んで流したと考えられる。


(だったら、どうやって冒険者は薬を飲んだんだ?)


 薬品は資料に載ってたのと同じだった。

 だったら、冒険者が薬を飲めた場合は二パターン考えられる。

 一つ、犯人が冒険者に睡眠薬を盛った。

 もう一つ、冒険者が先に見つけて飲んだ後、犯人に殺されて、瓶は盗まれた。


(そのどっちか、か……)


 前者ならば分かる。

 だが後者ならば、どうして薬瓶を見つけて手を出そうとしたのか。


「誰かが故意にナイラを犯人に仕立てるために流したもんだろうな」

「そ、そんな……」


 彼女が犯人だとしても犯人でなかったとしても、正直どっちでも良い。

 目的も不明だし、何を起こそうとしているのか。


「それより、アンタの要望通り、書類持ってきたさね」

「おぉ、サンキュー」


 フランシスから書類の束を受け取って、それを全て確認していく。

 最初は『蒼月』のメンバー達について調べる必要があったため、一番上から一枚ずつ能力情報について、脳裏に入れていく。


「あった……」

「何を探してたのだ?」

「これだ」


 俺は最初の十枚のうちの一枚をテーブルの上に置いて、全員に見せる。

 そこに書かれていた人間は『蒼月』の一人、例の透明化(ステルス)を持つ人間だった。

 これで確証が得られた。

 階層喰い(フロアイーター)が喰った冒険者の能力を自在に扱えているという事だ。


「チッ……魔神と能力が似てやがるな」


 幸いなのは、魔神のように強くはないという事だ。

 俺はテーブルに置いた一枚のプロフィールを見る。

 名前はサノス、年齢二十五歳、人族で、職業は隠密者と書かれている。

 特段、不思議なところは無い。

 あるとすれば、前にセラが言ってた『蒼月犯人説』が完全に否定された事くらいか。


(度し難いもんだな)


 蒼月の顔のうち何個かは、階層喰い(フロアイーター)の身体に浮き上がっていた。

 つまり全員喰われたという事だ。

 喰った相手の顔が浮かび上がるという事は、霊魂がそこにあるという事でもあり、だからこそ行方不明になった奴等のギルドカードが生存を示している。


「アンタの職業で治せないのかい?」


 アダマンドから聞いたのか、どうやら俺の蘇生能力を知ってるらしい。

 だが、ほぼ無理だ。


「ハッキリ言って不可能に近い。不可能な点は幾つかあるんだが、大前提として蘇生期間は最長三日、次に肉体が無い、そして霊魂が階層喰い(フロアイーター)の中で混ざり合ってる。だから、喰われちまうと助かる確率が一気に減っていく」


 ほぼ不可能であるというのだが、完全に無理ではない。

 今から三日以内までに喰われた霊魂を切り離して、かつ肉体を用意してやらなければならない。

 が、肉体となる素材が必要だ。

 人造人間(ホムンクルス)と呼ばれる錬金術による霊魂の器を作り出して、そこに魂を定着させる事で蘇生が完了する。

 だが、残念ながら三日以上経過した場合、諦めるしかないのだ。


「いや、もしかしたら……」


 因果すら操れる力を霊魂に使えば、もしかしたら三日という期間制限を無視できるかもしれない。

 その考えに行き着いた時、頭が割れるような激痛に苛まれた。


「ウッ――」

「ご主人様!?」


 今まで味わってきた、どの痛みよりも酷く辛いものだ。

 もしかしたら職業の禁忌、なのかもしれない。

 人には決して抗ってはならない禁忌がある、その世界の真理を捻じ曲げようとした考えが、自身の脳が諌めようと締め付ける。


「な、何だ……何かが…見え――」


 激痛によって目眩や平衡感覚喪失が発生し、訳も分からずに俺は一瞬だけ意識が飛んでしまった。

 前にもこんな事があったな。

 そう、グラットポート行きの船で激痛に見舞われた時の事を思い出す。

 そんな中で俺が見たものは、荒廃した焦土の中央で静かに涙を流している男、二本の角を生やし、黒い龍尾が腰辺りから出ている。


(これは……)


 継ぎ接ぎだらけの映像を刹那の時に見せられて、現実へと引き戻された。

 何だったのだろうか、今の記憶は?

 誰かが何故か泣いてるだけの映像で、それを思い出して胸が熱くなった。


「だ、大丈夫かい、お前さん?」

「あ、あぁ……何とか、な……」


 まさか、暗黒龍の記憶が俺に流れ込んできたのか?

 そんな事って有り得るのだろうか……

 痛みも引いたので身体に違和感とかは無いのだが、それでも先程の記憶は一体何だったのか、ダンジョンでの事件を目の前にして、別の事へと思考が移っていた。

 一旦、思考をクリアにして気持ちを落ち着かせる。


「済まなかった」


 改めて書類をチェックしていく。

 モンスターが誰を喰らい、何の能力を得てしまったのかを確認するためだ。

 しかし……これって、狙った人物を喰ってるのか?

 それとも無作為に喰ってるのか?

 前者ならばネロが狙われなかった理由とかが分かるが、もしも後者ならば理解不能だ。


「ん?」

「どうしたのよ?」

「いや、一つ変なプロフィールを見つけたんだ」


 俺はそのプロフィールを取り出して、全員の前に見せる事にした。

 その冒険者の名前はドルネ、年齢二十一歳の人族、ここまでは良いのだが、問題が職業にあり、そこには死霊術師と書かれていたのだ。


「こんな奴いたかねぇ?」

「い、いえ、いなかったと思います」


 ギルドの二人が狼狽しているが、どうやら知らない男らしいな。

 死霊術師が何人いても驚きはしないのだが、何故か違和感を持ってしまったのだ。

 この顔は初めて見たが、初対面なようには見えなかった。

 右目に縦の斬撃傷を持った男で、特徴としては赤い髪に黒に近い紫紺の瞳を持っているようだ。


(コイツ、何処かで……)


 いや、そんなはずはない。

 ドルネ、なんていう名前の奴と知り合いになった事は一度たりとも無いのだから。


「とにかく後は掃討作戦に参加するだけだな。これ以上は発展しそうにないし」


 フランシスに書類を返した。

 知りたい事は一通り知る事ができたので、後はその情報をどう活かすかを考えるだけだが、一つだけ不思議に思う事があった。

 何故、俺達の前には階層喰い(フロアイーター)が姿を見せて現れたのか、だ。

 その行動が不明だった。

 しかし考えても解答は得られない。


「そうだ。掃討作戦に参加するから、その事について互いに色々と確認しときたいんだが、良いか?」

「あぁ、勿論さ」


 分かった事、分からなくなった事、新たに増えた謎、それ等を脳裏に刻み込んで、ギルドマスターと今後について交渉を始める。

 未だ定まらない自分の立ち位置(スタンス)と、矛盾する自身の行動にヤキモキしながらも、俺は彼女と対話を重ねた。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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